地域通貨とは?注目されているデジタル通貨と導入のメリットなどを解説

地域通貨とは

地域通貨とは、特定の地域やコミュニティに限定して流通する決済手段のことである。国が発行している通貨とは異なり、自治体、地元の企業、NPOや商店街など、さまざまな機関によって独自に発行される。紙幣のような通貨もあれば、ポイントとして付与されるものや電子マネーとして使うものなど、配布形態はさまざまである。

地域通貨の目的は、おもに以下の3点に分けられる。

●地域経済の活性化:地元の小売店やサービス業者が商品やサービスの決済に地域通貨を使用することで、地域における消費が促進され、地域内の経済活性化が期待できる。

●地域コミュニティの活性化:地域によっては、ボランティアやエコ活動を行うことでもらえる地域通貨もあるため、地域コミュニティや相互扶助を活性化する役割がある。

●新たな地域価値の発掘:お米や野菜など地域の特産品と交換できる地域通貨もあり、これまで知られていなかった地域の価値が発見されることに役立つ。

法定通貨との違い

国や中央銀行が発行・管理する法定通貨は、法律による強制通用力をもつ。例えば、日本銀行が発行する日本円は、日本国内においては無制限に通用する。

一方の地域通貨は、自治体やNPO等が独自に発行し、地域内のみで流通する。法的な通用力がないため、発行元や通貨の信用力が大きなカギとなる。また、法定通貨と違って利子はつかないため、貯めるよりも使うことを目的としており人々の消費を促す。

地域通貨の歴史

地域通貨の始まりは、1920年代にドイツの経済学者によって提唱された「自由貨幣」と呼ばれる理論である。これは「減価する通貨」と呼ばれ、通貨価値を定期的に下げることで、人々の消費意欲を高め、経済の循環を促すことが狙いとなっている。1930 年代に世界大恐慌による不況で苦しむ欧米で、地域経済の立て直しをするために利用された。

また1980年代には、欧米の地域内の消費促進や、地域コミュニティの活性化を目的とした地域通貨の発行が行われた。この時点で、地域通貨における「減価する通貨」としての意味はなくなっている。

日本国内では、1990年代後半から農村部のまちおこしをしていくなかで地域通貨が多く発行された。当時は、地域ボランティアの対価として利用されることが多かった。しかし、管理や運用のための負担が重くなるなどの原因から、2005年以降に減少した。その後、スマホの普及やQRコード決済の誕生に伴い、地域通貨は再度注目されている。

注目されている背景 

地域通貨 注目されている背景

地域通貨が近年日本で注目されるようになった要因として、以下の3点が挙げられる。

■地方創生
現在の日本では、都会に経済を集中させず、地方ごとの課題を解決することで日本全体を活性化させる動きが高まっている。地域通貨は地域内の消費を促進させるため、地方の資源を活用し、地域を盛り上げる地方創生と相性が良いのだ。

■SDGsの推進
国際的な目標であるSDGs(持続可能な開発目標)に対する取り組みが加速していることも地域通貨への関心の高まりと関係する。地域通貨をSDGsを実現するための地域のボランティア活動に対するお礼などに使うことによって、地域や自治体のSDGsを推進させるきっかけとなる。

■自治体DXの推進
かつての地域通貨は、紙幣や小切手などで発行されていたが、管理の負担が重く徐々に衰退していった。しかし、最近ではDXを推進する自治体が増えており、地域通貨をブロックチェーン上で管理することができるようになった。またスマホが広く普及したことも相まって、地域通貨のデジタル化が進み、導入のハードルが低くなっている。

デジタル地域通貨

デジタル地域通貨

デジタル通貨とは、その名の通りデジタル上で配布・管理される地域通貨のことである。配布や管理はすべてオンライン上で行えることから、従来の紙幣や小切手型と比較して導入・運用コストが削減された。

デジタル通貨の利用方法としては、PayPayなどのQRコード決済アプリと同様である。ただし、地域に限定された通貨であることから、使用できる範囲や用途は限られる。そのため、専用アプリにユーザーにメリットのある独自の機能を取り入れ、差別化を図っている地域もある。

メリット

デジタル地域通貨のメリットとしては「コスト削減」「不正利用の防止」「マーケティングへの活用」の3点が挙げられる。

コスト削減
デジタル地域通貨は、オンライン上で発行・運用・使用できるため、コストが大幅に削減できる。また、加盟店はQRコードを店頭に置いておくだけでよいため、コストだけでなく労力も最小限で済むことから、小さな店であっても導入のハードルが低い。

