
AIが最適なパートナーを教えてくれる時代。ミスマッチを避ける出会いは便利だが、その裏で人間の成長やすれ違い、喧嘩といった不合理な経験が失われているかもしれない。本記事では、「最適化された愛」が私たちにもたらす恩恵と課題、そして人間が担うべき役割について探っていく。
“愛”がアルゴリズムで決まる時代。AIの恩恵と現実

AIの進化により、恋人との出会い方がここ10年程度で大きく変わった。以前なら職場や学校での出会い、友人や知人からの紹介などが主流だったが、今ではスマートフォンのマッチングアプリ上で相手を探すことが珍しくなくなっている。
マッチングアプリを通した出会いの広がりの背景には、タイパやコスパを重視する若い世代の価値観がある。こども家庭庁の調査では、多くの若者が「いい人がいれば」という気軽な気持ちでアプリを使っているという(*1)。
2025年に実施されたマッチングサービス・アプリの利用実態調査によると、マッチングアプリの認知度は28.3%、そのうち実際に利用した経験がある人は39.5%に上る。現在のパートナーとマッチングアプリで出会ったという人は、20代で15.3%、30代で11.4%だった。アプリを通じて交際に至った割合は54.8%と、ユーザーの半数以上が実際に関係を築いている(*2 )。
マッチングアプリにおいて、AIのアルゴリズムは年齢や趣味だけでなく、ログイン時間やアプリ内での行動パターンまで学習し、ユーザーごとに「最適」な相手を提案していく。使えば使うほど精度が上がる仕組みとなっており、ミスマッチを少なくする環境がつくられる。
だが、自分の価値観や好みと合う人と出会いやすくなった一方で、AIによる「愛の最適化」は私たちの内面的な幸福を本当に高めているといえるのだろうか。
AIが提供する「最適化された愛」の功罪

AIによるパートナー選びによって、実際に恩恵を受けられていると感じることは多いだろう。
AIは膨大なデータをもとに、休日の過ごし方や金銭感覚、結婚観といった細かな価値観まで分析してくれるため、話が合う相手と出会いやすくなる。人は共通点の多い相手に親しみを感じやすく、関係も自然と深まりやすい。
若者の多くが自分の理想の相手像を「いい人」としか言葉にできていないという調査結果がある(*3)。そんな中で性格診断や相性診断といった機能やAIがおすすめの人を表示してくれる機能は、ぼんやりしていた理想を具体化し、理想のパートナーを見つける助けになる。
ただ、この便利さの裏側には、見過ごされがちな側面もある。
出会いにはもともと、偶然同じ場所にいた人と仲良くなるパターンと、最初から交際を目的に行動して出会うパターンの2種類がある。マッチングアプリは後者に特化しているため、条件に合わない相手は最初から画面に出てこない。きっかけさえあれば仲良くなれたかもしれない人との接点が、システム上で消えてしまう。
またパートナー選びの可能性が無限に広がったことで、「もしかしたらもっと良い人がいるかもしれない」と、一人の相手に真剣に向き合えなくなったり、付き合い始めても次の候補を探し続けてしまったりするケースもある。
AIが示す「最適」は、あくまでもその時点での希望から導き出された答えに過ぎない。結果的に最適だったかどうかは誰にも分からない。しかし、便利さと引き換えに安定を求め続けてしまい、自分自身が変わっていく可能性が閉ざれていっているのかもしれない。
人間的な成長に不可欠な「非合理な経験」

便利さと引き換えに失われているもの。それは、非合理な経験そのものかもしれない。人間関係におけるすれ違いや喧嘩、失敗、苦悩といった、できれば避けたいと思うような経験は、一見無駄に思えるが、実は人間的な成長に不可欠である。
心理学には「PTG(心的外傷後成長)」という考え方がある。辛い出来事を経験した後、単に元の状態に戻るのではなく、困難を通じて新しい考え方や感じ方を身に付けることだ。成長するためには、辛い経験をただ辛いだけのものではなく、成長の機会として捉え直す力が必要だという。
恋愛でも同じことがいえるだろう。たとえば、すれ違いや喧嘩を経て関係が深まった経験、最初は「この人とは合わない」と思っていたが衝突するうちに相手の考え方が分かってきた瞬間。人は思いがけない出会いや関わりの中で、価値観のぶつかり合いや関係の修復を経験し、それを繰り返す中でお互いの理解が深まり、関係性が強くなっていく。
しかし、AIによる最適化はこのような成長の機会を減らしてしまう可能性がある。マイクロソフトとカーネギーメロン大学の共同研究によると、AIに頼りすぎることで自分で考える力や創造性が使われなくなり、自分で問題を解決する力が弱くなっていく危険性が指摘されている。大事な場面でAIが言うなら正しいと思い込んでしまい、自分に合わないと決めつけていた相手への理解や、自分自身が変わっていく可能性を狭めてしまう。
摩擦のない関係は居心地がよい。だがその居心地の良さの裏で、辛さを通じて人が変わっていく機会を知らず知らずのうちに手放してしまっているのかもしれない。
AIによる「感情への介入」と自由意思の境界線

