インパクト投資とは?ESG投資との違いや具体例を交えながら、日本でも注目のインパクト投資について解説

インパクト投資とは

インパクト投資は、従来の投資における「リスク」「リターン」という2つの判断軸に、新しく「インパクト」という第3の軸を加えた新しい投資の形である。
ここでのインパクトとは、事業活動の成果として生じるポジティブで社会的かつ環境的な変化・効果を意味する。つまり財務的なリターンと同時に、社会面や環境面におけるリターンも得ることを目的としているのが、インパクト投資の大きな特徴だ。

投資家は、投資しようとする企業の財務面だけではなく、事業活動において社会や環境に対して測定可能なインパクトを創出しているかどうかを定量的および定性的に把握し、インパクト投資としての価値判断を加えている。

2015年に国連によって採択されたSDGsへの関心が高まっている今、インパクト投資における市場規模は年々拡大しており、日本でも徐々に注目されはじめている投資手法である。

4つの構成要素

Global Impact Investing Network(GIIN)は、インパクト投資の要素として以下の4つを挙げている。

(1)意図があること
まず投資家が、「この投資をすることで、社会的かつ環境的な課題の解決に貢献する」という意図があるかどうかは、インパクト投資において大きな要素になる。その意図がなければインパクト投資に対する方針や戦略は立てられず、収益部分での目標達成だけになってしまいかねないからだ。投資家自身が、必ずインパクトに関する視点をもっていなければならない。

(2)財務的なリターンを目指すこと
社会的・環境的なリターンを目指して目標を立てる一方、インパクト投資においては財務的なリターンを得ることも目的としているため、その戦略を考えることも重要だ。その理由は、社会面や環境面における問題を解決するために多大な費用が必要であるからだ。現在不足している資金の調達は国や金融機関だけではまかないきれないため、民間からの資金を必要としており、その対象として国連は、民間投資家を位置づけている。

(3)広域なアセットクラスを含むこと
インパクト投資におけるアセットクラスは、一般的な株式や債権のほか、不動産、貴金属、天然資源である石油などのオルタネイティブ商品と、多岐にわたっている。
これには、投資によって得られる財務的なリターンに加えて、社会や環境に及ぼす影響を評価することや、明らかな意図をもってインパクト投資を実践することも含まれている。

(4)インパクト評価を行うこと
インパクト評価は、投資によって社会的または環境的にどのような成果があったのか、定量的・定性的に評価することである。なお、この評価はポジティブとネガティブの両側面から判断しなければならない。
企業および投資家は、インパクト評価を持って自社の活動や投資活動がどのような影響を与えているかを把握することで、「意思をもつこと」にも繋がり、さらに持続可能な投資戦略およびビジネス戦略を立てられるようになる。

ESG投資との違い

インパクト投資と似た投資手法に「ESG投資」がある。ESG投資は、企業活動における環境(Environment)、社会(Society)、統治(Governance)の面を総合的に評価し、リスクをもつ会社を排除することで長期的かつ安定性に優れた投資を遂行する。

社会のサステナビリティを意識しながら財務的なリターンを得ることを目的としている部分で、インパクト投資と同じ基盤を持っているが、長期的な視点の有無が大きく異なる点である。

長期にわたって安定した成果を得ることに重点を置くESG投資に対して、インパクト投資においては影響が長期であるか短期であるかは問わない。企業の活動および投資の成果において得た利益によって、新しい解決方法をより短期的なサイクルをもって提案し、サステナビリティを実現することも大きな目的としている。

注目される背景

インパクト投資_国際連合_背景

インパクト投資が注目されるようになった背景には、社会問題や環境問題が多様化したことがある。このような問題の中には早急な対応が求められるものも多く、スタートアップ企業や既存企業の新規事業への期待は投資における価値判断の1つとも言える。
ESG投資では事業継続性が総合的に判断されることから投資の対象外となる企業も出てくるが、インパクト投資では「社会的・環境的な課題解決に貢献していること」が最も重要視されるため、ESG投資では対象外とされた企業への投資が可能となるのだ。

また、国連はSDGsの達成にかかる費用が年間2兆5,000億ドル不足していると推計している。この金額は国や公的機関のみで調達するには限界があり、民間からの資金を募ることが不可欠である。

