フットパスとは?まちづくりとの関係や事例も交えて解説

フットパスとは

フットパス(footpath)とは、森林や田園地帯の自然、歴史的景観などを楽しみながら歩くための小道や散策路を指す。

「path」とは小道・通り道のことで、車や自転車のために整備された「road」と異なり、自然の中の舗装されていない道というニュアンスをもつ。

発祥の地であるイギリスでは全国にフットパスが整備され、美しい村々や自然の中をフットパスで巡ることができる。これらの道を歩くことで、イギリスの伝統的な風景や文化に触れられるのだ。

公有地・私有地を問わず利用者が通行する権利を認められているため、農場や自宅の敷地内を通る場合もあり、イギリス人の間にはフットパスを大切にする文化が共有されていることが窺える。

このようにフットパスは、地域の自然や文化、歴史を身近に感じながら歩くことができる貴重な観光資源である。また、地域活性化や健康促進の手段としても注目されており、日本各地でも地域の特徴を活かしたフットパスが整備されている。

歩く権利とフットパス

フットパスとは?まちづくりとの関係や事例も交えて解説

イギリスのフットパスは、「歩く権利」と深い関係がある。電車や自動車が登場する以前は、一般の人々の多くは徒歩で移動していた。

昔から人は、農業生産、経済活動、社交やレクリエーションのために道を使って自由に移動している。しかし、18〜19世紀の土地の囲い込み(エンクロージャー)により道が私有地化され、一般の人々が通れなくなる事態が生じた。これに対し、市民たちは歩く権利を求めて運動を展開し、1932年に制定されたのが「歩く権利法(Right of Way Act 1932)」である。
さらに2000年には、カントリーサイド・歩く権利法 (Countryside and Rights of Way Act 2000)によって歩く権利の範囲が広がっている。地図で表示されている山や荒地、丘などのオープンスペースや入会地は、誰でも歩けることになった。

イギリスでは、土地の所有者だけでなく、旅行者も含めすべての人が自然を共有し、レクリエーションや運動のために自由に歩き回る権利が保障されている。

フットパスのマナーと注意点

フットパスを安全かつ快適に利用するためには、マナーや注意点を守ることが大切だ。また、日本国内では私有地に立ち入ることは、法的に許されているわけではない。以下に気をつけたいポイントを紹介する。

事前準備

  • 歩行前にフットパスのコースマップを入手し、経路やトイレの位置などコース全体を把握する。
  • 野生生物との遭遇リスクなどについて情報を収集しておく。
  • 天候を確認し、場合によっては無理をせず、計画を変更する。

歩行中のマナー
すれ違う人々や地域の方々には、笑顔で挨拶をする。自然環境を保護するため、

  • ゴミは必ず持ち帰る。
  • 動植物や田畑の作物、草花などを採取しない。
  • 田畑や樹林地、屋敷地などの私有地には立ち入らない。

安全対策

  • 自分の体調に合わせて無理のないペースで歩き、こまめに休憩や水分補給をする。

フットパスを利用するすべての人が、安全で快適に自然や地域の魅力を楽しめるよう、マナーを守って利用したい。

フットパスとまちづくり

フットパスとは?まちづくりとの関係や事例も交えて解説

フットパスをまちづくりに取り入れることで、地域の活性化や住民の健康促進に繋がる可能性がある。フットパスの整備により、地域の自然や歴史的景観を保全しつつ、住民や観光客が安全かつ快適に散策できる環境を提供することができるからだ。

また、フットパスは住民同士の交流の場ともなるため、コミュニティの強化にも寄与する。さらに、車道とは異なる歩行者専用の空間を創出するため、子どもや高齢者が安心して歩ける点でも価値は大きい。

地域の魅力が向上し、住みやすさが高まれば、まちの活性化や観光による経済効果も期待できるだろう。

イギリスにおける調査結果では、沿岸部にある人気の高いフットパスの利用に関連して、約670億円(1ポンド=191円換算)を超える経済効果があったとされている。

具体的には、日帰り旅行者は地域の店などで1日平均1,600円、宿泊旅行者は平均7,000円を消費していることが明らかになった。これは、地域で5,900人以上のフルタイム雇用を支えることができる計算である。

フットパスは個人的な健康増進や楽しみのためだけではなく、都市部と農村部、地域と地域を繋ぐ力があり、多くの波及効果を及ぼして活性化をもたらす。

以上のように、フットパスをまちづくりに活かすことができれば、住民の生活の質を向上させ、地域資源による活性化を実現できる可能性がある。

フットパスの事例

少子高齢化や都市部への人口集中により、地域の活性化が大きな課題となっている現在、地域の魅力づくりに取り組む新たな観光スタイルが、地域活性化策として求められている。

また、観光客が求める旅の内容も変化しつつある。有名な史跡や名所を巡るだけでなく、地域の自然や歴史に触れ、地元にもメリットを還元するサステナブルツーリズムリジェネラティブツーリズムが注目されている。

