「Megloo」はなぜ鎌倉から生まれたのか。リユース容器シェアリングの社会実装を地域特性から読み解く【鎌倉サーキュラーシティレポート#6】

日本のサーキュラービジネスにおいて、着実な広がりを見せているリユース容器シェアリングサービス「Megloo」。株式会社カマンが2020年に鎌倉で始めたこの仕組みは、わずか5店舗の実証実験から数年で全国8都市以上、そして音楽フェスやスポーツイベントの会場での利用も広がっている。

仕組みはとてもシンプルだ。対応する飲食店でユーザーが「Meglooでお願いします」と伝えてQRコードを読み込むと、リユース容器でテイクアウト商品を受け取れる。食べ終えたらオフィスや市役所などの返却ボックスへ入れるだけで、業務委託先がアプリの情報をもとに回収し、洗浄したうえで再び飲食店へ届けてくれる。

Meglooの使い方(公式サイトより)

環境課題となっている使い捨てのテイクアウト容器を、地域で共有し合う仕組みへと置き換えた事業デザインだ。

なぜ「Megloo」は多くの飲食店がひしめく大都市・東京でも、変革しやすそうな小都市でもなく、人口17万人の中都市・鎌倉で生まれ、社会実装に至ったのか。創業者である善積真吾さんへの問い掛けから見えてきたのは単に「環境意識の高いまち」というだけではない鎌倉のポテンシャルだった。

起点は「欲しいものがなくなった」という意識変容

株式会社カマン 代表取締役社長 善積真吾さん

善積さんは慶應義塾大学理工学研究科を修了後、2005年ソニー株式会社へ入社。子どもとの家族写真に撮影者である保護者が写らないことの寂しさから発想した全自動カメラロボット「Party-shot」をはじめ、約30件の特許出願に関わった。その後「新しい事業を生み出すには技術だけでなく経営を学ぶ必要がある」とMBAを取得。社内の新規事業創出プログラムオーディションの立ち上げや、スタートアップアクセラレーションプログラムのプロデューサーとして100以上の企業・大学・NPOの事業創出を支援してきた。長年にわたって「顧客中心のものづくり」に携わってきた結果、行き着いたのは、消費が飽和しきった社会への違和感だった。

「様々な顧客ニーズを見つけて新たな商品を生み出してきたのですが、気がつけばものに溢れ、自分では欲しいものがなくなってしまったんです」

大量生産大量消費の限界を、自らの意識変容を通じて感じたのだった。

同じ頃、子どもの誕生とともに子育て環境を求めて東京から鎌倉へ移住。プライベートでの選択が、結果的に事業の土台となる場所を決めることになる。転機はコロナ禍だった。在宅勤務がもたらした余白時間に個人で鎌倉市内のテイクアウト情報サイトを立ち上げると、評判を呼んだ。

鎌倉のテイクアウト情報を集めた「鎌倉応援メシ」          

事業のきっかけはユーザーから寄せられた中に多かった「容器ゴミが気になる」という声。

「言われてみれば自宅のゴミ箱もテイクアウト容器だらけ。プラゴミの日はゴミ袋が2袋もあって、これは何とかしないとと思うようになった」

散歩のたびに道端のゴミを拾うようになった子どもの姿にも影響を受けたという。

「子どもたちに残すべきなのはどんな未来なんだろうと考えるようになりました」

調べたところ、日本では年間約800万トンのプラスチックが廃棄され、その半分の約400万トンが容器包装だとわかった。

「次に目指すべきは使い捨てではない、巡る社会なのではないか」

“すてるから、めぐるへ”――。その思いが、Meglooというサービス名の由来にもなった。

「ちょうどよさ」という、鎌倉の実験条件

「当時の仮説は、①ユーザーは返す手間があっても使ってくれるのか②飲食店は洗浄の手間が増えても導入してくれるのか③運営側のオペレーションは回せるのか。それを検証するために、鎌倉で小さな実証実験を始めたんです」

実証実験は「鎌倉応援メシ」の延長線上で始まった

10万円ほどの自己資金を投じ、既存の容器を100個ほど購入。顔なじみの飲食店5店舗の協力を得て、希望するユーザーにはリユース容器でテイクアウトメニューを提供してもらった。必要なソフトウェアは自ら開発し、容器の回収作業も自分でこなした。

