
安価な家具を買っては捨てる暮らしは、本当に豊かだろうか。奈良県で生まれた家具キット「Do kit yourself」は、吉野ヒノキのパーツを自らの手で組み立て、手入れをしながら使い続ける体験を提供する。自らつくった家具は、ただの「商品」ではなく、共に時を重ねる存在になる。物を育てながら暮らす、新しい関係性がここにある。
“つくる”体験がもたらす、ものとの新しい関係

現代社会では、大半の人にとって家具や道具は「買うもの」である。手頃な価格の既製品が市場に溢れ、少し古くなったり壊れたりすれば、すぐに新しいものに買い替えられる。こうした大量消費・大量廃棄のサイクルは資源を浪費し、地球に大きな負荷をかけている。しかも、家具の素材がどこから来て、どのように作られたのか、その由来を知る機会はほとんどない。
使い捨ての消費習慣に一石を投じるのが、「Do kit yourself(以下、DKY)」の提案する”つくる”体験だ。奈良県東吉野村の椅子専門木工所「維鶴木工(いづるもっこう)」が手がける、プロの職人が使う上質な材料と家具作りの技術を活かした本格的なキットである。
ユーザーは、届いた吉野ヒノキのパーツを自分の手で組み立てていく。自ら家具を完成させる時間は、既製品では得られないものとの深い結びつきを自然と生み出す。例えば、パーツを組み合わせる際、ヒノキの木目や節、手触りといった「素材の個性」に自然と向き合うことになる。
数時間をかけて木材を組み上げ、「ペーパーコード」と呼ばれる紙製の紐を丁寧に編み込んで座面を完成させる。手間暇をかけることで、家具がただの「商品」ではなく、使い手にとって特別な一脚になる。
家具への愛着は、物を長く使う動機となる。これは「サーキュラーエコノミー」の考え方と通じるものである。物を長く大切に使うためには、製品の耐久性が高いだけでなく、使う人が「一生大切にしたい」と思えることが重要だ。DKYは、使う人に「つくる責任」を持たせることで、持続可能な消費行動を自然と後押しする、サーキュラーデザインの優れた事例といえる。
素材と向き合う時間が生む、ヒノキとともに育つ関係

DKYのスツールキットには、良質な吉野ヒノキが使われている。500年以上続く林業の産地、奈良・吉野で育まれたもので、年輪が細かく均一で美しい木肌を持つのが特徴だ。
キットは、ヒノキのフレームと座面で構成されており、椅子のベースとなる吉野ヒノキの木材は、維鶴木工の職人がカットや穴あけといった基本加工を施している。そのため、ユーザーは特別な技術や工具なしで、本格的なスツールを組み立てられる。
ユーザーは、まず吉野ヒノキのフレームを組み立て、木材の温かみや香りに触れながら丁寧に塗装を行う。作業を通じて、ヒノキの木目や節、手触りといった素材の個性が直接、手に伝わる。
フレームが完成した後、時間をかけて取り組むのが座面作りだ。ペーパーコードと呼ばれる紙の紐を使い、専用の穴に通しながら座面に編み込んでいく。編み込み作業だけでも、人によっては6〜10時間もの長い時間を費やすという。
この「つくる時間」こそが、ヒノキという素材の持つ長い命と向き合う機会となる。ヒノキは軽くて丈夫なだけでなく、日本の暮らしに馴染んできた木材であり、1000年以上経っても強度が保たれるほど寿命が長い。
自ら手を動かすことで、ユーザーはヒノキが持つ歴史、そしてその素材の生命力そのものを「まとう」ことになる。自分で作り上げた家具は、使い始めた瞬間から人とともに時を重ね、色合いや手触りを変えていく。それは、家具を「育てる」という、従来の所有観とは異なる新しい関わり方だ。
手入れしながら長く使う、“育てる家具”という価値観

維鶴木工の椅子職人は「愛され続ける椅子」を創ることを目指しているという。しかし、どんなに優れた家具であっても、永遠に壊れない椅子は存在しない。DKYが重視するのは、「壊れないこと」ではなく、「壊れても直すことで使い続けること」である。
DKYの家具は、寿命の長いヒノキを使用し、修復や手入れをしながら長く使い続けられるように作られている。ユーザーは自ら組み立てる経験を通じて、万が一どこかが壊れたとしても、自分で修理する技術を身につけやすくなる。
壊れた家具を「直す」という行為は、家具への愛着を持ち続けながら、使い捨てを当たり前としない暮らしにつながる。長く使うことを前提としたデザインは、使う人に「捨てない暮らし」を自然と意識させる。
DKYでは、ヒノキの塗装や手入れ用のメンテナンスキットが用意されている。定期的にみつろうクリームを塗ったり、ソープで仕上げたりする「手入れの時間」は、家具を年々美しく育てる時間となる。
こうした手入れの習慣は、物を大切にする意思の積み重ねであり、結果的に家具を新しく購入する機会を減らす。家具を長く使い続けることが、循環的な価値観に貢献し、林業や木工産業の持続的な発展にもつながる。
DKYの家具は、人や木が時を重ねて深みを増していくように、年々美しさを増していく。それは、使い手と素材が共に歩む、新しい家具との関わり方である。
Edited by k.fukuda
参考サイト
Do kit yourself
自分の手で時間をかけてつくる家具は、どんな名作家具を買うよりも愛着がわく「Do kit yourself」。|勝山浩二 Coji Katsuyama
2021グッドデザイン賞 椅子 Do kit yourself「スツールキット」|GOOD DESIGN AWARD
Do kit yourself – 維鶴木工|いちじつ
























丸山 瑞季
大学で国際コミュニケーション学を専攻。卒業後はデジタルマーケティングに携わり、現在は難聴児の子育てに奮闘しながら、楽しく生きることをモットーに在宅で働く。関心のあるテーマは、マインドフルネス、ダイバーシティ、心理学。趣味は、食べること、歩くこと、本を読むこと。( この人が書いた記事の一覧 )