タイムバンクとは
タイムバンク、すなわち「時間銀行」とは、お金と同じように「時間」を預けることができる銀行である。同じ銀行に登録して時間を預けた人同士が、お互いの時間を取引できる仕組みになっている。
例えば、自分が提供できるサービスを1時間行ったとする。そうすると銀行に1時間分の時間が保管され、その1時間分で他の人からのサービスを受けられるというものである。つまりお金と同じように、預けた分の時間が引き出せるようなイメージと考えれば、想像しやすいかもしれない。
余力があるときにはどんどんサービスを行って時間を貯めておき、多忙なときや体調を崩したときなど、人の手を借りたいときには、それまで貯めてきた時間を利用して助けを求めることも可能だ。
このように、金銭のやり取りを介さずにサービスを受け合う形は、人と関わることの大切さを思い出すものとして注目されている。
タイムバンクの歴史

日本ではあまり馴染みのないタイムバンクだが、実は、発祥は日本である。それは、1973年に著作家の水野照子氏が立ち上げた「ボランティア労力銀行」だ。
女性たちが子育てや家事を時間単位で助け合うという仕組みで、1979年には会員数は3,000名を突破、1982年には米国ロサンゼルスに支部を設立している。しかし創設者である水野氏が死去した1996年以降、会員数は減少していき、衰退してしまった。現在はNPO法人になり、「ボランティア労力ネットワーク」という団体名で活動している。
一方海外では、1980年代にアメリカの弁護士かつ市民運動家のエドガー・カーン博士によって「タイムダラー(のちのタイムバンク)」が提唱され、1時間1クレジットとするタイムバンクの仕組みが確立していった。
カーン氏が立ち上げた非営利団体TimeBanks.Org (旧TimeBanks USA)によると、アメリカや中国をはじめ、セネガル、マレーシア、ブラジル、ヨーロッパ諸国など、世界中でタイムバンク団体が増えているという。その背景には、移民問題やリーマンショックの影響を受け、「お金がなくても豊かに生きるには」と考える人が増え始めていることが挙げられる。また、その状況によって、隣人同士で助け合うことの大切さを人々が再認識していったことも理由の一つだろう。
タイムバンクの基本的な考え方
カーン博士は、タイムバンクの考え方として5つの基本原則を提唱している。
- 資産
他者へ貢献できる「価値のある何か」は誰しもが持っているもので、すべての人間が価値のある人材だとしている。
- 仕事の再定義
ボランティアを「仕事」として評価することで、仕事に関する定義を改めようとしている。タイムバンクにおける仕事とは、「人々を豊かで幸せにするもの」であるため、ボランティアも当然仕事であるといえるのだ。
- 相互関係
人は、自分が誰かを助ける一方で、自分もまた誰かから助けられている。「お互いに必要としている」という気持ちによって成り立つタイムバンクでは、相互性がすべての仕事のベースとなっている。
- コミュニティの構築
良い相互関係を築くことで、信頼や安心を与え合うことができ、また新たなネットワーク(人々の繋がり)を生む。こうしたネットワークが、やがて一つの大きなコミュニティを構築するとされている。
- 他者の尊重
「誰かの時間を使っている」という意識を持つことで、相手に礼儀正しく、思いやりを持って接することの大切さを、改めて意識づけることができる。
タイムバンクで行われていること

実際、タイムバンクではどのような事業が行われているのだろうか。
例えば、先述のTimeBanks.org (旧TimeBanks USA)は、団体の立ち上げや運営をサポートするほか、それらのノウハウを生かして教育リソースを開発したり、毎月交流会を行ってトレーニングを行っているという。
世界では多くのタイムバンクが誕生しているが、運営元は地域の有志や役所など様々だ。タイムバンクに登録した人々のスキルは、ピアノを教える人、庭の掃除をする人、引っ越しを手伝う人、犬の散歩をする人など、実にユニークである。愚痴を聞く人や話し相手になるというのもある。中には、食材を購入したり食事をする際にも、タイムバンクに預けた時間貯蓄で支払えるものもあるので、本当にここだけで生活が回っているような気がしてくるのだ。
こうしてみると、「お金には変えられない特技」を持っている人や、「企業や個人事業主が提供していないサービス」を必要としている人が、想像以上に多く存在していることに気づくだろう。実は人々が求めているものは、大きくて立派なサービスではなく、日常的に起こる「ちょっと手伝ってほしい」ということが大半なのである。
