未来の自分から届く、優しい助言。フューチャー・デザインで描く100年後の私たち

現代の効率・成果主義の世界に生きるわたしたちはいまこの瞬間の充実度に視点が置かれすぎて、過去も未来も見えなくなっているような感覚がある。 

もし、100年後の自分たちが、いまわたしたちが下している選択を見たときに、どう思うのだろうか。 この問いかけひとつでも、視点がぐわんと揺らぐことを感じるかもしれない。この問いから生まれたのが、「フューチャーデザイン」という考え方である。

「今」の利益を優先する、短期志向の息苦しさ

近年の世界は、効率主義・成果主義の世の中に変化している。 タイムパフォーマンス、コストパフォーマンス、無駄のない働き方、いかに合理的かという、いまこの瞬間の充実度に視点が置かれていて、現代人はどんどん、過去も未来も見えなくなっているような感覚がある人も多いだろう。 

効率的で合理的、”いま”に視点を置いて取捨選択されていったものたちは、果たして正しいものなのだろうか。 

そういった生き方によって無駄のない暮らしを充実させる人もいれば、どこか息苦しさを感じているような人も少なからず存在している。

気候変動などの環境問題、世界情勢、日本の人口減少、老後の年金問題、超高齢化社会。未来への不安を上げればきりがないが、一方でわたしたちはいま目の前にある仕事や生活に追われ、少し先の話に対して誠実に向き合っている余裕がないのも事実だ。

もし、100年後の自分たちが、いまわたしたちが下している選択を見たときに、どう思うのだろうか。 この問いかけひとつでも、視点が変化するかもしれない。

この問いから生まれたのが、「フューチャーデザイン」という考え方である。


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未来人になりきって考える、フューチャー・デザイン

フューチャー・デザインとは、持続可能な社会を未来の世代に引き継ぐため、将来世代の視点で現代の社会構造や意思決定を考える日本発の学術・実践分野のことだ(*1)。 将来を予測するための手法というよりは、「未来人」になりきって現在の社会や政策について考えるようなイメージの手法である。

高知工科大学の西條辰義教授らの研究から広がり(*2)、昨今ではこの考え方は自治体にまで広がっている。

例えば岩手県矢巾町では、住民に対して「2060年の市民」と「現世代の市民」に分かれ、町の財政、インフラ、環境、子育てなどの問題について話し合ってもらうワークショップが行われた(*3)。

このような将来世代役を導入した議論では、とても興味深い結果が残っている。 

参加者の立場が変わったことにより、意思決定や価値観に大きな変化が現れ、相違した意見もお互いに受け入れやすくなったという。 

たとえば将来世代役の市民は、今すぐには得にならないような案でも採用する姿勢や、子供や自然、持続性を優先する視点が多く見られた。

また、多少の不便も未来のためになるなら受け入れるという発想が自然と生まれたというのも特徴的である。それに対し、現世代役の市民は、今の生活の便利さやコスパ・タイパを重視した意見が多く、変化に対して慎重であったのだ。

一見この二つの特徴は対立するかのように思われるが、将来世代役の市民と現世代役の市民とで対立することはなく、話し合いを深めることでお互いの視点を認め合う様子が生まれていったという。

ワークショップ終了後に、参加者の意見を聞くと、自分の考え方や価値観に気づいたという意見や、視野が広がったり、将来世代が他人ではなくなったりといった感想が得られたようだ。

つまり、未来の世代で生きる「知らない誰か」が「自分の未来」や「子孫など大切なつながり」として感じられるようになったということだ。 

この実験からわかるように、フューチャー・デザインは、将来を予測したり、未来について正しく考えるための思想ではなく、立場を置き換えるだけで人は柔軟に物事を考えられるという、実験と実践の積み重ねのことなのである。

また、宮崎県木城町では2021年の職員研修にてフューチャー・デザインを導入。以後2024年までの3年間で、住民向けワークショップなど5つの実践が行われ、急速にフューチャー・デザインの活用を実施した地方自治体として注目された(*4)。このほか京都府宇治市、長野県松本市、大阪府吹田市など、多くの地方自治体との協働が進められているという。


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世代を超えたつながり感がもたらす「今」への影響

フューチャー・デザインの考え方は政策だけに応用できるものではなく、私たちの心の在り方、ウェルビーイングにも影響を与えると考えられる。

自分を「いまを生きる個人」「孤立した一つの点」としてとらえるのではなく、過去から未来へとつながる流れの中の一部として捉えなおしてみる。

こうしたフューチャー・デザインの視点を持つと、”いまこの瞬間”だけにフォーカスした生き方に縛られすぎることなく、未来とのあたたかなつながりや、自分や自分の大切な人たちが生きる将来のことが楽しみになるかもしれない。 

