エコファシズムとは
エコファシズムとは、種や生態系の保全を最優先し、人間の権利や生命を犠牲にする可能性がある環境保護思想である。個々の人権を侵害する危険性があることから、批判的に用いられることが多い。
地球環境の維持のために、人間を害悪とみなし人口を制御しようとする思想も生まれている。近年ではエコファシズムが人種差別主義や保護主義と結びつき、罪のない人が巻き込まれる犯罪も発生している。
エコファシズムの例

近年のエコファシズムは、特定の人々だけが自然環境と資源を管理し享受する権利をもつと示唆する、排他的な環境保護主義と結びつく傾向がある。
米国アリゾナ州の司法長官は、メキシコからの移民は資源を使い果たし、廃棄物を発生させ環境を汚染すると主張し、移民法を緩和したバイデン政権を非難した。
ほかにも、過激なエコファシズムが原因で犯罪が発生した例もある。
米国メリーランド州シルバースプリングの事件
2010年、ケーブルTV局ディスカバリーチャンネルの本社ビルで、アジア系の男が3人を人質に立てこもった。犯人はディスカバリー・チャンネル周辺で抗議デモを行っていた人物で、ディスカバリー・チャンネルは地球を救う番組を作っていないと申し入れていた。この男は、「地球を救うことを全世界に約束しろ」などの要求を列挙した文書を当局に送付したこともある。ネット上に投稿された犯行声明には、野生の動物の命を救うほど重要なことはない、地球は人間を必要としていないという内容があった。
折衝にあたった交渉専門捜査官に対しては、「地球上の人間の数が多すぎる」と語ったとされる。4時間後、犯人は警察によって射殺され、人質は無事解放された。犯人は自らをエコファシストと名乗ってはいなかったが、犯行の動機にはエコファシズムと共通する要素がある。
ニュージーランドクライストチャーチの事件
2019年3月にニュージーランドのクライストチャーチで銃撃事件を起こした犯人は、自身をエコファシストと語っている。この事件では、イスラム教礼拝日に2つのモスクが連続して襲撃され、51人が死亡し49人が負傷した。
犯人は白人男性で、事件直前に自身の考えを書き連ねた70ページ以上の文書を発表していた。そのなかで、自分は社会主義者、国家社会主義者であるとし、限りある地球環境の保護のために人口増加を制御する必要があると主張している。
また、彼は共産主義者、無政府主義者、新自由主義者だったが、後に地球温暖化に関心を持つエコファシストになったとして、移民排除を何度も語っていた。2020年には、ニュージーランドでは最も重い刑罰である仮釈放なしの終身刑の判決を受けている。
なお、当時のアーダーン首相が事件直後に白人男性の犯人を「テロリスト」と呼んだことが、世界の注目を浴びた。テロリストという言葉はそれまで非白人に対してのみ使われてきたものだったからだ。アーダーン首相は白人男性がテロ行為を犯したと明確にし、移民もコミュニティの一員であり、安全な暮らしやそれぞれの文化・宗教が尊重されなければならないと語った。
米国テキサス州エルパソの事件
2019年8月に起きたテキサス州エルパソの事件の犯人は、自分をエコファシストとは呼んでいなかったが、前述のクライストチャーチ銃撃犯のマニフェストを盗用していた。
エルパソ銃乱射事件は、メキシコとの国境近くに位置するウォルマート店舗内において、男が小銃を乱射し買い物客ら23人が死亡し22人が負傷したものだ。ヒスパニック系を標的にした米史上最悪の事件といわれている。
エルパソは人口の約8割をヒスパニック系が占めており、多くのメキシコ人が国境を越えて買い物に来ることで知られる。新学期に向けた買い物をする客で店内は満員だったため、被害が拡大した。
犯人は20代の白人男性で、犯行の動機は移民・人口過剰・環境悪化に対する憎悪であるとしている。犯行直前には匿名掲示板の8chanにマニフェストと題する予告声明を出していた。2023年には、終身刑の判決が出されている。
エコファシズムが生まれた背景

エコファシズムは、地球温暖化などの解決が難しい環境問題に不安を感じ、その原因を取り除こうとする心理から生まれている。近年ではネット上の情報ややりとりにより、思想が過激化することも特徴的だ。
