誹謗中傷の問題について考える。どこからが誹謗中傷?被害者も加害者も生み出さないためにできること

誹謗中傷とは

誹謗中傷とは、他人の名誉や信用を傷つける行為を指す。具体的には、嘘や事実無根の内容を拡散したり、侮辱的な言葉を浴びせたりすることが含まれる。

誹謗中傷は現在、法律で禁じられている。しかし、どこからが誹謗中傷に当たるのか、判断が難しい場合もある。例えば、誰かに対してネガティブな意見を言っている人がいるとしても、その意見が「批評」「批判」「冗談」「正当なクレーム」「誹謗中傷」のどれに当たるのか、判断が難しいケースも多々あるからだ。

インターネットがますます身近な存在となるなか、私たちはネットリテラシーを向上させることが求められる。

誹謗中傷の3つのパターン

誹謗中傷のラインが曖昧な一方、明確に「誹謗中傷」だと見做される言動もある。以下の3つのパターンのうちどれか一つでも当てはまっていれば、誹謗中傷だと見なされる可能性が高い。

1 根拠のない悪口やデマ

事実に基づかない憶測による内容や、事実とは反する情報を広めることは誹謗中傷に該当する。例えば、「タレントのAさんって、昔夜のお店で働いていたらしいよ」「政治家のBさんって見るからに裏金を受け取ってそうだよね」などの事実無根の噂話も誹謗中傷にあたる。

気をつけなければならないのは、こういったデマがSNSで拡散されている際、「いいね」や「リツイート」などによって支援の意を表明することも、罪に問われる可能性がある、という点だろう。

2022年10月、ジャーナリストの伊藤詩織さんが、衆議院議員の杉田水脈氏にSNS上で自身を中傷する投稿に「いいね」を押され侮辱されたとして、220万円の損害賠償を求めた訴訟が行われた。東京高裁は、杉田氏に55円の賠償命令を出し、伊藤氏の訴えが正当なものだと認められた。この判例は、「いいね」によって賠償命令が出された初めての事例となった。

2 個人を攻撃したり、侮辱する表現

「Aくんってブスだよね」「Bちゃんって頭おかしいんじゃない?」など、侮辱的な言葉で個人を公言する行為も誹謗中傷に当たる。対象者の人格やルックス、存在を否定する言動は、誹謗中傷になる可能性がある、と認識すべきだろう。

自分の言動が法的に誹謗中傷に当たるか否かにかかわらず、個人を攻撃したり侮辱したりした言動が世間に広まった場合、大きな代償を支払わなければなくなる可能性は高い。例えば、2024年8月、タレントのフワちゃんが「お前は偉くないので死んでくださーい」と芸人のやす子にSNS上でリプライを飛ばしたことが炎上。フワちゃんは休業に追い込まれる事態になった。

SNS上で、個人攻撃や侮辱する表現は控えた方がいいだろう。

3 名誉や社会的な評価を傷つける表現

例えば、お菓子を製造している会社の社員が、「うちの会社の工場は汚い。うちの会社で作ったお菓子は食べたくない」とSNS上に投稿したとする。会社名を直接書いていなかったとしても、他の投稿によって会社名が推測できてしまった場合、会社が損害を被る可能性がある。この場合、社員の投稿が会社に対する誹謗中傷に当たる、と判断される場合もある。

いずれにせよ、会社内部の情報を外部に漏らした場合、トラブルになることが多いので、ネット上に、会社の愚痴などは書き込まない方が無難だろう。

実際にあった誹謗中傷事件

実際にあった誹謗中傷事件

次に、実際にあった誹謗中傷事件の例を確認していく。

1 テラスハウス事件

日本で誹謗中傷の問題が大きな注目を集めるようになったきっかけの一つが、「テラスハウス事件」だろう。2020年、恋愛リアリティ番組「テラスハウス」に出演していたプロレスラーの木村花さんは、SNSの誹謗中傷が原因で自ら命を絶った。

この事件がきっかけとなり、国会でも対策の必要が訴えられ、2021年には「侮辱罪」の厳罰化が進められ、従来よりも厳しい罰則が科せられるようになった。

また、リアリティーショーの出演者の自殺率の高さやメンタルヘルスの悪化も話題となったことから、「テラスハウス事件」以降、リアリティーショーで特定の人物が悪役になるような編集方法は避けられるようになってきている。Netflixなどではリアリティーショーの出演者が番組出演中および出演後にカウンセリングを受けられるような体制が整えられるなど、メンタルヘルスの問題に目配りしている様子が窺える。

テラスハウス事件が日本社会、およびリアリティーショーのあり方に及ぼした影響は大きいと言えるだろう。

2 NGT48アイドル誹謗中傷事件

2020年、元NGT48のメンバーであった山口真帆さんが暴行被害を受けた事件に関して、SNS上での誹謗中傷が問題になった。

東京都在住の男性Aは、山口さんが男性2名から暴行被害を受けた事件にNGT48のグループメンバー5人が関与していると疑い、イメージダウンを狙って5人に対し誹謗中傷を行った。NGT48の運営会社が警視庁に被害を届け出た結果、この男性は名誉毀損の疑いで逮捕された。

