未利用魚とは
未利用魚(みりようぎょ)とは、味や鮮度は抜群であるにもかかわらず、形が悪いことや出荷する規定の数に届かないことなどから、市場に出回らない「もったいない魚」のことである。美味しく安全性も保たれているため、市場に出る魚と質は変わらない。しかし、上記の理由から出荷できないため、廃棄するか漁師や水揚げされた地域のみで食べられるだけなのだ。
このように、漁師が釣ってきても消費者のもとへ届かない魚が多く存在しており、近年未利用魚は問題視されている。日本近海では約3,700種類の魚介が合計で319万1,400トン獲れるが、そのうち市場に並ぶのはわずか600種類程度だ。水揚げされた魚のうち、30〜40%は未利用魚とされているという。食べることができるにもかかわらず大量の魚が廃棄されている現状を受けて、未利用魚の活用に注目が集まっている。
低利用魚との違い
未利用魚と同時に話題に上がるのが「低利用魚」である。未利用魚は、値が付かず一般的に利用されない魚を指し、低利用魚は、安い値段が付き、特定の地域のみで食べられている魚を指す。
たとえば、北海道や東北では一般的にエイが食べられているものの、東京で食べられることはほとんどない。このように、食文化の違いなどから地域によっては一般に流通しない場合がある。
未利用魚の特徴
市場に出回らない未利用魚の特徴として、以下の5点が挙げられる。次のような特徴がある魚は、希望する値段で売ることができないため、漁業者や水産業者が損をする可能性が高く、未利用魚になりやすいのだ。
01. サイズが規格外である
市場に出る魚には、種類ごとに細かいサイズが規定されている。また、魚が小さすぎると骨が多くさばくのに時間がかかるため、手間に見合う値段が付かないと判断され廃棄されてしまう。あるいは、サイズが不揃いの場合、販売規格に達しないため未利用魚になってしまうこともある。
02. 漁獲量が少なすぎる
漁獲量が少ないと、値が付きにくいため未利用になることが多い。スーパーでは魚種ごとに分類して販売され、飲食店では提供するメニューに合わせて一定量の魚をまとめて仕入れるため、収穫量の少ない魚は取り扱いが難しくなるのだ。
03. 知名度がないため売れない
一般的に名前が知られていないような珍しい魚は、味や調理方法が分からないことからスーパーなどで購入されづらい。購入数が少ないと市場での値も付かないため、未利用魚になりやすい。
04. 調理が難しい
毒やトゲなどがあり、調理が難しい場合も未利用魚になりやすい。たとえば、白身魚の「アイゴ」は美味しいにもかかわらず、ヒレに毒があり内臓が臭いことから処理が面倒で調理が難しく、未利用魚に分類されている。
05. 見た目が悪い
魚自体の見た目が悪いものや、傷が付いたものも未利用になってしまう。運搬中に傷が付く可能性のある魚も市場には出されないことが多い。
未利用魚が注目される2つの理由
未利用魚が注目される背景には「漁業危機」と「食料ロス問題」がある。
1.漁業危機
1つ目は、日本の漁業における漁獲量が減少していることだ。水産庁のデータによると、日本の漁獲量は1984年に1,282万トンと過去最大となったが、1990年代前半から減少し始め、2020年には423万トンとなっている。1984年と2020年を比較すると、おおよそ3分の1の量である。また、サンマなど人気のある魚の水揚げ量が減少していることから、知名度のある魚だけでなく未利用魚を食べることに注目が集まっている。
2.食品ロスの問題
2つ目は、食品ロスの問題である。国際連合食糧農業機関(FAO)が2020年に出した報告書によると、世界の漁獲量のうち約30%が廃棄されているという。日本の漁獲量に換算すると、約100万トンもの魚が廃棄されており、水産資源が無駄になっていることが問題視されている。未利用魚を食べることで、食品ロスの削減につながり、魚介類における食料自給率の向上が期待できるとして注目をされているのだ。
未利用魚を取り入れる4つのメリット
未利用魚を家庭や店のメニュー、商品などとして取り入れることには4つのメリットがある。
1.食品ロスが減る
先述のように、世界の漁獲量のうち約30%は廃棄され、それらの魚はお店や消費者のもとへ届くことはない。未利用魚を活用することで食品ロスの削減につながり、エシカルな消費活動の実践にもなる。
2.海の資源を保護し持続可能な食料確保へとつながる
未利用魚を活用することは、海の資源を保護する観点からも重要だといえる。日本の漁獲量は、過去40年前と比較すると3分の1に減っており、海の資源は減少を続けている。これまで廃棄されていた未利用魚を活用することで、漁獲量アップへとつながり、食料不足問題の解決の糸口にもつながるとされている。