フットパスの整備は地域の魅力を引き出すことができ、体験や交流を生む場となり得るため、今求められている地域おこしや観光のニーズに合致する部分が少なくない。

ここでは、フットパスを取り入れている自治体の自治体の事例を紹介する。

北海道ニセコ町

ニセコ町は、その美しい自然景観と豊かな歴史を背景にフットパスを整備し、訪れる人々に多彩な魅力を提供している。
フットパスは、JRニセコ駅を起点とする「開拓・歴史を想う道」「文学・歴史の散歩道」「市街地ショートコース」の3コースである。利用者は自分の興味や体力に合わせてコースを選択し、ニセコの多面的な魅力を体験できる。

開拓・歴史を想う道
全長10.2km。曽我地区の開拓と歴史を感じながら田園風景を巡るコース。

文学・歴史の散歩道
全長10.6km。旧有島農場や町の歴史の跡、第2カシュンベツ川沿いを歩く。羊蹄山やアンヌプリ連峰の眺めを楽しめるコース。緑豊かな環境のもと、自然を感じる未舗装の道も多い。

市街地ショートコース
全長2.4km。大正時代に開通していた軌道線をたどり、市街地から桜ケ丘を経て駅に戻るコース。

フットパスの利用は、地域の魅力を掘り下げる機会となり、体験を通して地域への理解と愛着を深めることができる。ニセコフットパス協会は、ルートの選定や維持管理、マップの配布などを通じて、フットパスの普及と活性化に取り組んでいる。

東京都町田市

町田市は昔ながらの里山風景や雑木林、田畑、古街道、歴史の面影など、多彩な自然と文化資源を有しており、これらを活かしたフットパスコースが整備されている。
フットパスは約5〜8kmの22コースあり、初心者から上級者まで楽しめる多様な内容となっている。利用者は、個々の興味や体力に合わせてコースを選択し、町田の多面的な魅力を体験することができる。
町田市は、長年多摩丘陵を中心にフットパス活動を行っているNPO法人みどりのゆびと協働し、フットパスの普及と活性化に取り組んでいる。
NPO法人みどりのゆびは、定期的にフットパスイベントを開催しているほか、市と協働でコースの詳細と魅力を伝える「まちだフットパスガイドマップ」を発行した。
コースの一つである小野路の里山では、地域外から訪れる多くの人に素晴らしさを讃えられることで、地元の住民が地域の価値に気づくとともに、まちづくりに繋がっている。

小野路宿まちづくり協議会は、小野路宿の宿場の復元や元名主屋敷の拠点化などを進め、通りの両側の水路や黒塀、屋号など、往時の様子が再現された。また、小野路宿の旧旅籠「角屋」が交流の拠点として再整備され、「小野路宿里山交流館」となっている。

山梨県甲州市

甲州市は、豊かな自然景観と歴史的遺産を有し、その魅力を体感できるフットパスを整備している。また、イベントなどを通じて「ウォーキングのまち甲州市」を県内外に発信し、健康づくりを推進している。

市内には、神社仏閣や武田家ゆかりの史跡、ワイン醸造に関わる近代産業遺産など、多彩な見どころが点在している。個性豊かな町並みをフットパスでゆっくりと散策して、地域の歴史や文化に触れることができる。

モデルコースは次の8コースである。

甲州市では、フットパスとウォーキングを通して観光資源を発掘して磨きをかけることで、従来の消費型観光から脱却し、観光まちづくりを進める施策を展開している。

まとめ

フットパスは観光で訪れる人のレジャーや健康増進だけでなく、地域の人にも影響を及ぼす。人間本来のスピードである歩く移動は、地域の魅力をより深く体験し、人との触れ合いを生むきっかけとなる。

大都市圏への人口流出や人口減による自治体の消滅が課題となる中、フットパスは魅力ある住みやすいまちづくりや、外部との交流による活性化を実現する鍵となるかもしれない。

旅行を計画する際には、フットパスやウォーキングコースを利用して自然や歴史を堪能し、歩いてみなければ分からない地域の魅力を見つけてみてはいかがだろうか。

参考記事
イギリスにおけるウォーキングの取組事例と地域へ の貢献について
Ramblers|A brief history of public rights of way
西興部村の歩く小径(こみち) 
注意事項 | 会津フットパス
日本フットパス協会
町田市ホームページ
NPO法人みどりのゆび|フットパスによるまちづくりの公式

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曽我部 倫子
大学で環境問題について広く学び、行政やNPOにて業務経験を積むなかで環境教育に長く携わる。1級子ども環境管理士と保育士の資格をもち、未就学児や保護者を対象に自然体験を提供。またWebライターとして、環境、サステナブル、エシカル、GXなどのテーマを中心に執筆している。三児の母。