敵は世代ではなく制度だ。分断を終わらせる「全世代型社会保障」とは

世界は分断の時代を迎えている。多様な意見により対立が激化することなどが要因だが、日本国内で起きている世代間分断の要因の一つは社会保障制度だ。中には「もらい得」と言われる高齢者を敵視する現役世代もいる。そこで日本政府が進めているのが「全世代型社会保障」への移行だ。分断を終わらせることができるのか、ポイントを整理する。

分断された世代間を乗り越える

「格差社会」や「分断社会」という言葉をよく耳にするようになったが、その歴史は古い。私たちが暮らす社会には不平等が常に存在しているからだ。中でも、日本国内でことさら注目を集めるのが「世代間格差」あるいは「世代間分断」ではないだろうか。「老害」という言葉も頻繁に使われ、「若者vs高齢者」の構図が際立っている。

原因の一つが社会保障制度だ。想定を超えるスピードで少子高齢化が進んだことにより、支え手である現役世代が減少。給付と負担のバランスが崩れはじめ、将来への不安が増大している。シニア世代の「もらい得」と現役世代の「払い損」という言葉も使われ、現役世代からは「国民年金は払い損が確定しているから払いたくない」「保険料を支払わないで、その分は自分で運用したい」といった声も聞こえる。

事実、国が2018年にまとめた資料によると、社会保障給付費は2018年度の約121.3兆円から、2040年度は約188.2~190.0兆円(※1)になるという試算がある。しかも65歳以上の高齢者を現在は1.7人の現役世代で支えているが、約40年後には1.1人で支える(※2)ことになる。

しかし、その批判の矛先が「他世代」に向くのはおかしな話ではないだろうか。給付を受けているシニア世代は、その時々の国の制度に対して正しく保険料を納め続けてきただけだ。批判の矛先は「他世代」ではなく、「年齢で一律に区切る」という古い社会保障制度に向けるべきだ。

当然、日本政府も現行制度の不具合に対応するべく、社会保障制度改革を推し進めている。目指しているのは、年齢に依存せず、能力またはライフステージに応じて支え合えるような新しい社会保障制度。それが全世代で支える「全世代型社会保障」だ。

敵は「高齢者」ではない。「全世代型社会保障」への転換

「全世代型社会保障」が注目されるきっかけは、2022年1月に行われた当時の岸田文雄首相の施政方針演説だ。2023年12月22日には「全世代型社会保障構築を目指す改革の道筋(改革工程)」を閣議決定し、「全世代型社会保障の基本理念」に基づいて制度を見直す取り組みがはじまっている。

その鍵は「応能負担」「支え手の増加」「持続可能性」だ。ポイントを見てみよう。

年齢による「一律区分」の限界。応能負担の実現へ

日本の公的年金制度は、国民年金(基礎年金)と厚生年金の「2階建て」か、企業年金や私的年金が加わる「3階建て」の構造になっている。このうち国民年金は日本国内に住む20歳以上60歳未満のすべての人が加入する制度で、保険料は所得にかかわらず一律だ(2025年度は月額17,510円)。

日本の公的年金制度を語る上で、重要な指標の一つに「所得代替率」というのがある。年金を受け取り始める時点(65歳)での年金受取額が、現役世代の手取り収入額(ボーナスを含む)のどのくらいの割合かを示す数値だ。数値が高いと現役時代の生活に近い水準を維持できると考えられるが、少子高齢化の進行により低下傾向にある。2009年度の62.3%(※3)から2024年度は61.2%(※4)に下落。今後、過去30年と同程度の経済状況が続いた場合、2050年代後半には50.4%程度まで低下する(※4)という試算もある。日本政府は、年金制度を維持するための最低ラインを50%以上と法律で定めているが、それに迫る可能性があるのだ。

これに対して「全世代型社会保障」の原則は応能負担だ。年齢で一律に区切るのではなく、能力に応じて負担額を決定する。所得が高い人には高い負担率で保険料や税金を課し、所得の低い人には減免措置を設けることで所得の再配分を行う仕組みだ。具体的に行われるのは、「高齢者の医療費窓口負担の見直し」「介護保険の保険料や利用料の見直し」「年金・金融所得課税」など。これらにより世代間だけではなく、世代内での公平性も確保するとしている。

人口減少への対抗策。「支え手」を増やす改革へ

社会保障制度改革では年齢や性別にかかわらず、社会の担い手として可能な限り長く活躍できる環境を整えることも目指している。現役世代の負担感を軽減するため、「支え手」の幅を広げることで制度維持に必要な「人手」と「財源」を増やしていくのが狙いだ。

具体的には「高齢者の就業支援」や「女性の就業支援」「社会保険の適用範囲の拡大」などが議題に上がっている。例えば、現行の制度では60歳になる前月まで国民年金保険料を支払うが、厚生年金は加入資格がある場合は70歳まで加入することになる。60歳を過ぎても働く高齢者が増えれば、年金制度自体の収入が増加して財政基盤が強化される。また、女性が就業することでも厚生年金加入者が増える。そのための「高齢者の就業支援」「女性の就業支援」なのだ。