3.漁師の収入が上がる
未利用魚に商品として値が付くことで、漁師の収入アップにつながる。漁師は漁業を行い、釣った魚を販売することで収入を得ているが、廃棄される未利用魚に対する売り上げは当然ない。つまり、30%の魚が廃棄される場合、得られるはずだった30%の収入がなくなるのだ。近年、船の燃料や道具などの物価高騰の影響から、漁業は経営が苦しいといわれている。そのような状況下で、未利用魚の活用は漁師の収入を安定させ、働きがいへとつなげられる。
4.低価格で美味しい魚が食べられる
近年、魚の価格が高騰していることから、購入頻度を減らしたり、購入をためらう消費者も増えている。未利用魚であれば、名の知れた魚より市場価格が安いため、購入ハードルが低くなる。美味しい魚を安く食べられる可能性があり、家計にとっては救世主となるだろう。
自治体や企業における未利用魚の活用事例
全国のさまざまな自治体や企業において、未利用魚を活用する取り組みが行われている。
未利用魚料理の販売(千葉県いすみ市)
千葉県いすみ市の夷隅東部漁業協同組合女性部では、未利用魚を使ってこの地域の伝統料理「じあじあ」を再現した。2016年に漁業協同組合女性部は、未利用魚のサメ肉のすり身と野菜を混ぜ合わせて揚げた「じあじあ」を考案。これは好評となり、いすみ市大原漁港の「港の朝市」にて販売されている。
小学校の給食にて提供(神奈川県横浜市)
神奈川県横浜市では、2023年に市内のすべての公立小学校339校を対象に、未利用魚を活用した給食を提供した。教育委員会や学校食育財団が連携し、魚食普及・SDGs・フードロス解消を目的として実施。これにより、魚の大切さや漁業の現状を子どもたちに伝える機会となった。
未利用魚の握りずしを販売(くら寿司)
回転寿司チェーンの「くら寿司」では、2022年に低利用魚である「ニサダイ」の握りずしを全国の店舗で販売した。ニサダイは元々独特のにおいがあり、食用には向かないと廃棄されてきた魚だ。しかし、キャベツを餌にして養殖することで、においを抑えたニサダイができあがり商品化を成功させた。この事例では、商品開発や加工方法を工夫することで、未利用魚・低利用魚の価値を上げられることを証明している。
日常に未利用魚を取り入れる方法
消費者にとっては馴染みのない未利用魚であるものの、実は気軽に取り入れることができる。
未利用魚のサブスクリプション「フィシェル」
「フィシェル」は、未利用魚を使用したミールパックを定期的に消費者に届けるサブスクリプションサービスである。ミールパックには数種類の未利用魚が含まれており、それぞれの魚に合った味付けが行われている。また、季節によって魚の種類は異なり、さまざまな味を楽しめる。ミールパックの魚は骨取り済みであり、解凍や湯煎するのみで気軽に食べられるため、忙しい人や子どものいる家庭でも活躍できる。アレンジレシピも添えて届けられるので、多様な味わい方ができるのだ。
漁師から直接未利用魚を購入できる「ポケットマルシェ」
「ポケットマルシェ」は、産地直送の通販サイトであり、さまざまなジャンルの生鮮食品を購入できる。ここでは、全国各地の未利用魚を漁師から直接買えるのだ。
未利用魚は漁師が選んだ詰め合わせの形で販売され、「お試しセット」や「小サイズ」など気軽に買える物も多い。初めて未利用魚を使う場合であっても、サイトには購入者の口コミやおすすめの食べ方も記載されているため、安心して調理できる。
まとめ
未利用魚は、味も品質も抜群であるにも関わらず、サイズが規格外であることや調理が難しいことなどから市場に出ることなく、ほとんどが廃棄されてしまう。一方、食品ロスや漁業危機の問題により、未利用魚を活用すべきだという動きが高まっている。
未利用魚を取り入れることは、持続可能な食料確保や漁業をサポートすることにもつながる。しかし、世の中において未利用魚の認知度はまだまだ低いのが現実である。私たち消費者ができることとして、まずはサブスクリプションや通販を利用して、気軽に未利用魚を試してみてはどうだろうか。
【参考記事】
未利用魚・低利用魚とは? 海の資源を上手に食べよう!|魚食普及推進センター
未利用魚とは 行き場のない魚をサブスクで有効活用|NHK
未利用魚って実はこんなに使える!|農林水産省
日本最大規模の小学校給食で未利用魚を活用|横浜市
国産低利用魚でサステナブル実現!キャベツで養殖した「ニザダイ」初の全国販売|くら寿司
フィシェル
ポケットマルシェ
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