そのほか、2019年に世界銀行グループの国際金融公社 (IFC)が、投資家がインパクトについての考えを組み込めるフレームワークとして9つの原則をまとめ、これが助けとなりインパクト投資が投資家にとっても取り組みやすい手法となったことも注目される要因であろう。

インパクト投資の現状と市場規模

社会や環境面での問題に対して人々の関心が高まるにつれ、インパクト投資における市場規模も年々拡大している。以下、日本の現状はどのようなものか、世界と比較しながら述べる。

インパクト投資の現状

日本でのインパクト投資の認知度は、決して高くない。2021年度に行われたGSG国内諮問委員会のアンケートによると、日本のインパクト投資市場に対して「これから成長していく段階」が70%、「まだ始まったばかり」が23%という結果だった。

世界のインパクト投資に対しては「順調に成長している」が69%であることから、日本のインパクト投資市場はまだ成長途中にあることが分かる。

この結果における課題として①認知度不足、②社会的基盤の不足、③プレーヤーの不足、の3つの不足を挙げており、インパクト投資の普及活動や共通認識の確立、社会課題の解決に挑むスタートアップなどインパクトを創出する担い手を増やすことが求められている。

市場規模

インパクト投資における世界の市場規模は2019年では2,390億ドル、2020年では4,040億ドルと推計され、わずか1年で倍近くになるという急成長を遂げた。

認知度では世界に後れを取る日本でも、インパクト投資市場は着実に成長している。GSG国内諮問委員会の調査によると、日本国内で、2017年は約718億円であったインパクト投資の残高は、2021年には約1兆3,204億円にまで膨らんだ。この要因には、新たにインパクト投資に取り組む機関として資産運用会社、保険会社、大手金融機関等の機関投資家の参入が見られたことが挙げられる。

これらの民間資金によって社会課題を解決する事業を行う官民連携の形「ソーシャルインパクトボンド(SIB)」や、成果連動型民間委託契約(PFS)の成果もあり、2019年時点での累積投資額は約9億円に達している。

インパクト投資の具体例

インパクト投資_農作物2

年々市場規模を拡大させていくインパクト投資。具体的にどのような投資が行われているのか、2つの事例を挙げる。

事例①|Federated Hermes(イギリス)

イギリスのFederated Hermesは、社会課題に対して革新的な解決策を提供することで社会・環境面にポジティブなインパクトをもたらしうる企業への投資を行い、長期的なリターンを目指す「Hermes Impact Opportunities」というファンドを展開。2019年12月時点で30社への投資を行っており、インパクトの種類は「水」「食料安全」「健康・ウェルビーイング」「教育」「フィナンシャル・インクルージョン」「モビリティ」「インパクト・イネイブラー」「エネルギー移行」「サーキュラーエコノミー」の9テーマ。これは17項目あるSDGsの目標のうち、5、16、17を除く14項目に関連している。

事例②|Partners GroupAG(スイス)

スイスのPartners GroupAGが展開する「PG Impact Investments」は、十分な公共サービスが受けられない開発途上国の人々の生活水準向上を目指し、これに貢献している企業や資産に対して投資を行うプログラムである。

例えば、世界の貧困層の70%は農業を主な収入源として暮らしているが、発展途上国の収量は先進国の収量を大幅に下回っていることに注目。高収量の農産物や有機農産物を生産しているShared-X社に投資し、同社はペルーにおいて1,000人以上の小規模自営農に成長するビジネスモデルを共有した。その結果、小規模自営農は従来の2〜7倍という大幅な所得の向上につながっている。

今後の動向

社会や環境面における課題の解決には、日常生活から取り入れられることも少なくない。直接解決するような大きな行動ではなくとも自分には何ができるかを考えたとき、投資もその1つだ。

SDGsで掲げた2030年まで残り6年足らず。世界的な取り組みは加速し、それに伴ってインパクト投資は今後ますます注目され、市場規模も拡大していくと予想される。

日本においても、NISAやiDeCoの影響などで、若い世代を中心に投資が民間に広く普及してきている中、個人が投資先の企業をしっかり見つめて価値判断を行うことは、ますます重要になる。加えて、機関投資家がどのような投資基準や判断のもとで資金を運用しているのか、しっかりウォッチしていくことも欠かせないだろう。

参考記事

インパクト投資とは|GSG国内諮問委員会
投資家のインパクト投融資事例
日本におけるインパクト投資の現状と課題

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