ソリューションジャーナリズムとは
ソリューションジャーナリズムとは、社会問題などの事実や情報のみを発信するのではなく、解決に向けた発信までを重視する報道活動を指す。近年では、ソリューションジャーナリズムの考え方が、気候危機や環境汚染といった地球規模の課題をめぐる報道活動にも取り入れられている。メディア自らが、報じる内容と現実社会に責任を持ち、社会や地域の課題解決に取り組むのが特徴だ。ソリューションジャーナリズムの主な推進団体としては、「ソリューションジャーナリズムネットワーク(SJN)」が知られている。
ソリューションジャーナリズムは、2013年にハーバード大学のニーマン・ラボが取り上げたことで、新しい報道概念として広がり始めた。類似の報道実践には、デンマークで生まれた「コンストラクティブジャーナリズム」がある。どちらも、メディアが人々との間で信頼関係を構築しながら、社会問題に対する建設的な議論や解決行動を促そうとする点で共通している。
従来のジャーナリズムとの違い
従来のジャーナリズムは、社会課題において「何が問題で」「何が間違っているのか」という部分に焦点をあてて情報を提供するのが特徴だ。ありのままを伝えることで、読者・視聴者に考えるきっかけを提供する役割を担う。しかし、間違っている部分を指摘するだけでは、現実的な問題解決にはつながりにくい。
ソリューションジャーナリズムは、問題点から解決策までを厳密に報道して問題の全体像を伝える点で、従来のジャーナリズムとは異なる。問題に対して「何が効果的で、何が効果的でなかったか」、その理由や対応の限界についても調査・報告することで、読者・視聴者と一緒に解決に取り組むのが特徴だ。ソリューションジャーナリズムは、問題解決に向けた取組に人々を巻き込み、建設的な議論を促す重要な役割を担っている。
ソリューションジャーナリズムネットワークの活動
ソリューションジャーナリズムネットワーク(SJN)はニューヨーク州にある非営利団体であり、ソリューションジャーナリズムを推進する、最も大きな団体だ。2013年に、ジャーナリストのデービッド・ボーンステインとティナ・ローゼンバーグ、コートニー・マーチンの3人によって設立された。
当団体は、ニュース室や記者のサポートを通じて、透明性・編集の独立性・帰属意識と尊重の文化構築を目指す。具体的には、報道実践を学べるプログラムの提供、報道の成功事例の共有といったサポートを実施している。実際にSJNの訓練を受け、ソリューションジャーナリズムを実践しているジャーナリストは、世界で約57,000人にのぼる。
SJNがソリューションジャーナリズムにおいて重要とする4つの柱は、以下の通りだ。
- 社会問題への対応と、その対応がどのように機能したか、またはなぜ機能しなかったかに焦点を当てる
- 問題への対応から何が学べるか、そして、それがなぜ重要なのかを示すことで、読み手・視聴者に新たな洞察や知見を提供する
- 対応・取組の効果や欠点を示すデータ・質的結果といった証拠を明記する(根拠を率直に示し、その対応がなぜニュース価値があるのかについて、透明性を保つ。)
- 対応の欠点や限界についても、ためらわずに報告する(ある問題への対応は、特定のコミュニティではうまく機能しても、他のコミュニティでは失敗する場合もある。完璧な対応は存在しないため、欠点についても責任を持って取り上げ、対応を文脈に沿って位置づける必要がある。)
出典:SOLUTIONS JOURNALISM NETWORK 「How do I know it`s Solutions Journalism?」
ソリューションジャーナリズムのメリットと課題

ソリューションジャーナリズムの主なメリットとしては、以下の3つが挙げられる。
- より上質なジャーナリズムの実現
- 読者・視聴者のエンゲージメント向上
- 建設的な議論の促進
解決への取組も含めた広い視野で問題を捉えることで、より上質なジャーナリズムを実現できる点が、ソリューションジャーナリズムのメリットだ。特定の社会問題を定期的に取り上げて強調するだけでは、人々に対して不正確で偏った見方を提供してしまう恐れがある。ソリューションジャーナリズムは、既存ジャーナリズムを補う形で、人々に対してより正確で完成度の高い報道を提供する。
また、社会問題を強調するだけの報道姿勢は、記者・メディアに対する不信感や無責任なイメージにつながるケースも少なくない。ソリューションジャーナリズムは、問題解決へのプロセスを報告することで、より人々の関心を引きつける効果が期待できる。「解決策を含めた報道は、SNSなどで共有される可能性が高くなる」という報告もあり、読者・視聴者のエンゲージメント向上につながるのもソリューションジャーナリズムの利点だ。