この最初の一歩がなぜ鎌倉で成立したのか。善積さんが挙げた理由は、規模感の絶妙さだ。

「人口数千人の村でやっても、村だからできたよねで終わってしまう。かといって渋谷でいきなりやろうとすると混沌としすぎる」

人口17万人の中都市かつ、年間2000万人が訪れる観光地という地域特性は実証実験としての再現性を持ちながらも、都市の複雑さに飲み込まれない規模だった。加えて全国的な知名度が、後に全国展開する際の「鎌倉での実績」というブランド価値へと転化した。田舎にも都会にも違和感なく持ち込める中都市の立ち位置は、善積さんが意図して選んだものではなく、移住先としてたまたま鎌倉を選んでいた偶然の産物だった。

もう一つの理由は、受け継がれてきた文化と歴史、自然を大切にしてきた鎌倉の気風。

「海洋プラスチックが生活圏にある身近な問題であること。環境に良い取り組みならやってみようよ、と言ってくれる人も多かった」

2019年に発表された焼却施設の廃止も背景にあった。ゴミの削減が、多くの市民や事業者にとって「自分事」として捉えられ始めていた。

こうした土地柄が、協力店舗を集める際のハードルを下げた。収益性すら見えていなかった段階だからこそ、損得抜きで試させてくれる鎌倉の人々の寛容さが、事業構想を前に進める大きな原動力になったという。

全国化を後押しした、鎌倉ブランドへの反応

鎌倉での小さな実証実験が朝日新聞やNHKをはじめとする大手メディアに取り上げられたことで状況は一変する。

実証実験を報じた朝日新聞の記事

北海道から沖縄まで全国8都市ほどから導入希望の問い合わせが届いた。

「想像以上の広がりに、これは本気でやらなければと思った」と善積さんは振り返る。

全国展開には自社での容器開発とシステムの再構築が不可欠だった。補助金や助成金、創業者融資、クラウドファンディングなどあらゆる手段を使って開発資金を手に入れた。

Meglooを急速に全国区へと押し上げた決定的な要因は、鎌倉で起きていることに対する外部の反応だった。事業の「初期条件」は鎌倉という土壌が生んだものだが、成長を後押ししたのは「鎌倉発祥」というブランドに対する信頼性でもあったのかもしれない。

一方、実証実験では強い手応えがあった反面、壁にも直面していたと善積さんは語る。

「飲食店側の経営リスクも鑑み、リユース容器の利用をユーザーの選択制にしたことで、結果的に環境意識の高い人にしか利用されなかった」

年間400万トンという規模の課題に対し、一部の意識層へのアプローチだけでは社会的インパクトが小さい。この壁を越える答えが、イベントでの全面導入だった。選択肢がひとつしかない場面においては意識の高低にかかわらず誰もが必然的にリユース容器を使うことになる。2022年10月、鈴鹿サーキットで開催されたF1シリーズ日本グランプリレースなどでの大規模実証実験を経て、Jリーグを始めとするスポーツイベントや音楽フェス、地域の祭事などでのリユース容器のレンタルサービスがMeglooの柱のひとつへと成長していく。

ものづくりの経験に裏打ちされた容器設計

「Megloo」の容器群

サービスを支える容器は、500回以上繰り返し使える堅牢性と、洗いやすい形状を両立させている。

「凹凸をできるだけ少なくしたり、パッキンを外して洗うのは大変なので、パッキンレスで密封できる設計にしました」

Meglooはゴミ排出量においてはこれだけの環境負荷を低減している

「デザイン面では”美味しそうに見える”という点にもこだわりました」

社内や仲間内の懇親会などでの利用も増えているという

水分の多い料理を入れるとふやける紙容器に比べ、剛性と密封性の高さは飲食店だけでなく、ユーザーからも評価されたという。

一方、コスト面では月額制で容器を貸与し、月3回転以上すれば、紙やバガスを使った環境配慮型の使い捨て容器よりも安くなるビジネスモデルを設計にした。

これらは「顧客中心のものづくり」の経験で培われた善積さんの設計力が遺憾なく発揮された部分でもある。

「丁寧に使って丁寧に返す」国民性が秘めた潜在的ポテンシャル

鎌倉で始まったMeglooは、東京の中目黒・蔵前・有楽町、静岡、北海道などへ拡大。フードデリバリー「Wolt」との連携実績もあり、日常利用の街モデルと大型イベントでの全面導入を両輪に展開を続けている。