これは、効率や合理について追及することで感じる窮屈さや、孤独感を和らげる可能性も秘めている。 

わたしたち一人ひとりが、点ではなく流れの中で生きる一部なのだという感覚を得ることによって、「今の自分」を大きな流れの一部として肯定しやすくなるのだろう。


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「未来の正義」は「現在の生活」を脅かすのか

フューチャー・デザインは、現代病ともいえるような一つひとつの悩みを和らげる効果がある一方で、未来を重視するあまり、いままさに困難に直面している人の声を後回しにしてしまうデメリットもある。

例えば、日々の生活に精一杯の状況の人に、「100年後のためにこうしろ」と言ってもそれは響きづらく、残酷な言葉として受け取られる可能性もあるだろう。

また、フューチャー・デザインの中で取り扱う未来人の声は、あくまで現代人の想像によって作られるものである。 そこにはやはり、今を生きるわたしたちの、未来への理想や偏りが入り込んでしまう。 本当の意味で未来を生きる人たちには、その時代を生きる人にしかわからない問題がさまざまあるはずだが、それをすべて予測することは難しい。 

現代人にしろ、未来人にしろ、いまこの瞬間を大切に、直面している問題を見て見ぬふりせず向き合うことも、将来を考えることと同様に大切なのだ。 

未来と現代を対立させるのではなく、どう共存させるか。 

その答えは一つではなく、どちらを優先するか、どちらを大切にするかを決めつけず、対話を続けていく姿勢が重要だ。


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100年後の自分を「地球の同居人」として迎える

こういった学術的なアプローチを使う思想は、一見複雑なもののように感じる。

しかし、フューチャー・デザインは社会全体だけに当てはまる話ではなく、自分自身でも日々の生活の中に似た視点に取り組んでいることに気がついた人もいるのではないだろうか。

例えば、未来の自分に手紙を書いたり、理想の未来の自分になりきって問いを投げて答えたり、ということを日常的に行っているかもしれない。

5年後に叶えたい目標もあれば、10年後に叶えたい目標もあり、70歳の自分が叶えたい夢も持っているという人もいるだろう。

未来の自分になりきって買い物をすることで、長く使えるものを購入することが多くなったり、自然と身体や環境によい商品を手に取ることも増えた、という例もあるだろう。このように、未来の自分たちのことも大切にしながら生きることにより、生き方の軸が見えやすくなり、一つひとつの選択の基準がより明確になるだろう。

辛いことも、苦しいことも、人生の流れの一部であり、それを乗り越えて理想の自分になっていくと思うと、どんな出来事も愛おしく思えるようになるのかもしれない。そして同時に、いま起きた辛い出来事にしっかり浸って悲しむことも大切だ。

このように個人の枠で考えると、フューチャー・デザインは敷居が高いものではなく、身近なものとなるだろう。

個人の未来を見る視点を身に着けることで、結果的に社会を見る視点も少しずつ変わっていくのかもしれない。

難しいこと、複雑なことに取り組む必要はなく、まずは未来の自分から「ちゃんと考えてくれてありがとう」と言ってもらえるような生き方を意識したい。

Edited by s.akiyoshi

注解・参考サイト

注解
*1 日本発の学術・実践分野のことだ。出典先「フューチャー・デザインとは単なる仮想将来人を使ったワークショップ技法ではありません」による。
*2 高知工科大学の西條辰義教授らの研究から広がり。出典先「Future Design(Saijo, 2019、Kochi Univ. of Technology)」による。
*3 ワークショップが行われた。出典先「将来世代の視点を反映し、市場と民主制を変革する新たな社会をデザイン」「フューチャー・デザイン(第2回)」による。
*4 急速にフューチャー・デザインの活用を実施した地方自治体として注目された。出典先「フューチャー・デザイン実践事例No.2(宮崎県木城町)」による。

参考サイト
フューチャー・デザインとは単なる仮想将来人を使ったワークショップ技法ではありません|高知工科大学 フューチャー・デザイン研究所

Future Design(Saijo, 2019)|高知工科大学(PDF)
将来世代の視点を反映し、市場と民主制を変革する新たな社会をデザイン|高知工科大学
フューチャー・デザイン実践事例No.2|(宮崎県木城町1/2)
Effects of Experiencing the Role of Imaginary Future Generation|RIETI(PDF)

About the Writer
PATCH THE WORLD

おながみつき

日々のなかで生まれる違和感や、心の揺らぎを見つめています。
人の内面と社会の空気が触れあう場所に関心があり、
そこにある小さな物語を丁寧に言葉にしていきたいと思っています。
心理・ウェルビーイングを軸に執筆します。
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