デンマークの「15歳未満SNS禁止」から見る、幼年期のスマホ依存と社会の責任

デンマークで提唱された「15歳未満のSNS禁止」は、私たちに重要な問いを投げかけている。デジタル技術と隣り合わせの社会で、子どもたちの心身の幸福(ウェルビーイング)をどう守っていけばいいのだろうか。脳科学の知見や社会の責任という視点から、禁止・制限の向こうにあるものを探る。

世界で再定義される「幼年期とデジタルの距離」

「モンスターを解き放ってしまった」。これはデンマークのメッテ・フレデリクセン首相の言葉である。2025年10月、フレデリクセン首相は携帯電話とSNSが子どもたちの幼少期を奪っているとして、15歳未満の子どものSNS利用禁止を提唱した。その際に述べたのが、冒頭の言葉である。こうした規制の背景には、SNS利用が不安やうつ、集中力の低下につながるという懸念が存在する。

これはデンマークに限ったことではない。2024年には、すでにオーストラリアが16歳未満のSNS利用禁止法案を可決した。また、ノルウェーも15歳未満のSNS利用制限を検討している。日本国内でも同様の危機意識は高まっている。2025年には、子どものスマホ利用時間を1日2時間以内とする愛知県豊明市の「スマホ使用条例」が話題になった。

この潮流は、デジタル利用の過剰化が家庭内で解決できない社会問題として認識され始めていることを示唆する。各国がデジタルとの距離感を再定義しようとする動きは、幼い子どもの心身の幸福(ウェルビーイング)を、社会全体でどう守り育てていくかという課題を私たちに突きつけているのだ。


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脳科学から見る影響。幼い子どもの発達とアルゴリズム

SNSの習慣的な利用には、子どもの脳発達に一定の影響を及ぼす可能性がある。ソーシャルメディアは、「いいね」や通知といった即時的な報酬を提供し続けている。しかも「いつ届くかわからない」状態であるため、ユーザーに何度もSNSをチェックさせられるようになっているのだ。

この作用の裏付けとして、ノースカロライナ州の12歳の子ども169名を対象とした研究がある。Facebook、Instagram、Snapchatを習慣的にチェックする子どもたちには、社会的な報酬を予期する際、情動性や動機づけ、認知制御に関わる脳領域において、特徴的な神経発達が見られた。習慣的利用者は12歳時点では神経感度が低い傾向にあったが、その後の発達において活性が縦断的に増加していく、という変化が確認されたのだ。これは、報酬関連の刺激に対する神経反応性が高まりすぎて、SNSをチェックしたい衝動を制御する力が低下する可能性を示唆している。

デジタル利用の長時間化が睡眠を著しく阻害し、不安感や集中力の低下とも関連することもわかっている。青少年のデジタル利用と睡眠に関する67の研究をレビューしたレポートによると、90%以上がスクリーンタイムの増加と、睡眠時間の短縮や就寝時間の遅延といった負の関連性を示されている(*1)。

巧みに設計されたアルゴリズムの力によって、子どもの脆弱な脳がその発達方向を大きく変えられる可能性がある。そのことを私たちは肝に銘じておく必要があるだろう。


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“制限論”の先へ。デジタル・ウェルビーイングの構築

デンマークの提唱は、単なる「禁止」や「制限」ではない。より深いデジタルウェルビーイングの回復と構築を目指す試みなのである。

重要になってくるのは、非デジタルな活動、例えば遊びや対面コミュニケーションで感情や社会性を育むことだ。デンマークのデジタル化担当大臣は、「これまでSNSプラットフォームに子どもの幸福を委ねてきたことは、あまりにもナイーブだった」と振り返り、デジタルな束縛からコミュニティへの移行が急務であると訴えている。

関連して注目しておきたいのが、デンマークが15~24歳の若者を対象に進める「文化パスポート」制度だ。これはデジタル決済カードを通じて2,000クローネ(約48,000円)を若者に提供し、劇場や博物館、スポーツ活動といった非デジタルな活動のコミュニティへの参加を促す制度である。こういった政府による介入は、フレデリクセン首相が指摘したSNSの負の影響を現実の社会活動で補い、心身の幸福(ウェルビーイング)を高めるための施策と言えるだろう。

