ひとがまちをつくり、まちがひとをつくる。ゼロ・ウェイストかまくらの土壌を育む市民コミュニティ「ゴミフェス532」の力【鎌倉サーキュラーシティレポート#5】

コミュニティの語源は、ラテン語の「communitas」にあるとされる。「共に(com)」「役割・贈り物を担う(munus)」。それぞれが何かを持ち寄り、責任を分かち合う共同体。鎌倉で2020年に活動を始めた市民団体「ゴミフェス532」はそれを体現する存在だ。532と書いて「ゴミニティ」。「ゴミ」と「コミュニティ」を掛け合わせた造語だ。行政の施策や事業者の取り組みに依存するのではなく、市民一人ひとりが違和感や問題意識を持ち寄り、「ゼロ・ウェイストかまくら」の実現を目指し、 鎌倉のゴミ削減という地域課題に主体的に取り組んでいる。 

豊かさの裏側にあった違和感

運営委員の平野リエさんは20年前、結婚を機に鎌倉の腰越に移り住んだ。

「ゴミを生み出しているのは誰なのかを、いつも考えていました。人間がつくるものは、いずれすべてがゴミになる。でもその処理の仕方は、まだきちんと確立されていない。そういう社会の在り方に対してずっとモヤモヤした思いがありました」

最初の行動は東京で暮らしていた頃に多摩川河川敷で参加したゴミ拾いイベントだった。拾って終わりではなく、プラスチックが生態系に及ぼす影響とあるべき社会の姿を伝える主宰者の言葉に共鳴し、ゴミ拾いのNGO活動に参加した。

「人間以外の生き物はみんな循環している。虫も動物も、最後は土になって誰かを育んでいる。人間だけがその輪の外でゴミを滞留させ、他の生命を傷つけている。その現実をどうしても飲み込むことができなかった」

10年近くメーカーの営業職として売り上げに貢献してきた平野さんは、自分の能力を社会のために活かしたいと考えるようになっていた。通勤電車の中吊り広告で「社会や環境がよくなって、そしておもしろい」をテーマに未来をつくるSDGsマガジン『ソトコト』と出会い、ともに持続可能な社会づくりを牽引していたNPO法人「Be Good Cafe」のディレクターに転身する。コミュニティ・カフェの先駆けとなったこの空間で、環境問題や社会貢献をカジュアルに語り合う場づくりを学んだ。NGOでのゴミ拾いと「Be Good Cafe」での経験が鎌倉に移住した平野さんを「ゴミフェス532」へと導いていく。

処理施設の消滅方針が、市民の声を束ねた

誕生のきっかけは2020年8月に開催された鎌倉活性化プロジェクト「カマコン定例会」だ。参加者それぞれが「鎌倉を良くするためにやりたいこと」を提案し、具現化するためのアイデアをブレインストーミングしていく。普段は福祉や空き家など異なる3つのテーマが話し合われていたが、この回の提案はすべてが「ゴミ」に関することだった。マイボトルの普及活動、洗剤パックのリサイクル、生ゴミ削減プロジェクト。偶然の一致ではない。背景には2019年3月に鎌倉市が発表した「老朽化により運転停止する名越クリーンセンターに代わる新たな焼却施設は建設しない」という将来のゴミ処理体制に関する方針転換があり、それによって暮らしを左右される市民一人ひとりの思いが、期せずして同じ場に集まっていた。

こうした声を受け、幹事企業の一社であるカヤック代表・柳澤大輔氏が「3つまとめてゴミフェスみたいなイベントでやるのはどう?」と提案。2021年5月30日(ゴミゼロの日)の開催に向けて、緩やかに始動したのが「ゴミフェス532」だった。

平野さんは友人だった提案者のひとりから、ゴミに関する知見とイベント運営の経験を買われ、10月に立ち上げ事務局に参加する。

「初対面の人同士も多かったのと、コロナ禍でのオンラインミーティングが続く中で、誰もがカジュアルに楽しく話せる場づくりをするのが最初の役目でした」

自分の能力を社会のために活かしたいと考えていた平野さんが営業職やイベントディレクターとして身につけたスキルを求められる場が、そこにあった。

資金調達のためのクラウドファンディングでは達成率119%の「ゴミナシ(5,370,000円)」の支援を得た

「市民発!コミュニティの力でゴミ問題を楽しく解決!」

ゴミフェス532のスローガンは「市民発!コミュニティの力でゴミ問題を楽しく解決!」。そこに込められた思いを平野さんはこう説明する。

「社会課題の話って重くなりがちじゃないですか。でも楽しいと思えなければ、活動は続かない」

大切にしているのは5つの「る」だ。

①「知る」…鎌倉市の課題、現状を把握する。

②「語る」…思っていることを仲間(コミュニティ)と話す。

③「考える」…知恵を出し合い、解決するためのアイデアを生む。

④「やる」…立場を越えて、それぞれができることをやる。

⑤「続ける」…無理なく、楽しく。

年に一度のイベントでは「鎌倉市の資源リサイクル率」や「コンポストの導入補助」を始めとする鎌倉市のごみ減量対策課の取り組みと現状を市民に伝える時間を必ず設け、市民・行政・事業者・大学それぞれの立場から知見を持ち寄る姿勢を貫いてきた。

