
由比ヶ浜に漂着したクジラからの問いかけ
1964年の「御谷騒動」と並び、鎌倉市民に語り継がれる 環境騒動がある。2018年8月5日、由比ヶ浜海岸に座礁したシロナガスクジラだ。10mに及ぶ巨体は海水浴シーズン真っ只中の鎌倉を騒然とさせた。死後数日が経過していたため、 国立科学博物館が中心となり解体調査を実施。死因は特定されなかったが、胃から検出されたプラスチックごみを、神奈川県は「クジラからのメッセージ」と受け止めた。
県はこれを契機に、 同年9月4日「かながわプラごみゼロ宣言」を策定し、深刻化する海洋汚染、特にマイクロプラスチック問題への取り組みを加速させることを表明した。鎌倉市も10月1日に同様の宣言を出し、市内各所に給水スポット を設置するなど、使い捨てプラスチックをゼロに近づける取り組みを推進している。

ゴミ拾いを「エンタメ」へ
こうした中、ビーチクリーンに取り組む市民団体が数多く活動する鎌倉市で独自の立ち位置を築いているのが 、2020年5月20日に設立された「学生団体ニューコロンブス」だ。

「新型コロナウイルスの蔓延による緊急事態宣言で、学生の活動機会や居場所が失われたことが設立のきっかけでした」と語るのは、この春、6代目の船長に就任した 豊洲武玄さん。鎌倉市で生まれ育った大学1年生だ。

「”学生による学生のための居場所作り”という設立理念を、今も大切にしています 」
環境ボランティアを主目的にしていない点が、他の団体と大きく異なる。 彼らが理念として掲げるのは「”可能性のスタート地点”」。メンバーの「やってみたい」という思いを形にすることを活動の中心に据えている。
こうした土壌で生まれたのが、代名詞ともいえるイベント「MiiGO(ミーゴ)」だ。コンセプトは「謎解き×地域清掃」。参加者は街を歩きながら鎌倉を舞台にした謎解きゲームに挑むが、ヒントを得るためのアイテムとして「ゴミ」を活用する。
「謎解きのヒントを得るためにタバコの吸い殻を5個拾うなどのミッションを数多く用意しました 」

ビーチクリーンをはじめとするゴミ拾いボランティアの課題は持続可能性にある。彼らは当初からメンバー主導のボランティア活動においても自己犠牲にならず、参加者自身が楽しむことを主眼に置いていた。この環境活動の「エンタメ化」は、地域の魅力を再発見させるコンテンツとして完成度も高く、鎌倉市内外で2ヶ月に一度のペースで開催されている。

“かつて遊んで地球を守ったものがいただろうか”をキャッチフレーズに環境活動を観光施策との合わせ技でアップデートしたその発想力は「面白法人カヤック」をはじめとする地元企業とのパートナーシップにもつながっている。

地元企業と取り組むMarine Dream
彼らの活動は、地域住民やパートナーシップ企業の応援に支えられている。前述した面白法人カヤックからは活動拠点となる古民家を、神奈川スバルからはラッピングカーの貸与を受けている。

「自分たちの活動に地元の大人の方々が共感してくれて、あたたかく応援して下さっていることには感謝しかありません」
こうした連携から生まれたのが、 「Marine Dream」というプラスチックゴミのアップサイクルプロジェクトだ。
「地域のイベントに出展する中で、ゴミ拾い以外にも環境問題を発信したいという思いが強くなりました。それを形にしたのが、プラスチックごみを素材にしたキーホルダー作りです 」
当初はビーチクリーンで拾った海洋プラスチックゴミを素材にしようとした。だが、衛生面や素材の不均一さが壁になった。
「現在は鎌倉市内で回収されたペットボトルキャップを地域の方々に洗浄してもらい、プラスチックのリサイクルを手掛ける事業者様に粉砕を委託。ペレット状の素材をアイロンで成形し、1つひとつ手作りしています」

