第17回 いちごをめぐる旅|豊浦町・たつんこファーム

ケーキを焼いているとき、ふと思ったのだ。
「この材料はたいてい北海道で揃うのでは?」
身近なところで、小麦粉や卵や乳製品が生産されていることに、なんだかワクワクしてきたのだった。

そこで、いちごのショートケーキができるまでの旅をすることにした。材料の生産者を訪ねてみよう。どんな人が、どうやって生産しているのか。全員の顔を思い浮かべながら、集めた材料で、最後にとびっきりのケーキを焼くつもりでいる。

さあ、一緒に出かけましょう。

生産者をめぐる旅の第9回目は、いちごをめぐる旅だ。実はいちごの産地である豊浦町には、第1回目の旅で訪ねるつもりだった。ところがちょうど、収穫シーズンが終わったばかりで取材はかなわなかった。そうこうしているうちに季節は巡り、今回、最後の旅として、シーズンが始まったばかりのいちご畑を訪れることができたのである。

いちごのケーキはクリスマスの印象が強いため、冬にとれる果物であると思われているかもしれない。しかし本来は、休眠して越冬し、春に開花して果実をつける作物である。加温ハウスの普及や品種改良によって、一年中販売されているというわけなのだ。

なぜ豊浦町に行くことにしたのかというと、もちろんいちごの名産地であるからなのだが、それだけではない。「いちご分校」という施設を拠点として、新規就農者を手厚く支援しているからだ。「いちご分校」とは、聞くだけで楽しい気分になってくる名称ではないか。噴火湾に面した豊浦町に、はやる気持を抑えつつ向かった。

いちご農家を目指した夫婦

たつんこファームを経営している齊藤夫妻は、豊浦町で2020年4月から3年間農業研修を積んだのちに、いちご農家として独立した。現在、農家となって4年目の春、そしていちごの収穫期を迎えている。茨城県にいたお二人は、なぜこの地にやってきたのだろうか?

妻の理惠さんが教えてくれた。

「夫は夜の運転手の仕事をしていて体力的に大変だったんです。私は昼間の事務仕事で生活はすれ違いでした。夫に尋ねると、今の仕事は好きじゃないと言うので、何をやりたいか聞きました。すると『いちご農家やりたい』って答えたんです。私たちは二人ともいちご好きだったので、農家になったら好きなだけ食べられるじゃないかと、意気投合しました」

なんと、農家というのではなくピンポイントでいちご農家志望だったのだ。そして、いちご農家になれそうな地域を探して回ったのだという。初めは、近隣の栃木、静岡などをあたってみたものの、土地や資金の問題があり、なかなか新規参入は難しそうだった。そんな時、北海道の豊浦町に出会った。

「北海道でもいちごができるんだ、と興味が湧きました。豊浦町は新規就農者を積極的に支援しており、特に、ベテラン農家である親方の元でお給料をもらいながら1年研修できる点に、安心感がありました」と夫の竜彦さんは語る。

いちご農家になるための手厚いサポート

さて、実際に豊浦町における新規就農サポートとはどのようなものなのだろうか。

・地域おこし協力隊の農業支援員(公務員)として勤務し、給料と賞与をもらいながら農業研修を受けられる。

・いちご農家を目指す研修は、パートナーと2人1組で3年間であり、ベテラン農家(親方)の指導を受ける。

・研修施設は、豊浦町地域産業連携拠点施設(いちご分校)と、親方の農場。

・研修を終えて就農する際には、起業支援補助金、初期投資助成、就農から3年間の資金補助などを受けられる。

実家が農家で跡を継ぐのであれば、親から技術を教えてもらえるし、土地や農業機械もすでにある状態だ。ところが技術も土地も持っていない人が、ゼロから農業を始めようとするのはなかなか大変なことである。

技術研修を受けるとしても、その間の生活費をどうするかという壁が立ちはだかるし、農地を手に入れるのも簡単なことではない。

それをここまで手厚く支援してくれるのだから、なんとも心強いことである。それにしても先生となるベテラン農家のことを「親方」と呼ぶのは、敬意が込められていて素敵だ。

「新規就農者が孤立することはないですね。親方を通じて、地域に溶け込めました。そういえば研修中、ある時点から親方の一人称が『父ちゃん』になったんです」

と竜彦さんは言った。親方の研修生への眼差しは、わが子に対するものと同じなのだろう。

さらに豊浦町役場農林課農林係の朽葉昌生係長が教えてくれた。

「親方は3人いらっしゃるんですが、皆さん地域のことをなんとかしたいと考えている人なんです。とても面倒見がいい人たちで、これまでに研修の卒業生は4組いますが、全員町内で就農されました。研修の3年目には、自分の農地の準備も進めていきます。収穫時にいちごを並べて置く『おかもち』も自分たちで作ったりします」

