ペイフォワード(恩送り)とは?定義や身近な事例、課題点などを解説

ペイフォワードとは

ペイフォワードという言葉は、もともと英語の“Pay it forword”からきており、直訳すると「先に払う」という意味になる。これは、自分が誰かから善意を受けた後、それをまた他の誰かに渡す行動や考え方のことだ。ペイフォワードの目的は、善意を先へ繋いで循環させることであり、日本語では「恩送り」と言われていることもある。

これはもちろん、有償で行われるものではない。一人ひとりがお互いを思いやり、見返りを求めず無償で手を差し伸べる構造のことだ。つまり、ある種のボランティア活動という側面を持っている。

人が置かれている立場はそれぞれ異なり、「与えられるばかりだ」と感じる人もいるだろう。また「受け取り下手」という言葉に象徴されるように、特に日本人は面と向かった善意を受け取るのが苦手な人が多いとされている。

しかし、海外では「日本では落とし物が戻ってくる確率が高い」「観戦後の会場でゴミ拾いをしている」「困っている人に順番を譲る」といったことが、しばしば話題になる。このように無意識のうちに行われていることでも、ペイフォワードの一種なのである。

ペイバック(恩返し)との違い

ペイフォワードと似た言葉に、「ペイバック(恩返し)」がある。日本では古来根付いてきた文化でもある恩返しは、「いただいた善意を本人にお返しする」という行為だ。恩返しは基本的には一対一のやり取りであり、あくまでも「相手へのお返し」という意味合いが強い。

しかしペイフォワードは、必ずしも相手に返すのではなく、その対象は不特定多数だ。例え一人から受けた善意であっても、先送りする善意は二人や三人、もしくは百人に向けるという可能性もある。

ペイフォワードが注目されるきっかけとなった映画

ペイフォワードが注目されるようになったのは、2000年にアメリカで公開された映画『ペイ・フォワード 可能の王国』がきっかけとされる。

主人公である11歳の少年は、ある日教師から「もし世界を変えるとしたら、何をするか?」という課題を出される。その問いに対して少年が思いついたのは、「他人から受けた善意を、その人本人以外の3人へ渡す」というものだった。このアイデアはやがて大人たちにも広がり、ペイフォワードは本当に世界を変えるかもしれない…というストーリーだ。

元々ボランティア文化が盛んであるアメリカでこの映画は大きな話題となり、ペイフォワードの概念が広まったとされる。

身近な場でのペイフォワード

ペイフォワードは、なにも見知らぬ人からの恩を受けることばかりではない。特に人間関係が希薄になった現代社会において、知らない人から恩を受け取ることを、恐怖に感じる人もいるだろう。

しかし私たちにとってかなり身近なペイフォワードが存在する。それが、保護者や教師、上司などの「周囲の年長者から与えられる恩」だ。

子どもの頃の私たちは、保護者や恩師から与えられた無償の愛や善意、恩には気づかないものだ。また新社会人の頃は即戦力にもなれず、上司から善意の指導を受けるばかりになることも少なくない。

しかしその後、今度は自分が親や教師、上司といった立場になったとき、受けてきたものと同じように次世代へ無償の恩を繋いでいくといったことが、最も身近なペイフォワードといえるだろう。

ペイフォワードの事例

ペイフォワードの事例

ペイフォワードが生み出す、小さな優しさや思いやりの循環は、世界中で広まりつつあるという。具体的に、どのような事例があるのだろうか。

日本の事例

株式会社ボーダレス・ジャパンは、「カンパニオ」という仕組みによってペイフォワードを実現している。

取り組みの一つである「恩送り資金」というシステムは、カンパニオに集う各社が余剰利益から1%ずつ出し合って資金提供を行い、新しい仲間の創業を支援する。そして出資を受けた企業は、創業後に売り上げから1%を、また新しい起業家へ提供するという流れだ。自分が助けてもらったからこそ、次の人を助けたいという考えになるこの仕組みは、ペイフォワード型のビジネスといえるだろう。

ペイフォワードは「無償」や「ボランティア」という面から、ビジネスとは縁遠いように見えるが、実は近年ビジネスの場でもペイフォワードを取り入れる企業が増えている。近年は日本でもスタートアップやゼブラ企業が増えているが、このような企業に誰もが知る大企業が投資することも少なくないようだ。資金はもちろん、人脈や技術、知識もここに含まれている。