マッチングアプリにおけるAIの最適化を見ていくと、果たして愛を選んでいるのは、本当に自分自身なのだろうかという疑問が湧いてくる。
多くのマッチングアプリは、どういう基準で相手を勧めているのかを明らかにしていない。関係がうまくいかなかったとき、原因がどこにあるのか分からなくなる。自分の魅力が足りなかったのか、相手に問題があったのか、それとも見えないアルゴリズムの判断が間違っていたのか。
AIは直接的に感情をコントロールしているわけではない。だが、どの選択肢に出会ってどれを選ばないままにするかは決めている。そこで繰り返しAIの提案に触れているうちに、「勧められた相手のほうが正解なのではないか」という感覚が少しずつ当たり前になっていく。直感でアルゴリズムが勧めない相手を選んだとしたら、それは効率の悪い選択だと感じてしまうこともあるだろう。
アルゴリズムの不透明さは、恋愛そのものへの信頼や自分の判断力への自信を揺るがし、知らないうちにネガティブな感情を生み出してしまう。誰かに操られたという怒りではなく、自分で決めたはずなのに確信が持てないという不安だ。
私たちはAIを活用して選んでいるように見えるが、実は知らないうちに選ばされているのではないだろうか。
AI時代の人間関係における「人間の役割」

AIは、人と人が出会うきっかけをつくる優れたツールだ。しかし、出会った後の関係を育てて深めていくのは、結局のところ私たち自身の行動にかかっている。
AIのアルゴリズムが示す「最適」は、いくつもある可能性の一つに過ぎない。それを受け入れるか、あえて別の道を選ぶかを決めるのは私たち人間だ。時には効率的とはいえない選択や、失敗するかもしれないと分かっていても踏み出す勇気が必要な場面もあるだろう。
AIと共存する時代に私たちが意識したいのは、AIの恩恵を受けながらも、感情と関係性の舵を取るのは人間自身なのだということだ。最適化された愛が示すのは正解ではない。選び、迷い、ぶつかり、受け入れてみることが、人間だからこそ担える役割なのだ。
Edited by s.akiyoshi
注解・参考文献
注解
(*1)(*3)若い世代の描く ライフデザインや出会いを考える ワーキンググループ 議論のまとめ|こども家庭庁
(*2) 2025年マッチングサービス・アプリの利用実態調査|MMD研究所
参考文献
AIマッチングの仕組みは、以下のようなプロセスで構成されています。|TMS
AIマッチング機能で広がる理想の相手との出会い|G-match
「もっと良い人がいるかも」と理想のパートナーを探し続けてしまう…コスパ・タイパを重視する、マッチングアプリの意外な落とし穴|文春オンライン
危機をチャンスに換える能力|日経ESG
The Impact of Generative AI on Critical Thinking: Self-Reported Reductions in Cognitive Effort and Confidence Effects From a Survey of Knowledge Workers|Microsoft
What Psychological Effects Result from AI-Driven Dating? |Sustainability Directory






























エリ
大学時代は英米学科に在籍し、アメリカに留学後は都市開発と貧困の関連性について研究。現在はフリーライターとして、旅行・留学・英語・SDGsを中心に執筆している。社会の中にある偏見や分断をなくし、誰もが公平に生きられる世界の実現を目指し、文章を通じて変化や行動のきっかけを届けることに取り組んでいる。関心のあるテーマは、多様性・貧困・ジェンダー・メンタルヘルス・心理学など。趣味は旅行、noteを書くこと、映画を観ること。( この人が書いた記事の一覧 )