愛着と技術が素材を転生させる。naluが伴走する「つくる側」と「つかう側」が共に創る地域の資源循環|鎌倉サーキュラーシティレポート#4

資源循環を推進する方法論は、国や地域の背景によって様々だ。例えばフランスやドイツなど欧州では、使い捨てプラスチックの段階的禁止を盛り込んだ法規制によって強力に市場を牽引している。一方でアメリカでは、ESG投資の機運や企業のコスト削減、市場における経済優位性をインセンティブとして民間主導の循環モデルが発展してきた。 

「ならば、鎌倉はどうあるべきか?」という問いに、「共に創ることだと思います」と答えてくれたのは、株式会社naluのみなみなおこさん。鎌倉を拠点に〈企業の技術〉と〈地域のリアルな課題〉をつなぐ、実践的な循環者のひとりだ。

みなみさんは2025年、湘南スタイルmagazineで「湘南の未来を彩る100人」にも選ばれている

「朝だけプラなし生活」から見えた、大量消費を止める構造的課題

鎌倉で暮らすみなみさんが環境問題に当事者意識を持ったきっかけは、サーフィンだった。

「パドリングのたびに海藻ではなく、海面を漂うビニール袋などのプラスチックゴミが手に触れるんです。そのたびに、すごく悲しい気持ちになっていました」

行動変容を決定づけたのは、2018年に由比ヶ浜に漂着したシロナガスクジラだ。胃から検出された大量のプラスチックゴミに大量消費型の暮らしを当たり前と思えなくなった。

「まずは自分にできることからと、プラスチックを使わない生活にチャレンジしたんです」

最初からすべてを変えるのは難しいと、「朝の生活習慣」に限定した。出汁パックを鰹節や煮干しに変え、味噌は量り売りで購入。歯磨き粉や洗剤もプラスチック容器を使用していないものに替えた。取り組みを「モーニングバトン」と名付け、Instagramで発信すると多くの共感を呼んだ。しかし、実践を続けるうちに、個人の努力だけでは超えられない構造的な課題に直面した。

みなみさんのInstagramより

「環境に配慮した製品は一般的に単価が高く、地元の流通ルートだけでは手に入りにくいという現実がありました」

プラスチックトレイを使いたくなくても地元スーパーの精肉売り場では大容量パックに手が伸びていた。

「つくる側とつかう側が一緒になってものづくりをしないと、この大量消費のループは終わらない」

その思いが、みなみさんの原点だ。製造者と生活者が共に意見交換しながらプロダクトを創っていく。地域共創型のサーキュラーエコノミーを鎌倉から始めたいと後に連携パートナーとなる株式会社IBLCに企画提案した。そこで大手鉄鋼メーカーの技術用途開拓という課題に出会った。かつては缶コーヒーや缶詰で使われていた技術が、ペットボトルの普及で市場シェアを縮小させていた。しかし、スチール缶のリサイクル率は94%以上とペットボトルよりも高い。何度でも品質を落とさずに様々な鉄鋼製品へリサイクルできるという、優れた素材特性のおかげだ。

企業の眠れる技術と、地域課題をつなぐプロダクト開発 

「最初に検討したのは、スーパーの鮮魚用トレイでした」

白いプラスチックトレイをスチール製に代替できれば、鉄の熱伝導率の高さから鮮度保持に優れ、そのまま調理にも活用できると考えたからだ。しかし、ディスカッションを重ねる中で、大手鉄鋼メーカーの持つ「極薄の鋼板を円筒形に成形する技術」を最大限に活かせるのはやはり飲料用容器であるという結論にたどり着いた。

「大手鉄鋼メーカーとの共創で飲料用の”かまくらスチールカップ”を開発することになったんです」

コロナ禍におけるテイクアウト需要の高まりにより、海岸で風に吹かれているプラスチックカップのことが頭にあった。

しかし、初期のプロトタイプは失敗の連続だった。金属特有の口当たりの鋭さ、錆びやすさ、そして積み重ねができないため保管スペースを取るという課題が浮き彫りになった。

「おしゃれなものである必要があると思っていたんです。でもそれは作り手側のエゴだと気づかされました」

当初の製法では錆びやすかった

テストマーケティングの場として、地域の学生団体が主催するビーチクリーンイベントなどを活用した。クイズ形式でスチールの高い環境性能を伝え、スチールカップで冷たいドリンクを飲んでもらった。ユーザーのリアルな声を収集することで、プロダクトの改良を重ねていった。