当然立ち上げたばかりの企業には、投資をしてくれた相手に恩返しをできる余裕はないだろう。しかしその後、業績を伸ばして大きく成長し、今度は新しく立ち上がった企業へ自分たちが奉仕する、といった例もあるという。資本力のある企業側は特に報酬を求めているわけではなく、後輩を育て、市場や業界を盛り上げようとする応援の気持ちが大きいようだ。

海外の事例

イタリアのナポリでは、1860年頃に始まった「保留コーヒー」という文化があるという。これはカフェなどでコーヒーを注文する際、コーヒーを必要とする誰かの分も先に支払うというシステムである。ナポリは特に貧富の差が激しく、コーヒー1杯すら買えない人々も少なくなかったようだ。そんな中で、自分のコーヒー代と共に誰かの分も支払い、そのコーヒーを必要とする人が現れるまで「保留」にしておく慣習が始まった。

時代が進むにつれ徐々に減少していたが、2010年頃のリーマンショックを機に「保留コーヒーネット」が立ち上がる。当時のナポリ市長はこれを受け、2011年より、世界人権デーにあたる12月10日を「保留コーヒーの日」と制定し、この文化は世界中から注目を浴びることとなった。

イギリスのスターバックスでは、2013年にCRSの取り組みとしてこのシステムを採用。“Suspended Coffee”として一杯分多く支払うことで、その金額が慈善団体Oasisに寄付される仕組みである。

また、2014年にはアメリカのスターバックスで、一人の女性が次の人のコーヒー代を払うペイフォワードを実践したところ、同じ日の同じ店舗で378人が同じようにペイフォワードを行うというムーブメントを巻き起こしたそうだ。

ペイフォワードの課題点

ペイフォワードの一番の課題は、単なる理想論になりかねないことだ。

もちろんペイフォワード自体はあたたかい行為ではある。称賛されることはあっても、あたかもそれが人間にとって正しいことかのように推奨された瞬間、ペイフォワードという概念は全く別の意味をなすことになってしまうだろう。それは、例えば「恩の押し売り」「歪んだ正義の強要」などに繋がってしまう恐れもあるのだ。

この善意の循環が広がっていくかどうかは、あくまで受け取った本人の価値観や意識によるところが大きい。もちろん、受け取った人によってはそこでストップしてしまうことも十分にありえるだろう。また、「何か裏があるのではないか」と疑心暗鬼になり、受け取ることさえ拒否されてしまう可能性もある。

そういった意味で、ペイフォワードは現実味を帯びない、偽善のような概念とされるきらいもあるようだ。

ペイフォワードを広げるには

現代社会では、SNSの発展や核家族化、地域活動の減少など、様々なことを起因とする人間関係の希薄化が大きな問題になっている。隣人の顔すら知らなくても気にならないという人々が、果たして他人のために無償の善意を向けることができるだろうか。

また、生活が苦しく他人のことなど考える余裕もない人が増え続ける社会では、人々の心はさらにすさんでいく。こうなってしまえば善意を提供するどころか、疑念から素直に受け取ることもできなくなってしまうかもしれない。

ペイフォワードが広がる社会は、間違いなく他人を思いやる心を持った人々であふれているだろう。まずは、すべての人が心に余裕を持てるような社会の実現を目指さなくてはならない。

まとめ

善意のバトンを繋ぐペイフォワード。思いやりの精神は相手の心をあたため、その輪が広がることで社会はよりよいものになっていくだろう。

これまでの人生の中を振り返ってみると、その大きさは別にして、他人から親切にしてもらった経験はないだろうか。ペイフォワードは実にシンプルな仕組みで、今この瞬間に些細なことから始めることもできる。まずは家族や友人、同僚など、隣にいる人へ親切にすることから始めてみることで、社会に善意が蔓延していくかもしれない。

【参考サイト】
他人思いやる「ペイフォワード」 無償奉仕で好循環生む|日本経済新聞
Pay It Forward
BORDERLESS
なぜ「ペイ・フォワード」は必ず失敗するのか?──『世界は贈与でできている』#3

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