相対的貧困とは?日本の現状や問題点、私たちにできることをなどを解説

相対的貧困とは

相対的貧困とは、ある国や地域の生活水準のなかで比較して、大多数よりも貧しい状態のことを指す。たとえば「電化製品を買えない」「学校の給食費や制服費が払えない」など、多くの人が普通に行うことができない状況などが当てはまる。相対的貧困は、国や地域の経済状況や生活水準、人口構造などによって判断されるため、日本と他国で基準は異なる。日本の相対的貧困は、高齢者や単身者、ひとり親世帯が多く、夫婦のみや夫婦と子どものみの世帯は少なくなっている。

絶対的貧困との違い

貧困には大きく分けて「絶対的貧困」と「相対的貧困」の2種類がある。相対的貧困が、国内や地域内の大多数と比較して貧しい状態を指すのに対し、絶対的貧困は、衣食住など生きる上で最低限の生活水準が満たされていない状態を指す。これは、世界銀行が定める国際貧困ライン(1人あたり2.15ドル未満/日)で生活する状況を指している。絶対的貧困に苦しむ人々は、南アジア地域やサブサハラ・アフリカ地域などの途上国に集中している。

相対的貧困率とは

相対的貧困を数字で測る指標として、相対的貧困率と呼ばれるものがある。相対的貧困率とは、国や地域における年間所得の中央値の一定割合に満たない世帯の割合を指す。OECD(経済協力開発機構)によると、2021年日本において年間所得127万以下の世帯が相対的貧困とされ、相対的貧困率は15.7%であった。米国は15.1%、英国は11.2%であり、ほかの主要先進国と比べても日本の比率は高い。

日本における相対的貧困の原因

日本における相対的貧困の原因には、以下の3点が挙げられる。

子どもの貧困率が増加

日本では、1990年代後半から子どもの貧困率が増加しており、2021年の17歳以下の子供の相対的貧困率は11.5%であった。なかでも、ひとり親家庭の貧困率は44.5%と高かった。また、日本財団が2020年に全国の17~19歳の男女を対象に実施した意識調査では、57.6%が「日常生活の中で経済的格差を感じることがある」と回答し、「お金がなく希望通りの進学ができない」「アルバイトなしでは生活できない」など、貧困による苦しい状況が多く報告された。仕事や子育て、家事の全てを行うひとり親は、長時間勤務が難しいことから収入の安定しない非正規雇用となりやすく、それも子どもの貧困へとつながっている。

非正規雇用が増加

統計局のデータによると、非正規雇用者の割合は年々増加しており、2019年には過去10年で最大の38.3%になっている。「都合の良い時間に働きたい」との考えから非正規雇用を選択する人も多いものの、正規雇用者と比べると収入が不安定で福利厚生が不十分であることから、貧困へと陥りやすいとされる。

高齢者の増加

高齢化社会になり年金受給者世帯が増えたことも貧困率上昇につながっている。なかでも、単身の高齢者が増加していることが大きな原因となっている。1980年には男性19万人、女性69万人であった単身高齢者数は、2018年には男性192万人、女性400万人まで増加した。彼らは、1人で生活のすべてをまかなう必要があり、サポートサービスを受ける必要が生じるなど、貯金を切り崩しながら生活をせざるを得ない状態の人が多い。

相対的貧困が引き起こす問題

相対的貧困が引き起こす問題

ここからは、相対的貧困が引き起こす問題を解説していく。相対的貧困は、以下の3点のような課題へとつながる恐れがある。

貧困の連鎖

一度貧困状態に陥ると、貧困から抜け出すことが難しいといわれる。これは「世代間連鎖」も引き起こし、親が貧困であると子どもの将来に大きく影響を及ぼし、子どもが成長しても貧困から抜け出すことが難しくなる。内閣府によると、生活保護世帯の中卒率は全国平均の7倍、大学進学率は3分の1となっており、貧しい環境で十分な教育機会が得られないために、子どもの雇用も不安定となり、貧困の連鎖を引き起こす可能性が高まる。特にひとり親かつ親が非正規雇用で働く世帯でこの現象は起こりやすい。

社会の分断

相対的貧困率が高まると、富裕層と貧困層で仕事や生活、教育などあらゆる分野での格差が広がる。このように二極化すると、住む地域が分かれることによる地理的分断や、価値観の違いによる政治的分断など、差別や対立が起こる原因にもなりうる。つまり、貧困は個人の生活を貧しくするだけでなく、国や社会全体、コミュニティの貧しさにもつながりかねないのだ。

教育格差の拡大

貧困の状態では、たとえ学力があっても希望する学校に進学できないことから、高校や大学進学をあきらめる子どもも多い。また、親の代わりや兄弟の生活のために教育を犠牲にしてアルバイトをする場合もある。時には、塾や習い事、高等教育機関への進学に必要な多大なお金を自ら捻出するケースもあるが、他の子どもたちより体力的・精神的にハードな状況に置かれるため、本来の学力に見合う結果を得られないこともある。そのため、貧困であるほど教育の機会を失い、結果的に大学卒業者などとの教育格差が広がってしまうのだ。

日本における相対的貧困を解決するための取り組み

日本の「相対的貧困問題」が深刻であることから、政府やNPO団体が中心となり、これを解決するためのさまざまな取り組みを行っている。以下、「教育支援」「生活支援」「就労支援」の3つの柱に分けて紹介する。

教育支援

教育面においては、政府による学校生活の費用の補助や、NPO法人による学習支援などが行われている。

●就学援助制度(文部科学省)