テストマーケティングは主に屋外で実施された

この草の根の活動が、大規模な周知活動へとつながる。テストマーケティングで試作カップを手にした「逗子海岸映画祭」の関係者との縁から、2022年のゴールデンウィーク期間中に1万人以上が来場する同イベントで「かまくらスチールカップ」が採用された。イベント会場でのプラスチックゴミの排出削減に貢献。さらに、来場者がスチールカップを手に乾杯する光景がSNS上で次々に投稿された。

2022年の逗子海岸映画祭より

環境負荷の低減はもちろん、みなみさんにとって最大の収穫は、「アイスコーヒーも生ビールもプラスチックカップよりキンキンに冷えていておいしい」というプロダクトへの評価だった。

循環者を増やす「正しさよりも大切なこと」

「環境に良いという正しさではなく、おいしいから選ぶ。スチールカップをあたらしいふつうにしていくにはそれが理想の広がり方だと思いました」

たとえば紙ストローはゴミ問題に対するひとつの答えだが、スタンダードにはなっていない。飲み物のおいしさを損なうという弱点のせいだ。一方でスチールカップには、プラスチックや紙容器よりも冷たさや炭酸の清涼感を長時間持続させるという、明確な機能的優位性があった。

幾度の試作を経て完成した「かまくらスチールカップ」

「炎天下で飲むアイスコーヒーやビールって快楽に直結するじゃないですか。環境に良いかどうかはさておき、こっちで飲んだ方がおいしい。それだけでいいんだと思ったんです」

正しさの押しつけや我慢を強いるものは続かない。それはみなみさん自身がプラスチックをやめる生活で実感したことでもあった。

このユーザー起点へのパラダイムシフトは、ビジネスモデルの転換にもつながった。

当初は飲食店やイベント主催者が容器を購入してリユースする「BtoB」のモデルを想定していたが、導入コストの面からハードルが高いという声が挙がっていた。そこで、消費者がカップを500円で購入し、自身のマイカップとしてリユースする「BtoC」のモデルへと転換した。

「購入の動機も「エコだから」ではなく「このカップで飲むと美味しいから」という価値に基づいています。誰にも無理をさせない仕組みこそが、資源循環を持続可能にする鍵です」

科学的アプローチから地域コミュニティへ。仲間たちと切磋琢磨する鎌倉の土壌

“かまくらスチールカップ”の開発に取り組み始めた裏側にはもうひとつの転機があった。2020年には市民発・ごみ削減、循環を目指す市民団体「ゴミフェス532」にMCとして登壇。そこから鎌倉で環境問題や資源循環に取り組む人々とのネットワークが広がっていった。

さらに2023年には、デジタルファブリケーションや環境共生型ものづくりの第一人者である田中浩也教授が率いる、慶應義塾大学SFC(湘南藤沢キャンパス)の研究員として学術的なアプローチを開始した。

みなみさんのInstagramより

研究テーマは「地域循環の事業化プロセスの可視化と応⽤可能性の研究」。環境保全の「正しさ」を一方的に押し付けるのではなく、心地良さからアプローチすることで愛着が醸成され、結果として行動が変容していく事業化のプロセスを、スチールカップの実践を基に体系化した。

「学術的な言語化プロセスを経たことで、このメソッドがスチールカップの枠を超え、他の素材や製品の社会実装にも応用可能であるという再現性を確認できました」

2024年には鎌倉サーキュラーアワードの市民部門で審査員も務めた。寄せられた応募作の数々にモーニングバトンに取り組んでいた頃の自分を重ねた。

「賞金を狙ってとか、正しさとか、そういうテンションじゃないんです。純粋な好奇心や探究心が溢れている。環境問題への取り組みを家族みんなで楽しんでいる。そこに鎌倉らしさを感じました」