さらに、問題解決型のジャーナリズムは、問題への具体的なアプローチを示すことで、より建設的で分裂の少ない議論を促進できる。問題を指摘するだけでは、人々も社会もなかなか変わりにくい。ソリューションジャーナリズムは、あらゆる組織が問題にどのように取り組んでいるかを示して「公共の議論」を前に進める役割を担う。
ただし、ソリューションジャーナリズムによる解決策の提示が、特定の立場や意見への偏りにつながる可能性も否定できない。さまざまな解決策や意見を提示する際に、高い倫理観・客観性を保つことの難しさが課題と言える。
ソリューションジャーナリズムの事例
ソリューションジャーナリズムは、欧米を中心に、世界へと広がりを見せている。国内外のソリューションジャーナリズムの事例として、以下の2つを紹介する。
イリノイ・アンサーズ・プロジェクト
イリノイ・アンサーズ・プロジェクトは、非営利報道機関であるベターガバメントアソシエーション(Better Government Association)によって運営されているニュースプロジェクトだ。ソリューションジャーナリズムの実践を通じて、イリノイ州の重大な問題を調査し、包括的で問題解決に重点を置いたレポートを提供している。
例えば、以下の記事は、シカゴ市議会で議論が停滞している「制限速度の引き下げ」について取り上げたものだ。ニューヨーク・シアトル・ボストンなど、制限速度を引き下げた都市の事故数・死亡者数の減少をデータで示し、シカゴの問題について読者に建設的な議論を持つ機会を与えている。
朝日新聞社特集「小さないのち」
朝日新聞社が、2016年から始めた特集「小さないのち」も、ソリューションジャーナリズムの一例だ。2016年に打ち出した「ともに考え、ともにつくる」という企業理念のもと、ソリューションジャーナリズムの考え方を提起している。
本特集では、過去10年間の虐待をはじめとする子どもの事故を専門家とともに分析。記事において、さまざまな角度から原因や防止策を検討し、読者に「子どもの命を守るためにどうすればいいか」を議論するきっかけを提供している。
本連載記事を受けて、朝日新聞社は、2016年12月に子どもの事故防止について議論する「子どもの「まさか」を本気で考える『朝集中会議』」を東京都内で開催した。社会問題の背後にある課題をあぶり出し、問題解決策を探る姿勢を強化する形で、ソリューションジャーナリズムを実践している例と言える。
まとめ
ソリューションジャーナリズムは、地域社会の問題から地球規模の課題まで、さまざまな問題解決を促す新しい報道の形として期待されている。しかし、欧米などと比べると、日本では未だソリューションジャーナリズムの考え方はそれほど普及していない。
また、ソリューションジャーナリズムによる解決策の提示は、特定の立場や意見への偏りにつながる可能性もある。この新しいジャーナリズムの実践をめぐっては、倫理観はもちろんのこと、「特定の考え方に偏らない客観性」や「問題を長期的に捉える視点」も求められるだろう。報道を受け取る側も、社会課題を身近に捉え、建設的な議論を積極的に発展させていく必要があるのではないだろうか。
参考記事
Responses to problems are newsworthy|SOLUTIONS JOURNALISM NETWORK
問題解決模索型ジャーナリズムという新潮流ー市民に多角的な視点を提供する日米欧の民主主義実践を事例にー|清水麻子
Solution Journalism:What is it and why should I care?|SOLUTIONS JOURNALISM NETWORK
Why Solution Journalism?|SOLUTIONS JOURNALISM NETWORK
Illinois Answers Project|ILLINOIS ANSWERS PROJECT
Chicago is Debating Lowering its Speed Limit. Other Cities Aren’t Waiting.|ILLINOIS ANSWERS PROJECT
生活者と考える「ソリューション・ジャーナリズム」|東洋経済ONLINE
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