「手伝ってくれたお礼に」という気持ちを循環させることは、タイムバンクで非常に大切なものだ。このようなタイムバンクの仕組みについて考えてみると、仕事というものは本来「お金を稼ぐだけの行為」ではないことに気がつく。
現代のビジネスシーンでは忘れられがちな、「人と人とのあたたかいやり取り」という意味合いが含まれていたことを思い出すだろう。
今改めてタイムバンクに関心が寄せられていることは、現代のような「何でもお金で解決する」という、合理的で、ある種の冷たさを孕む社会システムの限界を暗示するものかもしれない。
日本でタイムバンクが普及しない理由
発祥の地でありながら、タイムバンクが普及しない日本。その理由の一つに、日本のボランティア意識の低さがあると考えられる。内閣府の調査(令和4年度)(*)によると、1年間でボランティア活動をしたことがある人は、およそ17%とかなり低い。同じく寄付をしたことがない人、NPO法人や公益法人について知らない人も多く、日本では共助や公助の仕組みが広まっていないことが分かる。
なぜこのような事態になるのだろうか。それは、日本では古くから自己責任の意識が強い傾向にあり、問題は一人で解決することが美徳とされてきたことが原因と考えられる。災害時にもルールを守る治安のよさや礼儀正しさ、控えめな態度から「日本人は優しい」とされることが多いが、「助け合い」に関しては消極的という面は意外かもしれない。このことから、日本人は助けることも、助けられることも苦手という傾向があると考えられる。
また、自治会に加入しない家庭も年々増加しており(**)、古き良きご近所付き合いや親戚付き合いも「できるだけ関わりたくない」と考える人が増えているのだ。
このような状況では、日本でタイムバンクが普及しないことも頷ける。
(*)令和4年度 市民の社会貢献に関する実態調査|内閣府
(**)地域コミュニティに関する研究会 報告書|総務省
タイムバンクにおける課題
新しい経済の形として理想的なタイムバンクだが、当然ながら理想論に過ぎないという面もある。
その理由の一つが、あまり考えたくはないものの、適当な仕事をして時間を稼ぐような人が現れる可能性だ。この問題は、貨幣経済の社会においてもしばしば見受けられる。「休憩ばかりしている人と同じ給料なのが許せない」という話は、誰でも一度は聞いたことがあるだろう。特に時給のシステムは、1時間の労働をお金に換算するものであるため、「見えないところで遊んでても仕事をしても同じ1時間」とみなされることが課題点といえる。
こういった「不公平さ」にかかる問題への対処は、結局職場ごとの対応や評価に頼らざるを得ないことも多く、これといった一般的な解決策は生まれていないのが現状だ。
利用者全員にタイムバンクの根底にある互助精神や公平性をしっかり理解してもらうことも、タイムバンクの運営や活用には重要であるといえるだろう。
また、「人に頼むことが苦手」という人をフォローしきれないという懸念がある。そのような人々の中には、自分が提供することには抵抗がないという人も多い。そうした場合、従来のボランティアと変わらない形になってしまうのだ。
もちろん、ボランティア活動は称賛されるものではあるが、タイムバンクの概念とは大きく異なっている。タイムバンク団体が仲介し、誰もがサービスを受けられるようにフォローすることが重要だ。
まとめ
お金ではなく、時間を保管するというタイムバンク。資本主義社会においてはお金がすべての中心となり、人間はその価値観に支配されているといっても過言ではない。お金によって起こるトラブルは後を絶たず、生活苦や人間関係の悪化に直接繋がってくるものであるからだ。
当然お金にも利便性やモチベーションがアップするなど良い面もあるが、今一度お金という存在を見直してみることも重要だ。人間がもつ「誰かのために働く喜び」、そして「人から受ける恩恵の温かさ」を感じられる社会を実現するために、何ができるか、どんな意識を持つことが大切か、改めて考えてみたい。
参考サイト
Building the TimeBank movement|TimeBanks.Org
Our vision, mission and values | Timebanking UK
労力銀行からNPO法人へ | 特定非営利活動法人ボランティア労力ネットワーク
Banking the Most Valuable Currency: Time|Reasons to be Cheerful
Your time is currency!|Timebank.cc.
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