焼却炉を手放すという決断。鎌倉市が歩む、ゼロ・ウェイストへの道筋【鎌倉サーキュラーシティレポート#7】

ごみを「燃やす」ことは、これまで多くの自治体にとって不可欠な行政サービスのひとつだった。しかし鎌倉市は、日本一のリサイクル率を誇る鹿児島県の大崎町や志布志町、徳島県の上勝町同様、その前提そのものを問い直した数少ない自治体のひとつだ。2015年3月と2025年1月に、市内2か所の焼却炉が老朽化により相次いで停止。新たな焼却施設を建てるか、焼却に頼らない仕組みへ舵を切るかという局面で鎌倉市は後者を選び、「ゼロ・ウェイストかまくら」という基本理念のもと、ごみの発生抑制を最優先とする3R(リデュース・リユース・リサイクル)の取り組みを拡充する新たな処理体系づくりを進めてきた。

焼却施設を持たないという決断はどのように下され、どのように市民との合意形成を図ってきたのか。鎌倉市環境部ごみ対策課の担当係長である進藤善太さんに話を訊いた。

鎌倉市環境部ごみ対策課担当係長 進藤善太さん

老朽化がもたらした選択

鎌倉市はかつて、今泉クリーンセンターと名越クリーンセンターという2つの焼却炉を運用していた。ところが2015年3月に今泉が、2025年1月には名越が、老朽化を理由に相次いで停止することが決まる。

2015年3月に稼働を停止した今泉クリーンセンター

施設を建て直すか、それとも施設の建設をしないという選択の岐路に直面する。

「当初は新たな焼却施設を建設してごみ処理を続けるという選択肢も検討されていましたが、建設候補地の周辺住民との協議が平行線だったこともあり、改めてこれからの鎌倉市にとって最適なごみ処理体制を協議することになったんです」と進藤さんは振り返る。

決断できた理由①「神奈川県のごみ処理広域化という方針転換」

決断の背景にあったひとつが、神奈川県が1998年に定めたごみ処理の広域化だ。ごみの排出抑制と減量化・資源化、ダイオキシン対策の推進を目的として、焼却施設を各市町村が個別に持つのではなく、ブロック単位でまとめて役割分担していくという方針転換だ。鎌倉市は2016年7月から広域化の枠組みを逗子市と葉山町の2市1町として、ごみ処理の広域連携を進めていくことになった。

2市1町で協議したところ、葉山町の可燃ごみも請け負っていた逗子市の焼却施設の稼働率から、受け入れの余地があった。

ただし、逗子市側には自らの施設の最大処理量への配慮があり、鎌倉市が焼却を委託できるのは年間およそ1万トン分まで。当時、年間2万9千トンの可燃ごみを抱えていた鎌倉市は残る1万9千トンは自らの手で減量・資源化を進めると同時に、民間の委託業者を探すという前提で協議が進められた。

出典:鎌倉市・逗子市・葉山町ごみ処理広域化実施計画

進藤さんによれば、当時焼却施設を自前で建設する場合と、新焼却施設を建設せずに広域処理や民間事業者で処理する場合を比較・検討した結果、「新焼却施設を建設せずにごみの減量・資源化を進めた方が費用面・環境面で効果的であるという結果が出たため、ゼロ・ウェイストを目指してごみの減量・資源化を進める方向に方針転換をした」という。

しかし、広域処理への移行は、2市1町それぞれの市民から歓迎ずくめで受け入れられたわけではなかった。2市1町共同で実施したパブリックコメントで鎌倉市民から最も多く寄せられたのは「なぜ自分たちのごみを自分たちのまちで焼却する責任を持たないのか」という声だ。また、鎌倉市よりも人口の少ない逗子市に処理を委ねるという構図に対する不安も根強かったという。

出典:鎌倉市・逗子市・葉山町ごみ処理広域化実施計画(素案)についてのパブリックコメント実施結果

「鎌倉市民は、今も昔も、ごみに対する意識が高い。資源の分別も種類が多い中で、他市に任せていいものなのかというのは、やはり一番大きな壁でした」と進藤さんは振り返る。

市はこうした懸念に対し、単純なコスト比較にとどまらず、「市民感情への配慮も欠かせない」と考えていたという。逗子市側にも「なぜ鎌倉市の分を受けなければならないのか」という声があった中で、鎌倉市が全量を押しつけるのではなく、自らの減量・資源化を前提として、その上で残った分だけを引き受けてもらうという組み立てで協議を重ねていった。

併せて災害時のリスク管理も広域化・分散化の重要な論点だった。鎌倉市は減量や資源化を進めている間は、広域処理とともに民間事業者での処理も併用しているが、千葉・静岡・栃木など遠隔地の民間企業6社に分散。特定の地域が被災しても、他の委託先でカバーできる体制を意図的に築くことでリスクの低減に努めた。がれき等の災害廃棄物そのものについては、別途処理先を確保する方針だとしている。

決断できた理由②「鎌倉市のリサイクル率を押し上げた剪定材のリサイクル」

もうひとつ、鎌倉市が焼却炉を持たない決断ができた背景には、リサイクルにより焼却ごみを大幅に削減してきた実績があった。鎌倉市のリサイクル率は59.8%(2024年度)と人口10万人以上50万人未満の都市で全国トップを誇るが、それを支える最大の要素が「植木剪定材の資源化」だ。

