苫小牧で始まったCCS試掘。脱炭素は構想から実装へ

2050年のカーボンニュートラルに向けて世界中で省エネや再エネに取り組んでいるが、最後の切り札とも言えるのがCO2を地下に貯めるCCS事業だ。日本では2025年末にかけて大きな動きがあり、脱炭素の実現に向けて大きく前に進んだ。研究・実証段階から一段階上がり、現実味を帯びてきたCCS事業の最先端を紹介する。

2026年、日本のCCSは「研究」から「実働」へ

工場などから排出される二酸化炭素(CO2)を回収して地中に貯留するCCS事業が、2025年末に商用化に向けた新段階に入った。「先進的CCS事業」として選定されていた「苫小牧地域CCS」(北海道)で、2025年12月27日に試掘が開始されたのだ。

CCS事業は、2008年に開催された「G8北海道洞爺湖サミット」によって大きく注目された。「世界的に大規模な20のCCSの実証プロジェクトが開始されることを望む」という首脳宣言が行われたからだ。

その後、世界各国で取り組みが加速し、日本でも2012年2月に苫小牧で日本初の大規模CCS実証プロジェクトがスタートした。製油所や発電所から排出されたCO2を回収・貯留するという事業で、2019年11月には累計30万トンのCO2圧入が完了している。

この実証結果を受けて、経済産業省と環境省では、CCSをさらに前に進めるべく法整備も進めてきた。2023年5月には「グリーン・トランスフォーメーション(GX)促進法」が成立し、脱炭素ビジネスへの投資行動の一つとしてCCS事業が盛り込まれた。

さらに2024年5月、「二酸化炭素の貯留事業法(CCS事業法)」が国会で可決。国による「研究」フェーズから、民間企業による「実働」フェーズに完全移行したと言える。

なお「(令和6年度)先進的CCS事業」とは、2024年6月に独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)が選定した、2030年までの事業開始を目指すCCS事業のこと。「苫小牧地域CCS」を含む国内貯留5案件と、海外貯留4案件の合計9案件が選定されている。CO2の年間貯留量600~1,200万トンを2030年までに確保することが目標だ。

国境を越えるCO2バリューチェーン:日本とマレーシアの連携

日本国内でCCSの試掘が始まったのとほぼ同時期に、CO2の回収・輸送・利用・貯留(CCUS)技術を社会実装するための仕組みである「CO2バリューチェーン」構築に向けた動きも進んでいる。2025年10月、日本政府とマレーシア政府がCCS事業に関する協力覚書を締結した。CO2の越境輸送には国際条約により2国間での合意が必要で、日本政府が主導する本格的なCO2越境貯留スキームとしては初となる。

本事業は、火力発電所などから出たCO2を日本からマレーシアへ輸送し、枯渇ガス田や海底帯水層に貯留することを想定している。「先進的CCS事業」でも、海外貯留4案件のうち3案件がマレーシア沖を貯留地域に選定している。

これは、CO2を単に「国内に埋める」だけではなく、日本企業が生き残るための戦略とも言われている。船舶輸送という新たな海運・物流産業の誕生にもつながるからだ。日本で回収したCO2を船舶で輸送し、海外で貯留するという壮大な物流網が完成すると、国際的な脱炭素インフラを日本が主導する立場になる可能性もある。

中でも、国境を越えるCO2バリューチェーン構築に向けて重要な位置を占めるのが、船舶による液化CO2の輸送技術だ。この技術を確立するため、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の主導により、2021年から研究開発ならびに実証試験が行われている。

具体的な動きとしては、2021年3月に商船三井が30年以上にわたり液化CO2輸送を行っているノルウェーのLarvik Shipping社へ出資し、液化CO2海上輸送事業に参画した。さらに2025年には、商船三井がマレーシア国営エネルギー事業会社グループの2社と、液化CO2輸送船の開発・保有を目的とした船主合弁会社を設立している。

2国間の合意に向けた覚書締結により、日本が主導する「国境を越えるCO2バリューチェーン」の構築は今後加速度的に進展すると予想される。

世界ではすでにCCS施設が稼働

公益財団法人地球環境産業技術研究機構(RITE)CO2貯留研究グループが作成した資料「海外CCSプロジェクト動向」によると、2024年11月時点で世界では50のCCSプロジェクトが稼働しており、5,100万トンのCO2が回収・貯留されている。さらに検討中や整備中なども含めると、世界では628件のプロジェクトが動いており、回収・貯留の規模は4億トンに達する。

