
本屋が消え、図書館の統廃合も進み、「本に出会えない地域」が増えている。書店ゼロ自治体は全国の約4分の1。本への物理的距離が、そのまま学びの格差につながりかねない。この壁を超える存在として注目されているのが、スマホで書籍にアクセスできる電子図書館だ。公共サービスとしての可能性から、教育への波及効果に迫る。
本に出会えない地域が増えている

かつて、どの街にも一軒はあった「街の本屋さん」。放課後の子どもたちが漫画を手に取り、仕事帰りの大人が本棚を眺める——そんな風景が今、失われつつある。
出版文化産業振興財団(JPIC)の調べによると、2024年11月時点で、日本の市区町村の約28%にあたる493自治体は、書店が一つもない「無書店自治体」だという。(*1)
「書店がなくても図書館がある」と思うかもしれない。しかし、自治体の財政難や公共施設の老朽化を背景に、図書館の統廃合や分館の閉鎖も進行している。「歩いて行ける距離に本がない」という状況は、車を持たない高齢者や行動範囲の限られる子どもたちにとって、学びの機会を大きく制限する。特に、過疎化が進む地域では、“本を手に取って選ぶ”という体験そのものが遠ざかっている。
たとえば北海道のように面積の広い地域では、最寄りの図書館まで数十キロ離れているケースも珍しくない。物理的な距離は心理的な距離にもつながる。図書館が遠いと、本は気軽に手に取るものではなくなり、読書が日常から離れたものになってしまう。読書習慣を持たないまま成長する子どもが増えることも懸念されている。
電子図書館とは何か?公共サービスとしての可能性

本に対する物理的制約を、デジタル技術で打ち破るのが、電子図書館である。
電子図書館とは、自治体が契約した電子書籍を、住民がスマートフォンやタブレット、PCで借りて読むことができるサービスだ。24時間365日利用可能で、開館時間に縛られない。貸出期限が来れば自動的に閲覧権限が失効するため、返却のために外出する必要もなく、延滞の心配もない。
文字の拡大、背景色の変更、音声読み上げ機能なども備え、視覚障害のある人や高齢者にとっても利用しやすい設計となっている。アクセシビリティの観点からも、電子図書館は重要な公共インフラになりつつある。
先駆的な事例として知られるのが、千代田区の「千代田Web図書館」だ。通勤・通学の移動時間にスマホで本を借り、隙間時間に読むという新しい読書スタイルも生まれている。
また、札幌市の電子図書館では、地域資料のデジタル化にも力を入れている。郷土史や行政資料などをオンラインで公開することで、「いつでも・どこでも地域の歴史に触れられる」環境を整備している。電子図書館は単なる貸出サービスにとどまらず、地域文化の保存・発信拠点としての役割も担い始めている。
電子図書館が抱える現実的ハードル
一方で、電子図書館には乗り越えるべき課題も存在する。
まず挙げられるのが、導入・運用コストだ。システム利用料に加え、電子書籍には「1冊につき〇回まで貸出可能」といったライセンス制限が設けられていることが多い。そのため利用状況によっては、紙の書籍より割高になるケースもある。限られた予算のなかで蔵書をいかに充実させるかは、自治体にとって大きなテーマだ。
さらに、すべての書籍が電子化されているわけではない。出版社の方針によっては、電子図書館向けに提供されないタイトルもあり、ラインナップには限界がある。
デジタルデバイド(情報格差)の問題も無視できない。インターネット環境を持たない人が取り残されないよう、端末貸与や通信環境整備などの支援策を並行して進める必要があるだろう。
それでも、物理的施設の維持が難しくなりつつある自治体にとって、電子図書館は「知のインフラ」を持続させる有力な選択肢の一つであることは間違いない。
学びのインフラとしての電子図書館

電子図書館の価値は、教育の平準化と多様性の確保にある。
現在、小中学校ではGIGAスクール構想のもと、児童生徒に一人一台の端末が配布されている。これらの端末が電子図書館と連携すれば、学校図書室は「24時間、すべての子どものポケットの中」に存在することになる。
読書への心理的ハードルを下げるという点でも、電子図書館は力を発揮する。思春期の子どもは、「何を読んでいるか友達や家族に知られたくない」と感じることがある。悩みに関する本やマイノリティを扱うテーマなど、周囲の視線を気にして手に取りづらい本もあるだろう。電子図書館であれば、画面上で静かに選び、自分のペースで読み進めることができる。こうした安心感が、興味の幅を自然に広げていく。
また、不登校の子どもへの支援という側面もある。学校や図書館に足を運ぶことが難しい子どもにとって、自宅から知識にアクセスできる環境は、社会との貴重な接点となる。本を通じて世界とつながる体験は、孤立感を和らげ、自己肯定感や学習意欲を支える土台になり得る。
電子図書館は、リアルな図書館を置き換える存在ではない。むしろ、距離、時間、身体的制約といった、リアルの限界を補完する存在だ。「誰一人取り残さない学び」を実現する新たなインフラとして、電子図書館が切り拓く可能性に注目したい。
Edited by k.fukuda
注解・参考サイト
注解
*1 書店活性化プラン 令和7年6月10日|経済産業省
参考サイト
千代田Web図書館
札幌市電子図書館
電子図書館とは?|JEPA 日本電子出版協会
子供の読書活動に関する現状|文部科学省
























夢野 なな
ライター、イラストレーター。芸術大学美術学科卒業。消費が多く騒々しい家族に翻弄されながらも、動植物と共存する生き方と精神的な豊かさを模索中。猫と海、本が好き。神奈川県の海に近い自然豊かな田舎で暮らす。創作に浸る時間が幸せ。
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