子どもを愛するほど、苦しくなる。母親だけではない、父親の育児うつという現実

子どもを愛しているのに、イライラしたり無気力になったりする―そんな悩みを抱える父親がいる。男性の育児参加が進む一方で、見過ごされがちな「父親の育児うつ」。背景にあるのは、父親が孤立しやすい社会的な構造だ。本記事では、父親のうつの実態をひもときながら、誰もが子育てしやすい社会のあり方を考える。

進む父親の育児参加

ここ20~30年の間に父親の育児参加は確実に広がっている。保育現場の実感からも、若年層を対象とした調査結果からも見て取れる。

父親が「サポート役」から「担い手」へ

父親の育児参加は、「手伝う存在」から「担う存在」へと確実に変化している。保育現場では、送迎で父親の姿を見かけることが珍しくなくなった。朝は父親が送り、夕方は母親が迎えという分担にしている家庭もあれば、その逆もある。

子どもの体調不良で園から連絡をすると、父親が仕事を切り上げて迎えに来るケースも増えた 。また、「洗濯はパパのお仕事」「遠足のお弁当はパパが作った」「平日の晩ごはんはパパが用意している」など、子どもとの何気ない会話からも変化は伝わってくる。

かつては母親が家事・育児の中心となり、父親がサポートする構図が一般的だったが、現在は家庭の中で役割を分かち合い、父親自身が主体的に担う姿が広がりつつある。

それぞれの家庭の事情に応じて、すべての負担が等分されるわけではないかもしれない。しかし、共働きで育児と家事をうまく回すには、子どもを中心にして父母が協力し合うことが、現実的な選択となっている。

父親の育休取得の広がり

父親の育休取得は着実に広がり、育児に関わる時間を確保しようとする動きが社会全体で進んでいる。

厚生労働省の調査によれば、2000年頃には1%未満にとどまっていた男性の育児休業取得率は、2023年度には30.1%まで上昇した。女性は80%台で推移するなか、依然として差はあるものの、男性の取得は大きく前進しているといえる。(*1) 

意識の面でも変化が見られ、若年層では男性の84.3%、女性の91.4%が育休を取得したいと考えており、男女ともに約9割が「配偶者にも取得してほしい」と答えている。

また、「仕事も育児も熱心に取り組むつもり」とする回答も男性87.9%、女性85.9%と高く、育児を仕事と同様に重要なものとして捉える意識が、着実に広がっている。

いま注目される父親の育児うつ

父親の育児うつは、決して特別な人に起こるものではない。育児に関わる父親が増えるなかで、心身の負担にも注目が集まり始めている。これまで見過ごされがちだった父親の不調は、いまや家庭全体のウェルビーイングを考えるうえで無視できないテーマといえる。

父親も約1割がリスクを抱える

国立成育医療研究センターの研究によると、父親もまた、約1割が育児うつのリスクを抱えていることが明らかになっている。

育児うつと聞くと、出産を経験した女性特有の問題と捉えられがちだ。これまで産後うつは、ホルモンバランスの変化など身体的要因から主に女性の問題として理解されてきた。

しかし、調査結果から生後1年未満の子どもがいる父親の約1割に抑うつのリスクが見られ、その割合は母親とほぼ同程度であることが示された。

親になることは、性別を問わず人生の大きな節目である。生活が子どもを中心に回り始めるなか、さまざまな変化がストレスになりうるのは、父親でも母親でも変わらない。育児うつは性別を問わず起こる可能性があるのだ。

男性に現れやすい症状とサイン

男性の育児うつでは、怒りっぽくなる、イライラが増えるなどの症状が特徴的だ。一見すると単なる疲労やストレス反応のように見え、誤解されやすい。

気分の落ち込み、何をするにも気力が湧かない、不眠、食欲減退などは、女性と共通するが、攻撃的な言動や引きこもり、アルコール依存の傾向などのかたちで不調が表面化することもある。

周囲からは「最近短気になった」「疲れているだけではないか」と受け取られがちであり、本人も不調を自覚しにくいまま抱え込んでしまう。こうしたサインは決して特別なものではなく、多くの父親が経験しうるものだ。

パートナーのうつ+子育てという重圧

パートナーのうつと子育てが重なると、もう一方の親にかかる負担は一層大きくなってしまう。子どもの世話や家事を担いながら仕事を続け、さらにパートナーのケアも行うという多重の役割を背負うことになる。

日中は仕事に向かい、帰宅後は育児と家事をこなし、その合間にパートナーの体調や気持ちに寄り添う。こうした状況が続けば、心身に大きな負荷がかかるのは当然であり、夫婦同時にうつのリスクにさらされてしまう。

さらに、子どもの成長への影響を心配する気持ちも重なり、「このままで大丈夫なのか」という不安が日常的に付きまとうことになる。

このように、父親の育児うつは本人だけの問題ではなく、パートナーや子どもに及ぶ影響も大きい。だからこそ、その存在を正しく理解し、社会全体の課題として捉える視点が求められている。

なぜ父親は追い込まれるのか

父親の育児うつは、個人の問題というよりも、社会全体の構造のなかで、多くの要因が重なって生じている。日々の生活の中にある負担や葛藤が積み重なり、気づかないうちに心身が限界へと近づいていってしまう。