第1回のゴミフェスではキエーロの発明者である葉山の松本信夫氏を講師に招いて「はじめてのコンポスト生活」も実施

「ゴミフェス532」を起点に生まれたのが、コンポストで家庭の生ゴミを削減する「キエーロ部」、海や町のゴミを収集する「ごみ拾い部」、ジョギングをしながらごみ拾いをする「プロギング部」、市内の電子ゴミ問題を解決する「鎌倉都市鉱山プロジェクト」など、市民一人ひとりがそれぞれの方法論でゴミの削減を目指す10の「部活動」が生まれた。運営委員としてすべての部活動を横断する平野さんが、子育て当事者としても伴走してきた部活動のひとつが「サステな学校プロジェクト」だ。

事例①「朝顔の鉢をプラスチックゴミにしたくない」

それは、ひとりの母親の声から始まった。子どもの学校教材である朝顔のプラスチック鉢はなぜサステナブルなものではないのかという小さな違和感。

全国の小学校で使われる朝顔のプラスチック鉢は年間300トンが廃棄されている

「先生に問い合わせて、素焼きのものでやりたいって言ってみようと思うんですけど——という相談を寄せてくれたお母さんがいたんです。一度は断るなんてできるの?と聞いたんですが、彼女の「買いたくないんです」という純粋さに打たれました」

その声を起点に、ゴミフェス532では市内の保護者を対象に学校教材に関するアンケートを実施した。

大量生産品である学校教材にはプラスチック製のものが多いことが改めて可視化された

アンケートの結果を鎌倉市の教育長に上申した結果、使わなくなったプラスチック鉢を回収して下級生にリユースしたり、中学校の3Dプリンターの素材として再資源化する仕組みが学校現場に生まれた。ひとりの保護者の違和感が、学校教材の在り方を見直す契機となった。

「市民の意見を拾って、学びにつなげたり、仕組みを変えたりする。それがゴミフェス532の役目だと思いました」

事例②「学校給食のプラスチックストローをなくしたい」

もうひとつのプロジェクトは、小学生の女の子の発案から始まった。SDGsの授業を受けた彼女は「明日からできることは何か」を考え、給食のプラスチックストローを使わない取り組みをひとりで始め、クラス、学校へと輪を広げていった。

「小学校の高学年になると、ゴミフェスで自分の取り組みについて話してくれるようにもなりました。プラスチックストローが与える影響をなんとか自分の力で変えたいという切実さに胸を打たれました」

発案者の小学生と平野さんらゴミフェス532メンバー

児童の行動は、市内で行われていた専門的な研究と結びついた。彼女と同じ思いを持っていた慶應義塾大学・宮本憲二博士の微生物分解研究と重なり、生分解性プラスチックのストローを小学校の花壇に埋めて分解の過程を観察する「地球に還るストロープロジェクト」へと結実したのだ。この実験がプラスチックを分解する微生物「ニシカマエンシス」の発見という思いがけない成果ももたらしている。

ニシカマエンシスはラテン語で「西鎌倉の土から取れた」の意

現在、鎌倉市内の小中学校の給食用のストローは、生分解性のものへと切り替えられている。

「彼女の行動が「生分解を授業で学ぼう」という教育長の言葉を引き出し、給食用のストローを生分解性のものに変えさせた。行政を動かしたんです」

事例③「テニスボールに第二の人生を」

高校のテニス部に所属する男子生徒がゴミフェス532に持ち込んだのは廃棄されるテニスボールへの罪悪感だった。フェルトとゴムと接着剤という複数素材でできているテニスボールは寿命が短い上に、単一素材でないためリサイクルが難しく、国内だけで年間300万個、世界では4千万個が廃棄されているという。

まちのコインを活用した廃テニスボールのリユースにも取り組んだ

「大好きなテニスが、これほどのゴミを生んでいる。その現実を彼はどうしても受け入れられなかったそうです」

ゴミフェス532の若者組織である「ゴミフェスユース」に参加した彼は、大人たちの伴走を受けながら、廃棄ボールを粉砕し、アップサイクル工房と組んでテニス観戦用のクッションを試作。鎌倉市や神奈川県のU18ビジネスコンテストで優勝するまでにプロジェクトを育て上げた。

「いいことしたね、で終わらせず、それをどう事業化していくかを一緒に考える。サーキュラービジネスの相談ができる大人たちが地域にいることも、鎌倉の財産だと思っています」