「就学援助制度」とは、経済的な理由で困っている家庭に対し、義務教育がスムーズに受けられるよう授業料以外の教育費の一部を援助する制度だ。義務教育では授業料は無料であるため、就学援助制度によって学用品費や給食費用、修学旅行費などの援助を受けることで、十分な学校生活を送れる基盤が整う。

●学習支援拠点の設置(NPO法人 Learning for All)

NPO法人・Learning for Allでは、全国に無償の学習支援拠点を設置し、小学4年生〜高校生までの子どもたちを対象に勉強を教えている。子どもの家庭状況や課題に合わせた支援計画を立て、研修を受けた大学生ボランティアが教師となり個々に寄り添った学習支援を行っている。

生活支援

生活支援では、住宅補助や子ども食堂など、住居面や食事面のサポートが行われている。

●住居確保給付金(厚生労働省)

「住居確保給付金」は、離職などで住む場所がなくなった世帯や、家を失う恐れが高い世帯に対し、市区町村ごとに決められた額を上限に、家賃を原則3か月間支給する制度である。就職活動を行うことを条件として受給できるため、家を確保した状態で安心して新たな職を探すことができる。

子ども食堂(認定NPO法人 全国こども食堂支援センター・むすびえ)

こども食堂支援センターの「むすびえ」は、全国に点在するこども食堂のネットワーク構築を担っている。こども食堂は、子どもが一人でも行ける無料または低額の食堂である。民間発の自発的な取り組みではあるものの、こども食堂の数は年々増加しており、2023年時点で全国約9,000以上にのぼっている。食堂を利用することで、十分な食事をとれるだけでなく、子どもや親の孤立を防止している。

就労支援

就労支援では、無職やひとり親などの安定した就業や自立を目指してサポートが行われている。

●高等職業訓練促進給付金(厚生労働省)

「高等職業訓練促進給付金」とは、ひとり親の方が就職に使えるスキルや資格取得を目指して修業する間、生活の負担を軽減するための給付金を受けられる制度である。資格には看護師や保育士、管理栄養士など専門性の高い仕事が多い。2021年には、給付金制度を利用した人のうち看護師資格を取得した人が4割を占め、その84%が常勤として採用されたデータもある。給付金により生活の不安が軽減されることで、学習に集中できる仕組みになっている。

私たちができること

フードバンクのボランティア

相対的貧困の解決に向け政府やNPO団体が取り組みを行っているなかで、個人にもできることも多くある。

寄付

お金やモノの寄付などは支援の中でも行いやすい方法である。支援の現場に赴くことは難しいものの、何らかの活動を行いたい方にはおすすめだ。国内に数多くの支援団体があるため、団体の支援内容や理念、寄付の活用方法などを入念に調べたうえで寄付をするのが望ましい。

以下は、寄付を受け付けている団体の一例である。

●認定NPO法人Learning for All
生きづらさを感じる子どもたちに学習支援や居場所の提供、食事提供などを行いつつ保護者のサポートも行う

サイトURL:https://learningforall.or.jp

●認定NPO法全国こども食堂支援センター・むすびえ
全国各地にある子ども食堂の支援・ネットワーク構築などを行う

サイトURL:https://musubie.org

●認定NPO法人カタリバ
社会に10代の居場所と出番をつくるために学習や生活サポートを行う

サイトURL:https://www.katariba.or.jp

ボランティア

ボランティアは、困っている人達に対して直接的な支援ができるのが特徴である。たとえば、子どもに対するボランティアには「キャリア相談」「学習サポート」「こども食堂サポート」などが挙げられる。ボランティアは自分の得意な分野で活躍できるため、興味のある方はインターネットや役所などで調べてみるのも良いだろう。

現状を理解して情報を拡散する

個人ができることとして大切なのは、貧困に対する知識を得ることだ。身近で貧困問題が起こっていない場合、社会の実態を知る機会は少なく、問題を知らない人も大勢いる。そのため「インターネットで公的な情報を調べる」「書籍を読む」「セミナーに参加して生の声を聞く」など、さまざまな方法で現状を知ることが大切だ。また、知識を得ながらSNS等で情報発信をするのも効果的である。SNSでの情報発信にて多くの人に伝われば、さらに大きな力になる可能性があるのだ。

まとめ

相対的貧困は、生きる上で最低限の生活水準が満たされていない状態である絶対的貧困とは異なり、国内や地域内の大多数と比較して貧しい状態を指す。日本は他先進国と比較すると、特にひとり親世帯や高齢者、非正規雇用者を中心に相対的貧困率が高い。相対的貧困が続くと、貧困の連鎖や教育格差の拡大などの問題が浮き彫りになる。国内では、政府やNPO団体を中心に生活面や教育面、就労面などでさまざまな支援が行われている。

しかし、身近に貧困で困る人がいないことや、外から見ると中々気づきにくいという理由から、世間ではこの問題について深く知る人は少ない。まずは現状を知ることから始めて、身近にそのような存在の人がいるかもしれないということを理解すると同時に、日常生活でできる取り組みをしていくことが大切ではないだろうか。

【参考文献】
相対的貧困とは?絶対的貧困との違いや相対的貧困率についても学ぼう|ワールドビジョン
相対的貧困率等に関する調査分析結果について|内閣府
各種世帯の所得等の状況 |厚生労働省
Poverty rate|OECD
2021(令和3)年 国民生活基礎調査の概況|厚生労働省
就学援助ポータルサイト|文部科学省
子供の貧困対策の推進|文部科学省
むすびえ
労働力調査 令和元年平均結果の概要|統計局
こどもの貧困対策|こども家庭庁
母子家庭の貧困問題と就労支援制度|第一生命経済研究所

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