特にみなみさんの印象に残ったのが、「プラスチック製の緩衝材の代わりに、食べたら消えてなくなる「菓子パン」を詰めて荷物を送る」という奇抜なアイデアだ。正しさや経済合理性では、おそらくこうした発想は生まれてこない、とみなみさんは語る。

「いかに面白いか、いかに受け手の記憶に残るか、そして相手への思いやりがあるか――市民部門の評価軸そのものにも、鎌倉らしさが息づいていました」

翌2025年には、アワード応募者たちを対象に開催された「サーキュラーアカデミー」に講師として登壇。共に講師としてマイクを握ったのが、同じ鎌倉を拠点に地域一体型のリユース容器シェアリングサービス「Megloo(メグルー)」を展開する、株式会社カマンの善積真吾氏だった。同じ地域で資源循環の社会実装に挑む善積氏の存在は、みなみさんに大きな刺激を与えた。

「向いている方向は同じながら違うアプローチをしている。近しいけど自分にはできないことをやっている。そういう仲間と切磋琢磨するようになりました」

同年の末、株式会社nalu(代表みなみ)はCOI-NEXT 慶応鎌倉プロジェクトの地域共創事業パートナーに就任する。

「つくる側―企業には眠れる技術がある。大学には社会実装されるのを待つ研究論文がある。一方で、つかう側―地域には解決すべきリアルな課題がある。でもその三つの点を本質的に理解し、線として繋ぐことのできるプレイヤーが圧倒的に不足していると感じていました」

企業の技術特性と地域のニーズの双方を深く理解し、つくる側とつかう側の対話による製品開発から社会実装まで伴走する「地域共創事業パートナー」――それこそが、株式会社naluの代表である、みなみさんの役割だ。

「鎌倉のサーキュラーコミュニティで多様な人々と関わり、活動を続ける中で、改めて自分の特性が「技術オタク(笑)」なのだと自覚しました。自分が突き動かされる源泉は、技術そのものの面白さや、素材に対する純粋な好奇心なんです」

みなみさんの循環者としての強みは、「技術や素材への深い愛着」にある。

消費が社会の役に立つという循環デザイン

「かまくらスチールカップ」の社会実装は着実に進んでいる。今や野外イベントの枠を超え、地域のスペシャルティコーヒー店やクラフトビール専門店などへも導入が拡大。湘南エリアだけでも19店舗で販売・回収が行われており、販売されたカップの46.7%が再資源化されている。しかし、みなみさんの素材に対する好奇心と探究心は、単なる資源リサイクルの枠に収まらなかった。鉄の特性をさらに深く調べる中で、役目を終えて錆びた鉄が持つ新たな価値と出会うことになる。

「錆びた鉄を腐葉土などの有機物と反応させることで、海藻類の生育に不可欠な栄養分である「二価鉄イオン」が発生します。これが、海水温の上昇などに伴い全国的な課題となっている「磯焼け(藻場の衰退)」の解決策になるという研究発表を見つけたんです」

2024年12月からは連携している株式会社IBLCによる宮城大学との共同研究として、宮城県南三陸沖での実証実験を開始した。錆びたスチールカップを粉砕・加工し、「藻場ブロック」を成形。これを実際に海中へ沈め、藻場再生の環境モニタリングを行う試みだ。回収されたカップの3.3%が鉄のブロックとなり、藻場の再生実験として海に投入された。

数パターンの配合率による鉄ダンゴ

「実験の結果、藻場の再生に、かなりの効果があることが分かってきました」

引き上げられた鉄のブロックに海藻が群生していた

生活者が500円で購入(注:現在は700円)したカップが、錆びた後に回収され、今度は藻場を再生する資材へと姿を変えるという循環デザイン。この「自分の消費活動が、巡り巡って社会や自然の役に立つ」という訴求が行動変容を促すのを再認識したのは横浜「MARK ISみなとみらい」でスチールカップを販売したときだった。