キーホルダーのモチーフは「クジラ」だ。
「やっぱり鎌倉のプラスチックゴミ問題といえば、2018年に由比ヶ浜に打ち上げられたクジラなんです」

2025年度には約4,000個制作して1個200円で販売した。”かわいい”という入り口から海洋プラスチック問題に関心を抱けると評判も高い。
「初めてMarine Dreamの制作に関わった時 、何より驚いたのは『アップサイクルって、こんなに身近なことなんだ』という発見でした ゴミが想像よりも簡単に、新しい価値を持つものに生まれ変わることを実感して、リサイクルやアップサイクルがぐっと自分の生活に近づきました」
現在はシーグラスなどマイクロプラスチック以外の資源を用いたモノ作りも計画しているというこうした資源循環の分野でも市民と企業の連携が見られる点もサーキュラーシティとしての鎌倉の先進性だ。
里山の体験が、環境への「当事者意識」を育む
彼らの活動フィールドは海や市街地だけではない。「身体全体で自然を感じること」をテーマに西鎌倉にある広町緑地の保全活動にも参加している。開発計画が持ち上がっていた緑地を平成15年に市民が市や県とともにナショナルトラストで保全した土地だ。他の市民団体とともに、彼らも耕作放棄地となっていた里山を開墾し、里芋やこんにゃく芋を栽培している。

「最近は温暖化の影響で暑くなってきているので、野菜を植える時期が早くなっているのを感じます。5月なのに猛暑だったりすることもある」
活動を通じて育まれる気候変動への当事者意識も、彼らを環境活動に駆り立てる原動力になっている。また、この畑ではパートナー企業である神奈川スバルの新人研修もサポートするなど、里山体験を通じた環境意識の啓発にも務めている。
サーキュラーシティの鍵は、若者の居場所づくり
設立から6年。当初5人だったメンバーは240人にまで拡大した。高校1年生から大学4年生まで鎌倉市内の学生が半数を占めるが、横浜や京都など遠方からの参加者もいる。
「ボランティアなのに楽しいということもありますけど、「活動に参加していると就職に有利」 という付加価値が自然に醸成されてきたことも、多くの学生が参加してくれる動機になっていると思います」
サーキュラーシティの担い手となるのは人だ。少子高齢化が加速している今、持続可能なまちづくりには、若者の居場所を作り、地域の担い手として育成していけるかが喫緊の課題となっている。産官学民連携でそれを実現させている彼らの活動は他の自治体にとっても好事例のひとつと言える。
「次のプロジェクトはフードロスの削減です」と豊洲さんは言う。現在、メンバーが各家庭から持ち寄った残り物の食材を使ってで実施している内部イベント「ニューコロンブスキッチン」を、今後は一般の人も参加できる公開イベントへと進化させる構想だ。
大好きな鎌倉の「ゼロ・ウエイスト」という新大陸に向けて、ニューコロンブスの航海は続いていく。
鎌倉
サーキュラーシティレポート
文・写真 青葉薫
鎌倉は循環型都市の実験場だ。
技術や地域通貨で資源が循環する仕組みを構築し、
市民精神と最新デザインで都市を変革する。
自給自足とコミュニティ再生を目指す今を記録する。
種蒔く旅人Ⅱ
~2040、未来の君へ~
文・写真 青葉薫
夕陽が海に沈む三浦半島・秋谷。
15年前に都会を離れ、
この海辺のまちで
「食べるものを育てる」暮らしを手に入れた。




















































青葉 薫
横須賀市秋谷在住のライター。全国の生産者を取材した書籍「畑のうた 種蒔く旅人」を上梓。本名で放送作家/脚本家/ラジオパーソナリティーとしても活動。日本環境ジャーナリストの会会員/横須賀市都市計画審議委員/横須賀市環境審議委員/株式会社オフィスクレッシェンド取締役
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