3 スマイリーキクチさんデマ被害事件

10年以上にわたり、誹謗中傷の被害を受けた事例もある。1999年、「凶悪殺人の共犯者 スマイリー鬼畜、しね」「殺した過去を思い出せ」などの書き込みがネット上に現れた。これらの書き込みは1988年に東京都足立区で少年たちが女子高生を監禁し、暴行した上でコンクリートに詰めて遺棄した事件の「少年」のひとりが芸人のスマイリーキクチさんだと示唆するものだった。

事実無根のため、所属事務所はホームページで否定し、デマが拡散された掲示板の運営元にも削除依頼を申請した。しかし、中傷はエスカレートし、その後10年以上も続けられることになった。スマイリーさんは何度も警察に相談を持ちかけたが、当時は誹謗中傷の問題が軽く考えられており、取り合ってもらえなかったと言う。

2008年になってやっと警察は動き出し、9月末、ようやく検挙に踏み切った。誹謗中傷を行っていた人物のバックグラウンドは多岐に渡り、公務員、40代の会社経営の子持ちの男、10代の男女、外資系自動車メーカーのディーラーなど、スマイリーさんと何の面識もない人ばかりだったという。最終的に警察は名誉毀損の疑いで18人、脅迫の容疑で1人の19人を検挙し、本件は、誹謗中傷加害者が一斉に検挙された日本初の事件として大きな注目を集めることになった。

誹謗中傷をしないための注意点

誹謗中傷は、被害者に深刻な心理的、身体的、社会的損害を与え、場合によっては死に至らしめる重大な犯罪だ。しかし、いくらでも匿名で書き込みができる今、無意識にデマ投稿に「いいね」を押してしまうなど、誰しもが加害者になってしまうリスクがある。ここでは、誹謗中傷をしないために注意しておくべきことを解説していく。

一次情報を確認する

根拠のない噂話や不確かな情報を拡散してしまったら、悪気はなくとも他者の名誉を傷つけることになりかねない。何かを書き込んだり、「いいね」をしたりする前に、発信されている情報が事実かどうか、しっかり確認しておく必要がある。例えば、「A新聞に書いてあったんだけど」などと書かれている場合、その情報は又聞きであり、真実性が疑わしい。情報を拡散したり「いいね」をしたりする際は、必ず一次情報(この場合はA新聞)を確認するべきだ。

感情的になっている時は、書き込まない

情緒が安定していなときや、怒りに飲み込まれそうな時は、ネットから離れて、書き込みを控えた方がいいだろう。怒りに任せて書き込んでしまったことで加害者にる可能性もあり、後悔することになりかねない。

実名でも書き込める内容か、確認する

匿名性が高いゆえに、しがらみに縛られず、自由に発言できるのがネットのいいところだ。しかし、匿名性を隠れ蓑に誹謗中傷を行うと、罪に問われる可能性がある。ネットに書き込んだことはいくら消したとしてもログが残り、身元を判別されるリスクが高いと認識し、実名がバレても罪に問われない内容のみを書き込むべきだろう。

「いいね」も罪になると自覚する

根拠のないデマや悪口に「いいね」をしたり、拡散したりするだけでも、被害者に大きなダメージを与える可能性がある。ワンタップで加害者になってしまいかねないことを自覚し、ネガティブな情報の拡散に加担することを避けるべきだろう。

さいごに

誹謗中傷は、インターネットの発展に伴って急速に増加している深刻な社会問題だ。SNSや掲示板といったオンライン上の匿名性が、誹謗中傷を助長しており、これにより被害者が精神的苦痛を受けたり、社会的な信用を失ったりするケースが増加している。

テラスハウス事件以降、法整備が進み、誹謗中傷した場合、罰金や拘留が課せられるようになった。これにより、ネット上での軽率な発言が抑制されるようになったことは確かだろう。

しかし、まだ法整備は十分とはいえない。個人が誹謗中傷を受けた際、加害者を特定したり、訴えたりするためには、多大な時間と労力、お金が必要になり、加害者に課される刑罰も重いとはいえない状況だ。そのため、訴えることを断念し、泣き寝入りせざるを得ない被害者も少なくない。被害者救済のためにも、一刻も早い法整備が望まれる。

同時に、一人ひとりが誹謗中傷に加担しない発信を意識することも大切だろう。

参考記事
伊藤詩織さん中傷投稿に繰り返し「いいね」、55万円賠償命令確定…杉田水脈衆院議員の上告棄却|読売新聞オンライン 
NGT48の5人をツイッターで中傷した疑い、男を逮捕|朝日新聞デジタル 
殺人犯と噂された芸人|日本テレビ

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