●不正利用の防止
デジタル地域通貨は、いつ、どこで、誰が使用したかがすべて記録されるため、不正利用が防止できる。また、ブロックチェーンを基盤とした仕組みを取り入れることで、改ざんが困難となるため偽造リスクも低減できる。

●マーケティングへの活用
デジタル地域通貨は保有・使用状況をデータとして簡単に収集できるため、施策の立案などのマーケティングに活用できる。紙の場合は、加盟店に使用状況を確認する必要があるが、デジタル通貨ではその手間がないため、スピード感のあるデータ解析が可能だ。

自治体による地域通貨の活用事例

デジタル地域通貨の活用によりハードルが下がったこともあり、全国のさまざまな場所で地域通貨の導入が始まっている。ここでは、地域通貨の事例を3つ紹介する。

さるぼぼコイン(岐阜県)

さるぼぼコインとは、岐阜県高山市、飛騨市、白川村で流通しているデジタル地域通貨である。運営しているのは地元の金融機関である飛騨信用組合であり、全国初の金融機関が発行するデジタル地域通貨ということから、注目が集まっている。

また、日本初のブロックチェーンが導入された地域通貨でもある。ブロックチェーンとは、情報を安全に管理する技術だ。地域通貨の使用履歴が分散して残されるため、記録の改ざんが防止でき、情報の信頼性も向上する。

さるぼぼコインは、現金や飛騨信用組合への預金が「コイン」へと変換され、ユーザーのスマホにチャージされる。また、チャージ額の1%がポイントとして付与され、1ポイント=1円として決済に利用できる仕組みも成り立っている。現在では、小売店やホテルなど2,000以上の加盟店があり、地元の人だけでなく、観光客も利用している。

深谷市地域通貨ネギ―(埼玉県)

深谷市地域通貨ネギーは、埼玉県深谷市の地域通貨である。通貨は専用アプリかカードの2種類から選択できるため、スマホを持っていない人でも利用可能だ。

地域通貨を普及させることで、地域内の経済を活性化させ、持続可能な地域経営を実現させることを目標としている。目標達成に向けた一環として行われているのが「ネギーチャレンジ」という市民参加型の取り組みだ。チャレンジには、選挙やふるさと納税への参加などがあり、チャレンジごとに設定した目標を達成すると、ネギーの支払い時のポイント還元率がアップする。

ポイントを還元できるキャンペーンを実施することで、地域課題への関心の喚起や市民活動への参加を促進している。

まちのコイン(全国27地域)

まちのコインは、地域をつなげるデジタル地域通貨サービスで、全国27地域で展開されている。自分の住んでいる場所に関係なく、導入されている地域で体験やボランティア、環境活動などをすることでコインが獲得でき、そのコインを加盟店にて使用できるようになっている。

楽しみながらコインを獲得でき、コイン数に応じたレベルアップなどもあることから、ゲーム感覚で利用できる。また、コインをもらったりあげたりする機能もあり、利用されればされるほど地域内外の人々の交流が増え、関係人口が増えるとされている。

まとめ

地方においては、少子化や過疎化など地域ごとに様々な課題が存在している。地域通貨を利用することで、地域経済の活性化、人々のつながりの強化、地域ブランド発見・向上など、地域内の課題にアプローチして地域の内外に良い影響をもたらすことが期待される。

個々人においても、今まであまり意識してこなかった「お金の流れ」を考えるきっかけにもなり得る。そして、地域にお金を落すことが所属するコミュニティの発展に寄与することを実感できるかもしれない。

デジタル化が進むなか、地域通貨の導入がさらに加速しており、多くの地域で取り入れられ始めている。今後も、地方創生の取り組みを増幅させるツールとして、重要な役割を果たすのではないだろうか。

参考記事】
地域通貨の現状とこれから|国立国会図書館
デジタル地域通貨の活用ポイントとは?仕組みやメリットを解説|NTTビジネスソリューションズ
さるぼぼコイン|飛驒信用組合
深谷市地域通貨ネギー|深谷市
まちのコイン|面白法人カヤック
地域通貨が担う地方創生~デジタル化で再注目の動き~|SOMPOインスティテュート・プラス
【図説】「地域通貨」からはじめる地域DX、自治体・企業事例5選|NTT DATA

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