「年間およそ1万トンにのぼる剪定材を発電用のチップや土壌改良材として活用することで、リサイクル率をおよそ20ポイントも押し上げているんです」

鎌倉は市域の約2割が緑地であるため、剪定材や落ち葉が可燃ごみの多くを占めていた。そこで1995年に剪定材などを処理・資源化するための受入事業場を関谷に開設。

鎌倉市関谷にある植木剪定材受入事業場(鎌倉市公式noteより)

1997年10月に開始した植木剪定材の分別収集により本格的な資源化・堆肥化を実施したのだ。

剪定材は茅ヶ崎の民間事業者によりチップ化され、鎌倉市内でバイオマス燃料や土壌改良材として再利用されている(鎌倉市公式noteより)

2001年に全国で野焼きが原則禁止とされて以降、鎌倉のように緑地の多い自治体では植木剪定材が可燃ごみを増やす原因となっている。資源化のための委託先を確保し、歳出を割り当てるというスキームを行政が作れるかどうかが、実践できる自治体とそうでない自治体を分けているようだ。

決断できた理由③「有料化が引き出したごみの発生抑制」

そして、「焼却場を持たない決断をできた最大の理由は、ゼロ・ウェイストという目標に対する市民と事業者の協力体制です」と進藤さんは強い感謝の思いを語った。

2006年10月に策定された「第2次鎌倉市一般廃棄物処理基本計画」で基本理念として明記された「ゼロ・ウェイストかまくら」という目標に向け、市民や事業者の協力でごみの排出量は減少傾向にあった。数ある減量施策の中で、最も効果が大きかったのは2015年4月に始まったごみの有料化だ。

「経済的インセンティブというのは、とても大きかったようです」

有料化前後の2014年と2015年を比較すると、ごみの量は約4,000トン減少した。しかもそのうち約3,500トンは、リサイクルのための分別が進んだ結果ではなく、純粋な「発生抑制」――無駄な買い物をしない、食べ残さないといった行動変容によるものだったという。

出典:第3次鎌倉市一般廃棄物処理基本計画(2021年改定版)

有料化に先立ち、市は生ごみ処理機購入への補助制度も周知していた。

「有料化になる前に、自宅で生ごみを肥料化すればごみが減らせるということを徹底的に周知しました」

結果、申請数は年間で1,000件を超え、圧倒的な伸びを見せた。数年が経過すると申請件数自体は落ち着いていったが、これはすでに普及した結果であり、意識の後退を必ずしも意味しないという。

このほかにも、事業系ごみの搬入前検査による不適正混入の抑止や、観光地からの公共ごみ箱の撤去と「持ち帰り運動」の広域展開など、鎌倉市は複合的な減量施策を積み重ねてきた。特にごみ箱の撤去は、「ごみがごみを呼ぶ」状況を断ち切る上で大きな効果があったという。

戸別収集がもたらした、もう一つの変化

焼却施設は新設しないという発表の後に決定し、2026年4月から市内全域で導入された家庭ごみの戸別収集も、さらなるごみ減量の行方を握る施策だ。

出典:鎌倉市戸別回収リーフレット

従来のクリーンステーション方式に比べ、収集車両の台数やルートは増え、コストも増加する。それでも市が踏み切ったのは、カラスなどによる散乱被害や、集積所の清掃・管理といった住民の負担を軽減するためでもあった。

戸別収集を先行導入した地区へのアンケートでは、動物被害の減少やごみ出しの負担軽減に「効果を感じる」という回答が多数を占めた。ごみ出しの負担については、約半数が「楽になった」と答えている一方、費用対効果については、増加したコストと市民サービス向上を単純に比較するのは難しく、今後の課題として市も認識しているという。

それでも「継続的かつ安定的なごみ収集体制を構築するために必要な施策」と位置づけ、収集データの分析を通じたルートの効率化や車両台数の適正化を進めている。

行政が描く「ゼロ・ウェイストかまくら」への未来地図

鎌倉市は2035年末までに、現状約2万トンの焼却量を1万トンまで削減するという高い目標を掲げている。そこには現在の2市1町による広域連携が期限つきのものという事情もある。現在、1万トンの焼却を委託している逗子市の処理施設は老朽化により2034年に稼働を終える予定なのだ。すでに新たな枠組みをめぐる神奈川県主導の見直しも進んでおり、2028年3月頃には方向性が示される見通しがあるとはいえ、そこにあぐらをかかない。2026年3月には「第4次鎌倉市一般廃棄物処理基本計画」に「これからのごみ処理体制」として、環境負荷の少ない「循環型社会」を形成するため、さらなる資源化や食品ロスの削減などの具体的な方向性を示している。

市が次のターゲットに定めているもののひとつが、可燃ごみのひとつである使用済みおむつの資源化だ。令和5年度に実証実験を実施し、分離処理したプラスチックやパルプを製品原料として活用できる可能性を確認しているが、最適な処理手法や提携先はまだ検討段階にあるという。

出典:使用済み紙おむつの資源化に係る実証実験報告(鎌倉市環境部ごみ対策課)

「ゼロというのは無理だと思う。ただ、ゼロに近い数字というのは可能だと考えています」と進藤さんは語気を強めた。焼却炉を持たないという決断は、コストや効率の計算だけでなく、市民一人ひとりの分別への協力があってはじめて成立した。鎌倉市がこれから描く「ごみを出さないまちづくり」は、行政の制度設計と、長年にわたって培われてきた市民意識との掛け算の先にある。