市民不在だった「循環者になるまち」の扉を叩く

2022年、平野さんは慶應義塾大学と鎌倉市による共創の場形成支援プログラムCOI-NEXTの第1回シンポジウムをオンラインで視聴し、違和感を覚えたという。

「その場に市民がひとりもいなかったんです。行政と大学と事業者だけで話が進んでいる。「循環者になるまち」を掲げているのに、なんで市民がいないんだろうと思って、ゴミフェス532として文句を言いに行ったんです(笑)」

平野さんが扉を叩いたCOI-NEXTの活動拠点である大町のリサイクリエーション慶應鎌倉ラボにいたのが、プロジェクトリーダーである慶應義塾大学SFCの田中浩也教授だった。

リサイクリエーション慶應鎌倉ラボ

市民不在であることの違和感を伝えた平野さんを田中教授は「ゴミフェス532さんが目指す鎌倉について聞かせて下さい」と受け入れた。それぞれの方向性から共通の目標に取り組む者同士の新たな対話がそこで生まれた。この出会いがきっかけとなって、田中教授は翌年開催された「ゴミフェス532」に登壇。市民というパズルのピースが加わったことで、COI-NEXTは産学官から産学官民の連携へと発展した。現在、平野さんはリサイクリエーション慶應鎌倉ラボ(慶應義塾大学×鎌倉市)が参画する、JST COI-NEXT リスペクトでつながる「共生アップサイクル社会」共創拠点のプロジェクトリーダー補佐も務めている。

2023年から4カ年の成果報告と2026年から4カ年の計画発表会にて

「大学の研究も、行政の施策も、市民に伝わっていなければ意味がない。中間支援者としてそれぞれの取り組みや思いを翻訳して伝えていく。循環させていくのが、営業スキルを活かした、わたしの役目です」

PL補佐として10 年間に及ぶ壮大なプロジェクトに携わるようになったことで「リスペクトでつながる共生アップサイクル社会」という田中教授の理念の意味を強く実感しているという。

「まちを愛する多くの人たちと、お互いを讃え合いながら、それぞれが出来ることをまっとうし、見たい景色を実現していきたいです」

一方で、今もゴミフェス532の運営委員を続ける平野さんには「市民」という自身の立ち位置へのこだわりがある。

「組織に参加することで行政や大学、事業者の側に立つのは自分としては違うと思っている。市民としての目線を大切にゴミ削減に取り組んでいきたい」

Instagramで年度ごとに子どもの教科書を買って捨てることのモヤモヤなども発信している

戸別収集が醸成する、市民一人ひとりの責任感

2025年1月にゴミ焼却施設がなくなったことと併せて市民生活を大きく変えたのが、ゴミの減量と分別の促進を目的に2026年4月から全域で開始された「燃やすゴミの戸別収集」だ。ゴミステーション方式から各家庭前での収集に切り替わったことで「自分のゴミは自分の責任」という感覚が市民一人ひとりに芽生えたのではないか、と平野さんは見ている。

「ゴミステーションが荒らされたり、臭いが出たりする心配はなくなりました。一方で収集する側の手間や経費は増えている。それでも大きなクレームは出ていないと聞いています」

鎌倉市の燃やすゴミ用指定袋は有料(10枚入りで約800円)。コンポストで生ゴミを堆肥化すれば燃やすゴミの量だけでなく、家計負担も削減できる。以前からキエーロを利用している平野さんは燃やすゴミを出すのは月に1〜2回程度だという。

平野さん宅のキエーロ

「開始されたばかりなのでゴミの減量と分別がどれだけ進んだかが数字で可視化されるのはこれからですが、先行地域では回収の手間が増えた収集スタッフの方に「ありがとうございます」と声をかける市民が増えたという話を聞きます。戸別回収による市民の行動変容もゴミの削減とともに見守っていきたいです」

ひとがまちをつくり、まちがひとをつくっていく

ゴミフェス532の運営者という市民の立場から、市民がどう循環者になっていけるか、鎌倉が「循環者になるまち」になっていけるかに取り組んできた中で平野さんが考えるようになったのは、次の世代にバトンを渡していくことだという。

「ゴミ問題に市民一人ひとりが旗を立てて取り組む大人たちの背中を見て、自分の旗を立てる子どもたちも出てきました。まだまだたくさんの課題があるからこそ、この好循環が続いていけばと思っています」

ゴミフェス532もまちを良くしたいと願う市民の提案から生まれた。

「市民が旗を立てやすい空気が鎌倉にはあるんだと思います」

市民一人ひとりの違和感や問題意識から始まった小さな実践が仲間を集め、部活動のように枝分かれして、学校や行政、大学の研究を巻き込みながら、まちを変えていく。

「私が思うまちの地域資源はやっぱり”ひと”です。鎌倉には素晴らしい人がたくさんいる。ひとがまちをつくり、まちがひとをつくっていく。自然環境や他の生命をゴミで傷つけない社会の仕組みを次の世代に残していけるよう頑張っていきたい」

鎌倉サーキュラーシティの土壌を育んでいるのは、コンポストの微生物のように目に見えない市民の力なのかもしれない。