Meglooの導入により、これだけのCO2排出量を削減できる

善積さんが繰り返し強調するのは「経済合理性」の重要性だ。「環境に良いから」という正論だけで事業は続かない。「誰がお金を払うのか」を具体化し、既存の経済システムの中で戦える収益性を確保することが不可欠だという。日本の強みとして挙げるのは、規制が先行する欧州とは対照的な、国民の高いモラルだ。

「ヨーロッパでは乗り合わせたタクシーの運転手さんでも環境問題に対する持論を展開してくるように、誰もが環境問題への意識が高い。日本ではそういうことが少ない一方で、小町通りを歩いてもゴミひとつ落ちていない」

その強みを事業で実感したのは、東南アジアで開催されたリユース事業者のカンファレンスだ。

東南アジアのある国のリユース事業者は「イベントでの容器の返却率が48%。利用者の半分は持って帰ったり、捨てちゃったりする」

一方、Meglooではイベントでも95%以上が返却されるという。(※街モデルはQRコードを読み込み99.8%の返却率)

「どうやったら95%も返却されるんですかと聞かれたので、ただ周知を徹底して返却導線をうまく設計しているだけですよと答えたら”It’s a Japanese!”と驚かれました」

中野セントラルパークでの実証実験。返却BOXのデザインにもこだわったという

〈丁寧に使って、丁寧に返す〉という精神が根づいていることこそが、日本がサーキュラーエコノミーの先進国になれるポテンシャルだと善積さんは見ている。

鎌倉からまた始まっていく

善積さんは、40歳でソニーを退職し、いくつかの事業案を仮説検証していきMeglooに行き着いた。「失敗してもなんとかなる」という軽やかな覚悟とそう思える空気が鎌倉にはあったという。

「違う都市に移住していたらまた違っていたかもしれない」

鎌倉が善積さんにもたらしたのは、実証実験の場だけではない。神奈川県の起業家コミュニティ「HATSU鎌倉」や面白法人カヤックも主催企業に名を連ねる「カマコン」といったコミュニティを通じて、事業推進に必要な人脈が広がっていった。その恩返しという意味でも、善積さんはHATSU鎌倉のメンターをやったり、2024年にスタートした「鎌倉サーキュラーアワード」で実行委員会のメンバーとして立ち上げに携わった。声をかけてくれた慶応義塾大学SFCの田中浩也教授とはものづくり時代からの顔見知りだったという。

「同じようにものづくりに携わってきた田中教授が、同じくらいの時期に、同じ鎌倉で循環者に転身したと聞いて、何か運命的なものを感じたんです」

サーキュラーアワードに全国から寄せられる事業プランを「どれも素晴らしいし、自分にとっても刺激になる」と賞賛する善積さんは日本におけるサーキュラービジネスの展望をこう語る。

「未利用のまま捨てられているものはまだたくさんある。大量に捨てられているものに価値をつけられれば新しいビジネスになる。残念だと思うのは、チャンスはたくさんあるのに、プレーヤーが少ないこと」

善積さんが手掛けるリユース容器事業においても本格的に取り組んでいるのは国内では数社ほどだという。

「裏を返せば、まだ先駆者メリットがたくさんある状況だということでもある。チャンスに溢れた分野だと思います」

株式会社カマンは2026年5月30日(ゴミゼロの日)に社会的・環境的パフォーマンス、透明性、説明責任において基準を満たしていることが検証された企業に与えられる国際認証「B Corp」を取得を発表した。

B Impact Assessmentという何百もの設問一つ一つが、「経営への本質的な問いかけばかりだった」

鎌倉発祥のサーキュラービジネスが海を越えてグローバルな基準へと到達した。鎌倉サーキュラーアワードの事業者部門でも、2026年度はB-Corpの指標に「鎌倉らしさ」を交えた”世界に誇れる共生循環事業者部門”が新たに設定された。次なるMeglooが鎌倉から生まれる日もそう遠くはないのかもしれない。