いちご分校は、廃校になった小学校の校舎を活用して、加工室、研修室、宿泊室、出荷調整室と研修用のビニールハウスを備えた施設である。

(詳しくは、北海道豊浦町地域おこし協力隊募集サイトをご覧ください。)

いちご農家の1年

いちごハウスの中に入ると、甘い香りが漂ってきた。受粉のために巣箱が置かれており、ミツバチが飛び交っている。おうかがいした4月下旬は、収穫が始まったばかりのタイミングだった。これから6月いっぱいくらいまで、早朝から夕方まで忙しい日々が続く。

収穫が終わると、いちごの株は抜いてしまい、土を崩して耕し、肥料をまいたり日光消毒をしたりして次シーズンの準備を行う。8月には苗を定植し、その後は水をやったり葉の手入れをしたりして、苗のお世話をして根を活着させる。それからうねにマルチと呼ばれるカバーをかけ、12月にはハウスの屋根を外して雪の下で苗を休眠させる。

およそ1000時間休眠させた後に、今度はハウス内を暖房していく。休眠から明けたいちごは成長して花を咲かせる。これがいちご農家の1年である。

豊浦での主力いちご品種は、一季成り(1年に1回、春〜初夏に果実をつける)の「けんたろう」である。1年のうち2か月しか収穫できないので、農家は他作物も栽培する。たつんこファームでは、サヤインゲンとギョウジャニンニクを作り始めている。これらの栽培方法も親方たちから学んだのだ。「自分で食べたいものしか作らないんです」と理惠さんは笑った。

いちごを食べて笑顔になってもらいたい

「農家になってみて、いちごに対する見方は変わりましたか」とたずねると、理惠さんは言った。

「私はいちごに練乳をたくさんかけて食べていましたが、今はかけなくなりました。練乳をかけないで食べてくださいと、伝えたいです」

するとすかさず朽葉係長が「いちごが甘いからじゃないですか」と言った。

そうなのだ。たつんこファームでいただいたいちご「けんたろう」は、大きいのに味がみっちり詰まっており、隅々まで甘かった。

「やってみてだめならしょうがないけど、やってみないであきらめるのはやめようと考えて農家を目指してきました。ぜひ、皆さんにはいちごを食べて笑顔になってもらいたいですね。自分もニコニコしちゃいます」

念願どおり、好きなだけいちごが食べられるようになった今、齊藤夫妻は、いちごへの愛をお客さんにも伝えたいと考えている。

今回の生産者さん

たつんこファーム

たつんこファームは、北海道の噴火湾に面した豊浦町の農家だ。齊藤竜彦さんと理惠さんの夫婦で1haの農地に11棟のビニールハウスを建て、いちご、サケインゲン、ギョウジャニンニクなどを栽培している。たつんこファームのいちごは、農協や「道の駅とようら」に出荷しており、豊浦町のふるさと納税のお礼の品にもなっている。その他いちご直売会、噴火湾とようら観光協会のネットショップなどでも購入できる。農作業の日々を写した動画も楽しい。

About the Writer
林心平_横松心平

横松 心平

1972年東京都生まれ。札幌市在住。北海道大学入学後、北海道大学ヒグマ研究グループの一員になる。北海道大学大学院農学研究科修士課程修了。同博士課程中退後、農業団体や福祉施設の職員を経てライターに。農業、環境、子育て、ジェンダー、文学に関心があります。現在6冊目の著書の刊行準備中。
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いちごのショートケーキができるまで
〜生産者をめぐる旅〜

文・写真 横松心平

ケーキを焼いているとき、ふと思ったのだ。
「この材料はたいてい北海道で揃うのでは?」


身近なところで、

小麦粉や卵や乳製品が生産されていることに、
なんだかワクワクしてきたのだった。

第19回 いちごのショートケーキができた
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