湘南エリアで絶大な効果を発揮した「キンキンに冷えて美味しい」という機能的な訴求だけでは、横浜の生活者にはなかなか響かなかったという。しかし、「あなたが手にするこのスチールカップの回収が、海を元気にするんです」というメッセージに変えた途端、ブースに人が集まり、多くの子どもたちがアンケートに真剣に回答してくれるという行動変容が起きたのだ。

MARK ISみなとみらいでは2025年10月から「MARK ISカップ」としてリデザインされたスチールカップを店舗や施設全体で使用・回収することを軸にSDGs活動を推進していく「MIRAI BATON PROJECT(みらいバトン・プロジェクト)」も始まっている。

オリジナルデザインのMARK ISカップ

「みなとみらい地区には、かつて造船や鉄工といった鉄のものづくりによって地域産業を支えてきた歴史がありました。生活者に根付いた地域の歴史や文化を循環型のものづくりに活かしていくこと。地域のつかう側と共に創るプロセスの大切さをプロジェクトに携わって再確認しています」

「つくる側」の技術と「つかう側」の愛着が素材を転生させていく

みなみさんは、資源の循環を「転生」という言葉で表現する。それはまさに、彼女の素材に対する深い愛着を象徴するような言葉だ。

「資源を回収に持ってきた方が『次の転生はお願いします』って冗談っぽく言ってくれて。前世はこれだったんですかとか、次は何に生まれ変わらせようという会話が生まれた」

「アップサイクル」という言葉では伝え切れなかった素材に対する愛着を「転生」という概念が醸成してくれた。

「愛着があるから、何度も生まれ変わらせたいと思う。それは人に対しても同じです。その人の才能や資質を見極めて、「次はこういう風に活かせるんじゃないか」といつも考えている」

それを可能にするのが、地域のつかう側と最初から「共に創る」プロセスだとみなみさんは考えている。

「つくる側の技術が価値に変換されると、生活者の意識や価値観が変わり、製品の設計そのものが変わってくるはずなんです。そうするとふと気づいたら、気持ちいい未来につながっていく」

それを可能にするのが、地域のつかう側と最初から「共に創る」プロセスだとみなみさんは考えている。完成品を一方的に売るのではなく、試作段階から地域に持ち込む。フィードバックを受けて改良していく。その繰り返しが、素材や技術を転生させ、プロダクトへの愛着を生み、循環者を育てていくことを”かまくらスチールカップ”の歩みが証明している。

「日本のものづくり企業が元気になるお手伝いをしたいし、埋もれた研究が世に出るようにしたい。何より、生活者が自分ごととして循環に参加できる文化をつくりたい。鎌倉でそれを実証して、他の地域にも広げていきたい」

一人ひとりの取り組みという点が線になり大きな面を描いていく。同じ自然環境と歴史文化への愛着を共有するコミュニティの強さと、みなみさんがつなぐ技術や研究の融合もまた、鎌倉をサーキュラーシティへと「転生」させていく。

About the Writer

青葉 薫

横須賀市秋谷在住のライター。全国の生産者を取材した書籍「畑のうた 種蒔く旅人」を上梓。本名で放送作家/脚本家/ラジオパーソナリティーとしても活動。日本環境ジャーナリストの会会員/横須賀市都市計画審議委員/横須賀市環境審議委員/株式会社オフィスクレッシェンド取締役
この人が書いた記事の一覧

鎌倉
サーキュラーシティレポート

文・写真 青葉薫

鎌倉は循環型都市の実験場だ。

技術や地域通貨で資源が循環する仕組みを構築し、

市民精神と最新デザインで都市を変革する。
自給自足とコミュニティ再生を目指す今を記録する。

ひとがまちをつくり、まちがひとをつくる。ゼロ・ウェイストかまくらの土壌を育む市民コミュニティ「ゴミフェス532」の力【鎌倉サーキュラーシティレポート#5】
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種蒔く旅人Ⅱ
~2040、未来の君へ~

文・写真 青葉薫

夕陽が海に沈む三浦半島・秋谷。

15年前に都会を離れ、
この海辺のまちで

「食べるものを育てる」暮らしを手に入れた。

#26 2040、未来の君へ
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