日本ではようやく商用化のスタートラインに立ったところだが、欧米では以下のようなプロジェクトが進んでいる。

Questプロジェクト(カナダ)

「Questプロジェクト」は、カナダ・アルバータ州で2015年から運転を開始しているプロジェクトだ。エリア内は油ガス産業が盛んで工場が集積しており、水素製造プラントから年間108万トンのCO2を回収している。65kmの陸上パイプラインで輸送し、深度2,300mの帯水層に貯留している。

カナダ連邦政府補助金やアルバータ州補助金を活用し、運用コストの約60%をまかなっている。2026年以降のCO2クレジット価格次第ではあるが、民間事業者が投資リターンを得られるビジネスモデルとなっている。

Northern Lightsプロジェクト(ノルウェー)

「Northern Lightsプロジェクト」は、政府主導のCCS一貫プロジェクトである「Longshipプロジェクト」のうちの輸送・貯留に係る部分。2021年に事業を開始し、2024年に圧入を開始している。

初期段階では政府支援による受け入れ分と、商業ベースの有償受け入れ分が併存する設計となっており、80万トンは無償、残り70万トンが有償だ。受け入れ価格は、事業として一定の収益性が確保できる水準を想定して設定されている。試算によると2028年から黒字になり、補助が満了となる時点で累計収支も黒字になる見込みだ。

脱炭素のパズルを完成させる最後のピース

わたしたちの暮らしに馴染んできた省エネ・再エネだが、エネルギー消費を限界まで減らしてもコスト面や安定供給には限界があると言われる。つまり「脱炭素」を完成させるには最後のピースが必要で、その最有力なのがCCSなのだ。

IEA(国際エネルギー機関)によると、2050年に世界全体でカーボンニュートラルを実現するには、年間約38〜76億トンのCO2をCCS・CCUSで圧入貯留しなければならない。

経済産業省がCCSの実装を目指して2023年3月に公開した「CCS長期ロードマップ検討会最終とりまとめ」では、2050年時点での年間CO2貯留量の目安を1.2億〜2.4億トンとし、2030年までを「ビジネスモデル構築期」、2030年以降を「本格展開期」と位置付けている。

CCSが実装されると、CO2排出を削減する時代から、排出をなかったことにできる時代になる。2026年、「技術(CCS)」と「法(事業法)」と「現場(苫小牧)」が揃い、脱炭素はもはや構想ではなくなった。実装に向けてフェーズが一段階上がり、脱炭素が現実味を帯びている。2030年以降の「本格展開期」に向けて、世界に誇れるビジネスモデルが構築されることに期待したい。

Edited by c.lin

参考サイト

地中にCO2貯留へ・・・苫小牧沖で27日から試掘・・・国内初の事業化に向け|読売新聞オンライン
マレーシアに日本のCO2を輸送・地下貯留へ CCS推進へ政府間で覚書|日本経済新聞
越境CCSハンドブック|独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構
CCS(二酸化炭素回収・貯留)について|日本CCS調査株式会社
海外CCSプロジェクト|動向公益財団法人「地球環境産業技術研究機構(RITE)」CO2貯留研究グループ
日本でも事業化へ動き出した「CCS」技術(前編)〜世界中で加速するCCS事業への取り組み|資源エネルギー庁
苫小牧におけるCCS大規模実証試験|苫小牧市企業立地ガイド
苫小牧CCS実証試験(2012年度〜)|日本CCS調査株式会社
日本と世界のCCUS事例最前線!─CO₂を運ぶ商船三井の挑戦もご紹介(後編) |商船三井
CCS事業化に向けた先進的取組|経済産業省

About the Writer
倉岡

倉岡 広之明

雑誌記者として活動した後、フリーライターとして独立。さまざまなジャンルの記事を執筆しているが、北海道で生まれ育ったこともあり、自然環境や気候変動、SDGs、エネルギー問題への関心が深い。現在は、住宅やまちづくり、社会問題、教育、近代史など、多岐にわたるテーマを手がけている。
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