また、人種差別と結びつくと、環境の劣化だけでなく自分たちの生活や文化も脅かされるという偏った主張にもつながってしまう。その潮流をさかのぼると、ナチズムにも行き当たる。
環境問題と虚無感
エコファシズムのような極端な思想は、解決策が見出せない環境問題と関係している。若者のあいだでは、政府の対処が不十分・不適切であるために気候問題は深刻化する一方で、世界の未来は暗いと虚無的に捉える人々が表れている。
解決できない現状に対する行き場のない怒りは、弱い立場の人々に向けられ、自分自身や権力を持つ側の立場や利益を守ろうとする推進力となり得る。
エコファシズムは、追い詰められた人々の共感を呼び、惹きつけてきた。これまで事件が起きるたびに、オンライン上の検索トラフィックや過激派コミュニティにおいて、エコファシストについての関心が急増するのが確認されている。
ナチズム
エコファシズムの思想の多くは、過激な保護主義のさまざまな流れから成り立っているが、過激なエコファシズムの思想とナチズムとの類似点を指摘する声もある。
ドイツでは、ドイツ人のための生活空間を創出するために、環境問題に関する論点が利用され、非ドイツ人の存在はドイツの文化と環境に対する脅威とみなされた。
ナチスドイツで人々は、資本主義と産業主義が急速な都市化と環境悪化、農業従事者の強制移住をもたらしたと考えた。この社会思想は、1935年にドイツ初の自然保護法である帝国自然保護法と、有機農業の推進につながっている。
エコファシズムの問題点
エコファシズムの過度に単純化された理論は、気候変動や環境の劣化といった複雑な現実と正しく向き合ってはいない。
エコファシストの主張には、環境問題と人口増加を結び付け、特定の人種が環境問題の主因とするものがある。実際には、温室効果ガスの排出は地政学的国境とは無関係で、資源の採取と消費、廃棄物処理などのグローバルシステムの結果だ。
自分たちこそ生態系から資源を搾取し経済の恩恵を受けているという事実を、認めたくないという心理がはたらいている可能性もある。
そのほか、エコファシズムには人間がいなければ世界はより良くなるという厭世的な主張がある。この考えは、多くの人の命が奪われることを許容してしまう可能性があり、倫理的に許されない。さらに、どの人間が生きるに値し、どの人間がそうでないかという優生学的な議論につながる点が問題である。
IPCC(気候変動に関する政府間パネル)によると、人口増加の影響は一人当たりのCO2排出量の増加に比べると小さい。世界で最も裕福な国は人口増加のペースが緩やかであるにもかかわらず、最も貧しい国の人々の50倍の排出量を排出している。
よって、人口増加と資源利用や温室効果ガス排出を切り離し、持続可能な経済システムへ転換することが現実的な解決策となる。
まとめ
エコファシズムが国内で大きく取り上げられることは、未だ少ない。しかし、地球温暖化や資源の枯渇など短期では解決できない大きな問題と対峙した時、何かをきっかけに偏った思想に希望を見出してしまう可能性は誰にでもある。
私たちは環境に負荷をかけて生活を営む一方、その反作用としての悪影響を受ける不安を漠然と抱えながら生きている。未来に希望を持てる社会を築くには、バランスを保ち、科学や倫理に基づいた正しい情報を選ぶ力と、他者を尊重する意識が不可欠だろう。
参考記事
A Darker Shade of Green: Understanding Ecofascism|UConn Today
New Zealand suspect Brenton Tarrant ‘says he is racist eco-fascist who is mostly introverted’ | ITV News
白人男性が大量殺人を犯しても「テロ」とは呼ばれない…その慣習を覆したニュージーランド首相の言葉 | PRESIDENT WOMAN Online
ヒスパニック系標的にした「米史上最悪の事件」 24歳被告に終身刑|朝日新聞
ディスカバリー・チャンネル立てこもり事件 「1人環境テロリスト」誕生の恐怖|Wedge
Eco-fascism: The greenwashing of the far right|Deutsche Welle
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