こうしてみると、制限によって生み出された「余白」を「幸福度の高い時間」に変え、それを自律的なデジタル活用能力(デジタルリテラシー)の土台にすることこそ、デンマークの意図するところなのではないだろうか。


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「社会の責任」としてのデジタルとの向き合い方

幼年期のデジタル利用の問題は、子どもだけの問題ではない。大人たちこそ解決のために努力する必要がある。

その担い手として第一に挙げられるのは、SNSプラットフォームだ。例えばInstagramは「ティーンアカウント」を導入している。これは不適切なコンテンツの制限、メッセージ機能を使えるユーザーの限定などを可能にしている。また、TikTokは、18歳未満のユーザーに対し、アプリの視聴時間をデフォルトで1日60分に制限する機能を追加した。SNSがメンタルヘルスに悪影響を及ぼす可能性を指摘されたことへの対応である。このように、SNSプラットフォームは健全なアルゴリズムの構築、年齢を考慮した設計を厳格化していくことが求められる。

行政の働きも欠かせない。EUのデジタルサービス法(DSA)はSNSプラットフォームに対し、アルゴリズムの透明性やプロファイリングに基づかないレコメンドシステムの選択肢を求めている。プラットフォームの責任が法的に問われ始めているのだ。また、教育現場ではデジタルリテラシーの向上が急務とされている。デンマークでは、幼少期から「批判的思考」や「出典の明確化」といった訓練が徹底されている。このように、制限と教育の両面からなる環境整備が、子どもが心身ともに幸福に育つ社会を作る鍵となるだろう。

最後に、保護者の姿勢についても触れておこう。日本では、フィルタリングサービスの利用率は38.1%、ペアレンタルコントロール機能の利用率も27.9%に留まっている(*2)。これを見ると、子どもの成長段階に合わせた利用ルール作りや、ペアレンタルコントロール機能の活用を模索する余地があるように思う。家庭間との連携の事例もある。たとえばアメリカには、「Wait Until 8th」という運動があるが、これは子どもにスマートフォンを与える時期を中学2年生の終わりまで遅らせるという保護者間の約束事を共有し、幼い子どもを危険から守ることを目指すものだ。真似するべきとは言わないまでも、こうした事例を知っておくだけでもいいのではないだろうか。

以上のように、プラットフォーム、行政、保護者の三位一体の協働があってこそ、子どもたちのデジタル・ウェルビーイングが守られるのである。つまり、幼年期のデジタル利用の問題は「社会全体の問題」なのだ。


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未来世代の幸福を守るためのデザイン

SNSの制限を巡る議論からは、デジタル技術の是非ではなく、子どもや人間の幸福をどう社会の中心に据えるかという問いが見えてくる。子どもが充実した幼少期を送るには、遊びや時間をかけたコミュニケーションといった、言ってしまえば「非合理な時間」が欠かせない。この大切な余白を守る社会をデザインする姿勢こそが、いまの私たちに求められているものなのかもしれない。

Edited by s.akiyoshi

注解・参考サイト

注解
*1 青少年のデジタル利用と睡眠に関する67の研究をレビューした結果、90%以上がスクリーンタイムの増加と、睡眠時間の短縮や就寝時間の遅延といった負の関連性を示した。Digital Media and Sleep in Childhood and Adolescence | PMCによる。
*2 日本では、フィルタリングサービスの利用率は38.1%、ペアレンタルコントロール機能の利用率も27.9%に留まっている。
Digital Well-beingとは – | 一般社団法人日本デジタルウェルビーイング協会による。

参考サイト
デンマーク、15歳未満のSNS利用禁止へ 首相「子どもの幼少期奪っている」 | CNN
Denmark plans social media ban for under-15s as PM warns phones ‘stealing childhood’ | The Guardian
Association of Habitual Checking Behaviors on Social Media With Longitudinal Functional Brain Development | PMC
Digital Media and Sleep in Childhood and Adolescence | PMC
Digital Well-beingとは | 一般社団法人日本デジタルウェルビーイング協会
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About the Writer
早瀬川シュウ

早瀬川 シュウ

フリーライターとして活動中。「日々の生活に『喜び』を」がモットー。特に、「快適さ」や「居心地のよさ」へのこだわりが強い。子どもの頃から海や森林公園を訪れていることもあって、自然環境や景観への興味関心も持っている。せせらぎの音や木漏れ日、お茶をじっくり味わう時間を好んでいる。
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