同様に、厚生年金加入者を増やすため、パート従業員といった短時間労働者の適用範囲を広げることも進められている。パート従業員の厚生年金加入は2016年からスタートしており、2022年と2024年に対象企業を拡大。中小企業でもパート従業員の厚生年金加入が一般的になっている。今後はさらに適用範囲を広げ、厚生年金加入者を増やしていく方針だ。

こうした施策により労働力人口の減少を補うことで、年金制度の「支え手」を増やしていくことができるとしている。

制度の持続可能性を求めて

日本の社会保障制度は、高度成長期だった1960〜1970年代に骨格が築かれた。第二次世界大戦後に救貧との意味合いで「生活保護法」などの法律を整備。生活水準の向上に合わせて、防貧として国民皆保険・皆年金制度が実施された。安定成長期に入った1990年代以降は、経済状況に合わせて社会保険制度の構造改革も行われている。

このように制度を持続させていくために、時代に合わせて変遷してきたのが社会保障制度の歴史だ。国民年金保険料も、1961年の制度開始当初は35歳未満が月額100円、35歳以上が150円だったが、物価や賃金の上昇に合わせて1973年に1500円、1990年に8400円、2000年に13,300円といったように上昇してきた。「全世代型社会保障制度」への移行は、急速に進む少子高齢化や人口減少時代に対応させるための見直しとも言える。

前述した就業機会の創出や女性の社会進出などにより「支え手」を増やすことができれば、制度の持続可能性を高めることができる。また、高齢者をはじめ全国民が健やかに生活できるように、健康づくりの取り組みを強化することもポイントだ。長く健康的に働き、イキイキと暮らすことで医療費や介護費の負担増を抑えることができるからだ。一見すると関係ないようにも見えるが、スキルアップ支援や学び直し支援、リスキリング支援、さらに子育て支援などの施策も、社会保障制度の持続可能性を高めることにつながる。

また高齢者が長く働く環境を整えることで、技術の伝達がスムーズに行われて経済活性化につながるほか、現役世代とシニア世代両方のモチベーションアップにもつながる。高齢者がウェルビーイングを実現し、生きがいを得てイキイキしている姿は、若者が抱く未来への不安を払拭して希望を抱かせることもできる。全世代がポジティブに生きるための社会づくりにもなり得るのだ。

このように超高齢化時代に合った制度づくりをすることにより、制度そのものの持続可能性も高めていくことになる。

まとめ:私たちが変われば、制度も変わる

保険料の負担増や年金財政の逼迫、医療費の膨張などにより、現役世代を中心に将来への不安が高まっている。それが世代間での分断、現役世代の高齢者への敵視にもつながっているが、悪いのは他世代ではなく時代に合わなくなった制度だということを改めて認識したい。超高齢化社会または人口減少時代の問題点を踏まえて、制度を変えるタイミングがきているのだ。

もちろん「全世代型社会保障制度」への移行は痛みを伴う。増税や社会保険料の引き上げなどに加えて、制度が複雑化することに対して懸念の声があるのも事実だ。しかし社会保障制度が破綻してしまえば、日本国民として安心して生活できる基盤の皆保険・皆年金制度は崩壊してしまう。

責任を他世代に押し付けるのではなく、異なる世代同士で制度を支えることで、将来にわたり持続可能な社会保障制度に作り上げていく。そういう考え方に、私たちも変わる必要があるのではないか。それが次世代の未来を明るく照らすことになるはずだ。

Edited by c.lin

注解・参考サイト

注解
※1 2018年度の約121.3兆円から、2040年度は約188.2~190.0兆円。厚生労働省「2040年を見据えた社会保障の 将来見通しについて」による。
※2 65歳以上の高齢者を現在は1.7人の現役世代で支えているが、40年後には1.1人で支える。厚生労働省「いっしょに検証!厚生年金」による。
※3 2009年度の62.3%。厚生労働省年金局数理課「平成21年財政検証結果レポート」による。
※4 2024年度は61.2%。過去30年と同程度の経済状況が続いた場合、2050年代後半には50.4%程度まで低下する。厚生労働省「参考資料」による。

参考サイト
令和7年版 厚生労働白書|厚生労働省
平成23年版厚生労働白書|厚生労働省
全世代型社会保障改革|厚生労働省
全世代型社会保障構築を目指す改革の道筋(改革工程)|厚生労働省
世代内、世代間の公平の更なる確保による全世代型社会保障 の構築の推進|厚生労働省
社会保障制度の変遷|厚生労働省
なぜ今、改革が必要なの?|厚生労働省
全世代社会保障法の成立で何が変わるのか|ニッセイ基礎研究所

About the Writer
倉岡

倉岡 広之明

雑誌記者として活動した後、フリーライターとして独立。さまざまなジャンルの記事を執筆しているが、北海道で生まれ育ったこともあり、自然環境や気候変動、SDGs、エネルギー問題への関心が深い。現在は、住宅やまちづくり、社会問題、教育、近代史など、多岐にわたるテーマを手がけている。
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