第19回 いちごのショートケーキができた

ケーキを焼いているとき、ふと思ったのだ。
「この材料はたいてい北海道で揃うのでは?」
身近なところで、小麦粉や卵や乳製品が生産されていることに、なんだかワクワクしてきたのだった。

そこで、いちごのショートケーキができるまでの旅をすることにした。材料の生産者を訪ねてみよう。どんな人が、どうやって生産しているのか。全員の顔を思い浮かべながら、集めた材料で、最後にとびっきりのケーキを焼くつもりでいる。

さあ、一緒に出かけましょう。

いちごのショートケーキの材料を求めて旅を続けてきた。最終回を迎えたところで、そもそもなぜ「ショートケーキ」と言うのだろうかと思い、調べてみた。

吉田菊次郎『西洋菓子彷徨始末』(朝文社)によると、いちごをのせたショートケーキは欧米各国には見当たらず、日本固有の洋菓子のようだとのことである。昭和の初めから11年ごろにその原形が出来上がったそうだ。

そしてなぜ「ショートケーキ」と名付けられたのかはわからないらしい。「ショート」は「サクサクした」という意味なのであるが、ショートケーキにはその食感は微塵もないからである。これほど私たちになじみ深い食べ物でもあるのに、謎に包まれているのが面白い。

いちごのショートケーキの材料がついに揃う

さて、ついに「いちごのショートケーキができるまで〜生産者をめぐる旅〜」も全ての材料が揃い、いよいよケーキを作る日がやってきた。取材は季節に左右されることもあり、10か月に及んだ。そのため取材の折々に入手した各材料の大半は、すでに食べてしまっていた。しかもうかうかしていると、いちごの季節が過ぎ去ってしまう。

少々焦りながらも、何とか材料を再び集めることができたので、食卓の上に並んでもらって記念写真を撮影した。実はうかつにも並べてみて初めて気づいたことがあった。取材していなかった牛乳も必要だったのだ。そこは生クリームの旅で訪れた、あすなろファーミングの「あすなろ放牧酪農牛乳」に登場してもらうことにした。ちょうどわがやの冷蔵庫に入っていたのだ。

せっかくなので、これまでの旅とケーキの材料を振り返ってみよう。

・永光農園からは、幸せそうな鶏が産んだ卵
・前田農産食品からは、「生産者の顔の見える」小麦
・江別製粉からは、小麦のバトンを受け取った小型製粉プラントで作られた小麦粉
・チーズ工房アドナイからは、チーズ工房ならではの、笑顔と共に作られた無塩発酵バター
・片桐農園からは、直播という栽培方法にチャレンジしているビート
・北海道糖業からは、ビートから様々な工程を経て取り出した砂糖
・mitosaya薬草園蒸留所からは、うれしいことしかしない人が作ったアグリコールラム
・あすなろファーミングからは、とても大切に飼育されている牛から搾ったミルクから作られる生クリーム
・たつんこファームからは、いちごが大好きな夫婦が手塩にかけて育てたいちご

こうして書き連ねていると、改めて皆さんに感謝を伝えたくなった。ありがとうございます。そしてこれからもどうぞ美味しいものをよろしくお願いします。

いよいよケーキを作る

そしていよいよ、ケーキ作りに取り掛かった。実は、最近は、もっぱら炊飯器で、手軽にスポンジケーキを焼くようになっている。原稿を書くときだけ格好をつけても仕方ないので、いつも通りに作ることにした。

材料は次のとおり。

スポンジ生地

・前田農産食品の小麦粉「きたほなみ」 120g
・永光農園の「おいしい平飼い卵」 5個
・北海道糖業の「ほのぼの印グラニュ糖」 100g
・あすなろファーミングの「あすなろ放牧酪農牛乳」 大さじ1
・チーズ工房アドナイの「無塩発酵バター」 20g

ホイップクリーム

・あすなろファーミングの生クリーム 400g
・北海道糖業の「ほのぼの印グラニュ糖」 大さじ3

シロップ

・水 100cc
・北海道糖業の「ほのぼの印グラニュ糖」 50g
・mitosaya薬草園蒸留所のラム 大さじ1
・チーズ工房アドナイの「無塩発酵バター」(内釜塗り用) 適宜
・たつんこファームのいちご「けんたろう」 2パック