仕事と育児の板挟み

現在の日本では、父親が仕事と育児の両方を担うとき、板挟みになりやすい状況に置かれている。長時間労働や責任の重い業務を抱えながら、家庭では育児や家事にも関わる。どちらにも十分に応えようとするほど負担は大きくなる。

育児休業や時短勤務などの制度は整いつつあるものの、実際には「休みにくい」「職場に迷惑をかけるのではないか」という意識が根強く残っている。

特に男性の場合、これまで家庭より仕事を優先する役割が期待されてきた背景もあり、育児のために仕事を調整することに対して肩身の狭さを感じやすい。

仕事と育児の両立に苦労するのは女性も同様だが、男性は「働き手としての責任」を背負おうとすることで、逃げ場のない状態に陥りやすい。結果として、どちらも中途半端になっているのではないかという自己否定感を抱えやすく、それが心の負担として蓄積していく。

理想の父親像とのギャップ

「良い父親でありたい」と願うほど、現実との間にギャップを感じやすい。子どもとしっかり向き合い、家事もこなし、パートナーも支える―そうした理想像は広く共有されつつあるが、日々の忙しさの中でそれを実現することは簡単ではない。

特に近年は、SNSや周囲の家庭の様子が可視化されやすくなり、「うまくやっている父親像」と自分を比較する機会も増えている。「もっとできるはずではないか」といった思いが積み重なることで、自己評価が下がりやすくなる。

こうしたプレッシャーは女性にも共通するものだ。一方で父親の場合は、身近なところだけでなくネット上でもロールモデルを見つけにくく、何をもって「できている」と言えるのかが分かりにくい。結果として、達成感を得にくくし、常に不十分さを感じる要因となってしまう。

相談できない構造

父親は、不調や悩みを周囲に相談しにくい構造の中に置かれている。一般的に、男性は弱音を吐くことに抵抗を感じやすく、「自分で何とかすべきだ」という意識を持ちやすい。そのため、負担を感じていても表に出さず、結果として一人で抱え込んでしまうケースが多い。

また、行政の子育て支援はこれまで母親を中心に設計されてきたものが多く、父親が気軽に相談できる場や機会は十分とは言えない。父親向けの支援事業を実施している自治体は現状では少数で、必要性が認識されていても体制が整っていない状況である。

さらに、支援制度が存在していても、それが実際に利用されにくいという課題もある。女性の場合は、妊娠期から母親同士のつながりや支援につながる機会が比較的多いのに対し、父親はそうした接点を持ちにくい。

結果として、孤立したまま悩みを深めてしまうリスクが高まる。相談できないこと自体が負担を増幅させ、追い込まれる構造につながっている。

父親も母親も孤立しないために

父親も母親も孤立しないためには、家庭・職場・社会がつながり、子育てを支え合う環境をつくることが求められる。家庭では、「役割分担」を超え、お互いの状況に応じて柔軟に支え合う「共有」の意識が重要だろう。どちらか一方の心に負担が偏らない関係が理想的だ。

行政や企業による支援も不可欠である。育休や時短勤務といった制度は、男性の利用も前提とした設計と運用が求められる。

近年は、法律の面でも父親を子育ての主体として位置づける動きが進み、父親を含めた支援の重要性が制度として認識されつつある。自治体や企業も模索を重ねながら現場での具体化を進めており、必要な情報を求めることで、適切な支援につながる可能性も高まっている。

さらに、地域や周囲の温かいまなざしが大きな助けとなる。社会全体で子育てを支えるとは、子どもや子育て中の家族をあたたかく包み込むことではないだろうか。人と人との距離感が難しい社会だが、笑顔を向けるだけでも空気が変わるはずだ。

少子化対策は、経済的な支援だけで解決するものではない。子育てを担う人のウェルビーイングを重視し、子どもを育てることが個人にとっても社会にとっても価値ある営みだという認識を広げるべきだろう。子育てしやすい社会は、誰にとっても暮らしやすい社会につながっていくはずである。

Edited by c.lin

注解・参考サイト

注解
*1 厚生労働省「令和5年度雇用均等基本調査」(2024年7月)に公表された結果による。

参考サイト
日本の父親における精神的な 不調の頻度とそのリスク要因|国立成育医療研究センター
父親支援マニュアル|国立成育医療研究センター
令和5年度育児休業取得率の調査結果公表、 改正育児・介護休業法等の概要について
全国地方自治体で実施されている父親を主な対象とするポピュレーションアプローチ事業の実施状況調査結果報告|日本公衆衛生雑誌
男性の「産後うつ」と、いま求められる支援とは~「父親3.0」の時代に向けて|東京都
女性登用に対する企業の意識調査(2024年)|帝国データバンク

About the Writer
曽我部倫子

曽我部 倫子

大学で環境問題について広く学び、行政やNPOにて業務経験を積むなかで環境教育に長く携わる。1級子ども環境管理士と保育士の資格をもち、未就学児や保護者を対象に自然体験を提供。またWebライターとして、環境、サステナブル、エシカル、GXなどのテーマを中心に執筆している。三姉妹の母。
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