
選挙において、SNSの影響力が急速に増している。かつては街頭演説やニュースが情報の主役だったが、今やスマートフォンが選挙結果を左右する力を持つようになった。しかし、便利さの裏側には「情報の偏り」や「感情の増幅」という落とし穴が潜んでいる。民主主義を健やかに守るために、デジタル時代の「選挙リテラシー」を考えよう。
なぜその投稿が表示されたのか

SNSを開くと、自分の考えに近い意見や、興味のある候補者の投稿ばかりが流れてくることはないだろうか。これは、SNS上で「アルゴリズム」という仕組みが働いているためだ。ただし、アルゴリズムは決して中立な存在ではない。
SNSを運営する企業の多くは、ユーザーにできるだけ長くアプリを楽しんでもらうことを目指している。そのため、私たちが過去にどんな投稿に「いいね」をし、どの動画を最後まで見たかという行動を細かく分析している。その結果として、タイムラインには「あなたが関心を持ちそうな情報」が優先的に選ばれて表示される。
趣味やエンタメを楽しむ上では確かに便利な仕組みだが、選挙という社会の重要な意思決定においては、判断を歪める要因になり得る。自分と似た意見ばかりが優先的に表示されることで、あたかも自分の考えが世の中の多数派であるかのように感じてしまう「フィルターバブル」が起こりやすい。
特に注意したいのが「エコーチェンバー現象」だ。SNS上で自分と似た意見の人ばかりをフォローし、交流を繰り返すことで、狭いコミュニティ内で同じ意見だけが何度も反響(エコー)し続ける状態を指す。まるで防音室の中で自分たちの声だけを聞いているようなもので、外にある異なる意見が届かなくなり、自分たちの考えだけが「正しい答え」であるという確信が過度に強まってしまう。
また、SNSには、冷静な議論よりも「怒り」や「驚き」といった強い感情を伴う投稿ほど、シェアされやすく拡散のスピードが速いという性質がある。タイムラインで過激な批判やセンセーショナルな見出しが目立つのは、それが客観的に正しい意見だからではなく、人間の生理的な反応を利用して注目を集めやすい性質を持っているためだ。
そして、閲覧数が増えることで広告収益が得られる「アテンション・エコノミー」も、情報の偏りを助長する要因の一つである。より多くのインプレッション(閲覧回数)を稼ぐために、あえて極端な主張を繰り返したり、対立を煽るようなコンテンツが作成されることも少なくない。
国際大学グローバル・コミュニケーション・センター(GLOCOM)の調査によると、フェイクニュースを見抜ける有権者はわずか14.5%にとどまるという(*1)。公平な判断を下すためには、自分の見ている情報はアルゴリズムによって最適化された、限定的な範囲のものかもしれないといった視点を持つことも大切だ。
情報と意見を区別する

日本経済新聞が2024年12月に行った世論調査によると、政治や選挙の情報をSNSから得ている人の割合は、30歳代以下で75%に達している(*2)。これは60歳代以上の16%という数字と比較しても突出しており、若年層ほどアルゴリズムが選別した情報に触れる機会が圧倒的に多い。
溢れる情報の中で、まず行うべきは「事実(ファクト)」と「解釈(意見)」を厳密に切り分けることだ。SNS上の投稿は、文字数の制限があることも手伝って、事実と個人の感想が渾然一体となっていることが多い。
例えば、「〇〇候補の演説に1,000人の聴衆が集まった」というのは、数字で検証可能な「事実」だ。しかし、「1,000人も集まり、会場は熱狂に包まれた」という書き方になると、そこには発信者の「解釈」が混じり始める。
1,000人を多いと感じるか少ないと感じるかは、過去の選挙や会場の広さという文脈によって変わる主観的なものだ。SNSで流れてくる「〇〇は素晴らしい」「〇〇は日本を壊す」といった言葉は、すべて誰かのフィルターを通った「意見」であり、揺るぎない「真実」ではない。
特に、特定のインフルエンサーや著名人が発信する情報は、彼らへの信頼感から、意見がそのまま事実として受容されやすい傾向がある。これを心理学では「ハロー効果」と呼び、発信者の好感度が情報の信憑性を底上げしてしまう。
また、切り抜き動画のように「視覚的な証拠」が伴う場合、私たちはそれが加工されている可能性を忘れ、「自分の目で見たものだから正しい」と過信しがちだ。しかし、切り抜かれた瞬間がその人のすべてを物語っているとは限らない。
こうした情報の偏りを防ぐためには、比較対象としてSNS以外の情報源を持っておくことが重要だ。SNSで話題のトピックがあれば、あえて新聞やテレビの報道、あるいは自治体が発行する公報など、異なるメディアを覗いてみよう。
SNSは「個人の視点」や「リアルタイムの熱量」を可視化するのに優れているが、情報の検証が後回しになりやすい。流れてくる情報を、「事実」と「意見」に分けて読むだけでも、情報の意図を冷静に見抜けるようになる。
選挙は“推し活”ではない

SNSによって政治が身近になったことで、特定の候補者をアイドルやアーティストのように熱狂的に支持する「推し活」のような現象も起きている。政治に関心を持つ入り口としては肯定的な側面もあるが、政治の本質的な難しさを見失うリスクもはらんでいる。掲げられている政策の有効性と、「好きか嫌いか」という個人の感情、SNSでのパフォーマンスの巧みさはまったく別の問題だ。
政治の大きな特徴は、多くの政策にトレードオフの関係があることだ。例えば「社会保障の充実」を掲げるなら、その財源をどこから確保するのか、誰が負担を負うのかという議論がセットでなければならない。「手取りを増やす」という魅力的な公約の裏には、公共サービスの縮小や、将来的な財政赤字の拡大というリスクが隠れている可能性がある。何かを得れば、別の何かに影響が及ぶのが政治の現実だ。
自分にとって都合の良いメリットだけを一方的に強調する情報を信じ込み、その政策の副作用から目を背けることは、社会の多面的な現実を見落とすことにつながる。自ら情報を多層的に捉え、あえて自分とは異なる視点にも耳を傾ける「思考の自由」を手放さないようにしたい。
Edited by k.fukuda
注解・参考サイト
注解
*1 「偽・誤情報、ファクトチェック、教育啓発に関する調査研究」報告書|国際大学グローバルコミュニケーションセンター
*2 選挙でSNS活用、30代以下の75% 60代以上は16%|日本経済新聞
参考サイト
選挙戦はSNSの影響力が拡大 専門家「フェイク情報を見抜けるのはたった14.5%」 生成AI時代の情報リテラシーが試される(FNNプライムオンライン)|Yahoo!ニュース
【やさしく解説】過熱するSNS選挙◆専門家に聞く「フェイクニュース」「切り抜き動画」との向き合い方|時事ドットコム
SNS時代の選挙と報道のあり方|民放online
「もろ刃の剣」SNSが日本人の政治意識・投票行動に与える影響|nippon.com
選挙で影響力を増すSNS。有権者が注意すべきポイントを確認|Biz Clip(ビズクリップ)























丸山 瑞季
大学で国際コミュニケーション学を専攻。卒業後はデジタルマーケティングに携わり、現在は難聴児の子育てに奮闘しながら、楽しく生きることをモットーに在宅で働く。関心のあるテーマは、マインドフルネス、ダイバーシティ、心理学。趣味は、食べること、歩くこと、本を読むこと。( この人が書いた記事の一覧 )