作り方

1. 内釜の内側にバターを薄く塗っておく
2. 牛乳とバターを湯煎にかけて温めておく
3. 卵を卵白と卵黄に分け、卵白を泡立てる。砂糖を3回に分けて入れ、しっかりとした角が立つまでハンドミキサーで泡立てる
4. 3に卵黄を加えて泡立て器で混ぜる
5. 4にふるっておいた小麦粉を加えてゴムベラで混ぜる。2を加えて手早く混ぜる
6. 内釜に5を入れて、底を叩いて、炊飯器にセットして焼く
7. シロップを作る。水と砂糖を混ぜて鍋に入れ火にかける。砂糖が溶けたら冷まして、ラムを入れる
8. 出来上がったスポンジケーキを内釜から取り出して、網の上で冷ます
9. 冷めたスポンジケーキを半分にスライスして、シロップを刷毛で塗る
10. 生クリームに砂糖を入れて、ハンドミキサーで八分立てに泡立てる
11.ホイップクリームをスポンジケーキの切り口に流し、半分にスライスしたいちごを並べ、ホイップクリームを上に流す 
12. スポンジケーキをかぶせてから、全体に生クリームを塗る
13. いちごをのせてできあがり



ついに完成した。感無量だ。いつも以上に気合いが入ったが、こんなときこそ、気負わず淡々と作るのが大切だよなと思いながら、それでもドキドキしてしまった。

卵のパワーと、それを受け止める小麦粉によって、生地はしっかり膨らんでくれた。同時に旨みのあるケーキとなっている。バターと牛乳がしっとりとした味わいを深めている。そこにラムのほのかな香りが漂って、品の良い甘みを引き立てる。生クリームに砂糖が加わったホイップクリームは、優しくクリアなおいしさで、スポンジケーキを包み込む。

そしてラストに真っ赤ないちごが登場し、美しく全体が輝く。クリームの甘さといちごの甘酸っぱさが、混じり合い、幸せを運んできてくれる。ああ、これがいちごのショートケーキだ。

ひとつひとつの材料があることの奇跡

さて、完成したケーキを食べた家族からは「今日は何のお祝いなの?」とたずねられた。「ケーキの材料が揃って、ケーキができあがったお祝いだよ」つまり、ケーキ作りそれ自体がすでにお祝い事に向かっているということなのだった。

「かなりおいしいね」「今までのベストだね」と口々に言われた。実際、私自身もそう思った。ただただ純粋においしくできた、ということもある。もちろん、生産者の方々の思いを聞いてきたから一層味わい深いということもあるにちがいない。

これまで数え切れないほどのケーキを焼いてきたし、これからも焼くだろう。だけど今となっては、ひとつひとつの材料が、今、ここにあることが、ちっとも当たり前のことではなく、ほとんど奇跡みたいなことであると思わざるを得ない。

きっと今日も、それぞれの畑や牧場や工房や工場で、みなさんは頑張っていらっしゃっただろう。最高のケーキを作れただけではなく、そのような奇跡を感じられたことが私にとっては「収穫」であった。

自分で料理をすると、否応なしに材料に向き合うことになる。どうせ手間暇かけて作るのだから、少しでもよい材料を選びたいと考えることもあるだろう。あるいは、とりあえず間に合わせの材料でもいいやと妥協する日もあるかもしれない。

でも少なくとも、どんな食材であっても、どこかで誰かが生産していることにかわりはない。ややもすると、そのことを忘れてしまいがちだ。たいていの食材は、お金を払って店で買うものには違いないけれど、それらは全て人の営みの結晶であることを忘れずにいたいと思う。

旅の終わりに

寂しいけれど、連載は今回で終わります。編集部の方に「好きなことを書いてください」と言われ、本当に自由にやらせていただきました。取材の旅に行き、その後に「後記」として関連したことを書くというスタイルは、私自身にとってもこの上なく楽しいものでした。

また、快く取材に応じてくれた方々には感謝してもしきれません。お会いして、お話をうかがうと、そこには必ずその方の人生を背負った「物語」がありました。そして、それはまず、私自身を励ましてくれるものでした。あとは物語を曲げないように気をつけて形にすればよかったのです。

ここまでお付き合いくださいました読者の方々にもお礼を申し上げたいと思います。これからも豊かな自然の恵みの数々を食べていけるように、生産現場のことを少しでも気にかけてくださるきっかけとなったら嬉しいです。

ありがとうございました。またいつか、お会いしましょう。

横松心平

About the Writer
林心平_横松心平

横松 心平

1972年東京都生まれ。札幌市在住。北海道大学入学後、北海道大学ヒグマ研究グループの一員になる。北海道大学大学院農学研究科修士課程修了。同博士課程中退後、農業団体や福祉施設の職員を経てライターに。農業、環境、子育て、ジェンダー、文学に関心があります。現在6冊目の著書の刊行準備中。
この人が書いた記事の一覧

いちごのショートケーキができるまで
〜生産者をめぐる旅〜

文・写真 横松心平

ケーキを焼いているとき、ふと思ったのだ。
「この材料はたいてい北海道で揃うのでは?」


身近なところで、

小麦粉や卵や乳製品が生産されていることに、
なんだかワクワクしてきたのだった。

第19回 いちごのショートケーキができた
第19回 いちごのショートケーキができた
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