
サステナブルファッションが注目されるいま、和装を過去の文化ではなく、現代の選択肢として捉え直してみる。世代を越えて受け継がれてきた理由に迫り、和装が私たちにもたらすウェルビーイングについてひもとく。実家のたんすに眠る一着が、暮らしをより良質なものに変えるきっかけになるかもしれない。
和服は昔の文化?

和服は決して遠い昔の文化ではない。一人当たりの和服の購入数は昭和40年代、すなわち1960~70年代にピークを迎えている。現在70~80代の人々が20代前後だったころ、和装は日常や特別な日の装いとして広く選ばれていた。
成人式や結婚といった人生の節目に、「一着は持っておくべきもの」として和服を仕立てた人も多い。そのため、両親や祖父母世代のたんすには、今も着物が眠っている可能性は決して低くない。
実家のたんすに大切にしまわれた和服は、流行遅れの衣類でも、役目を終えた思い出の品でもない。今なお袖を通すことのできる「使える衣類」である。何かの機会にたんすを開け、思いがけず未知の着物に出合うことがあるかもしれない。
実際に手に取ると、指先に伝わる絹のなめらかな手触りや、光を受けて浮かび上がる奥深い光沢に、思わず息をのむ。花鳥風月を映した文様、日本文化独特の色の重なりは、普段洋服を見慣れている目にはとても新鮮だ。
大量生産・大量廃棄を前提としたファストファッションが主流の現代において、和服は対極の存在である。短いサイクルで消費される衣服とは対照的に、和服は世代を超えて着続けられてきた。
サステナブルファッションが注目される今日、和服を「過去の文化」ではなく、いまを生きる私たちの現在進行形の装いとして、価値を再発見できるのではないか。
世代を越えて着られる理由

和服が世代を越えて着られてきた理由は、長く使い続ける前提の設計と価値観が文化として根づいていたからだ。素材や形、装い方、手入れの方法まで、時間と手間をかけて、無駄なく使い続けることが自然な行為として受け止められてきた。
例えば、流行や体型の変化に左右されにくい仕立てや、頻繁な洗濯を必要としない着用習慣は、衣服を消耗品として扱わない姿勢を支えている。
結果として和服は、世代を超えて受け継がれても古さを感じさせないサステナブルな衣服となっている。これは現代の私たちが、衣類との向き合い方を見直すためのヒントでもある。
仕立て直せる直線の構造
和服が世代を越えて着られる理由は、仕立て直しを前提とした直線的な構造にある。和服は一枚の反物を直線で裁ち、身頃である上前(うわまえ)と下前(したまえ)、衿(えり)などのパーツに分けて縫い合わせていく。
すべてが直線裁ちであるため、糸をほどけば再び反物の状態に戻すことができ、無駄になる部分がほとんどない。この構造は、「作って終わり」ではなく、最初から「何度も作り替える」ことを想定している。
実際、和服は着る人の成長や体格の変化、用途の変化に合わせて仕立て直されてきた。子どもの着物には将来の成長を見越して内揚げが施され、成人後に丈を伸ばして着られるよう工夫されている。
衿など傷みやすい部分の布を入れ替えることで、長く着続けることもできる。こうした仕立て直しは特別な技術ではなく、家庭の中で行われてきた日常的な営みであった。
この直線的な構造があるからこそ、サイズアウトや部分的な傷みは廃棄の理由にはならない。布を解き、整え、再び仕立てれば、使い続けられる一着に生まれ変わる。資源を無駄にしない和服の構造には、現代の私たちが学ぶべき持続可能性の知恵がある。
体型を選ばない「巻く」デザイン
和服の特徴の一つは、布を巻き、紐や帯で留めるという装い方にある。服の形を固定してボタンやファスナーで着脱しやすくするのではなく、身体を包むように巻き、体型に合わせて整え紐で結ぶことで和装が成立する。
そのため、年齢や体型、さらには性別による体格の違いも寛容に受け入れてきた。たとえば体格が変わっても、身頃の重なり幅や帯の位置、「おはしょり」による丈の調整によって全体の印象は整えられる。
和服は身体を包み込む構造であり、「似合う・似合わない」が体型や年齢によって決まりにくい。誰もが、それぞれに美しく見える余地が残されている。
この装い方は、身体を理想の形に近づけることを意識しがちな洋服とは対照的だ。和服は着る人の身体を変えようとせず、そのままを受け止める。巻いて結ぶという行為は、着る人に衣服を合わせる仕組みなのだ。
だからこそ和服は、一着で人生のさまざまな段階に寄り添い、世代を超えて受け継がれてきた。
大切に着る前提
和服が世代を越えて受け継がれてきた背景には、「頻繁に洗わず、丁寧に扱う」ことを前提とした着用文化がある。
多くの和服は絹で作られており、日常的な水洗いや洗濯機での洗浄には向かない。そのため、汚さないように所作に気を配り、着用後は風を通して休ませるという扱い方が基本となってきた。
清潔さを保つ工夫もある。肌に直接触れる下着は綿素材でこまめに洗濯でき、着物の下に着る襦袢の半襟(衿の部分)は汚れやすいので簡単に取り替え可能である。
それでも、着用を重ねて汗や雨などの水性汚れが蓄積した場合には、着物をほどいて反物に戻し、水洗いをしてから再び仕立て直す「洗い張り」という工程がある。一着を解き、洗い、縫い直すという手間のかかる方法だが、絹本来の風合いと光沢をよみがえらせることができる。
頻繁に洗わず、必要な時にだけ手をかけるこの扱い方は、水やエネルギーの使用を抑えることにもつながり、環境面でもサステナブルである。
和服が育むウェルビーイング

和服を着る行為そのものも、心を整える時間になる。和服を装うには、一定の時間と手順が必要だ。姿勢を正して鏡に向かい、襦袢の衣紋(えもん:首の後ろの部分)、着物の丈や衿元を体に合わせながら整え、帯を締める。日常の延長線上にあった気分が、静かに切り替わる。
その「時間をかけて装う」行為は、効率を優先する現代の生活とは異なり、手間がかかるからこそ、着られた満足感や特別感は大きい。また、歩く時には歩幅を小さくし、袖を気にかけながら物を扱うことで所作が丁寧になり、いつもの振る舞いを内側から整える感覚が生まれる。
和服は、どんな人でもその人らしく美しく見せてくれる衣服だ。和服をまとうことで内面と所作が整い、装いを終えた後には心が満たされる感覚が残る。その佇まいは、着る人だけでなく、周囲の空気にも穏やかな彩りを与える。
さらに、前の世代が大切にしてきた着物を受け継ぎ活かすことは、文化を未来へとつなぐ行為であり、自己のウェルビーイングへとつながっていく。新しく買い替え続けるのではなく、すでにあるものを大切に扱い、必要に応じて仕立て直しながら使い続ける。
サステナブルであることに、我慢や制限が必須ではない。心地よさや満足感を伴う選択であれば自然と続いていく。和装を日常にする必要はない。行事や節目の日など、特別な日にだけ和装を選ぶ関わり方でも十分である。
特別な日をいつもより丁寧に過ごすために、和装を選ぶ。その小さな選択が、暮らしの質を確かに高めてくれるはずだ。
Edited by c.lin






















曽我部 倫子
大学で環境問題について広く学び、行政やNPOにて業務経験を積むなかで環境教育に長く携わる。1級子ども環境管理士と保育士の資格をもち、未就学児や保護者を対象に自然体験を提供。またWebライターとして、環境、サステナブル、エシカル、GXなどのテーマを中心に執筆している。三姉妹の母。
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