カラリズムとは?問題点や日本における対応などを解説

カラリズムとは

カラリズム(Colorism)とは、肌の色に基づく差別を指す。白人による黒人差別のように人種や民族による肌の色の違いではなく、肌の色の濃さや薄さ、明るさ、暗さなどが対象だ。

一般的には肌の色が明るいほど優位に扱われ、暗いほど不利に扱われる。そのため、カラリズムは黒人同士、白人同士、アジア系人種同士、ラテンアメリカ系人種同士など同じ人種や民族の間でも起きることがある。アメリカやカリブ海地域、アフリカのほか、ラテンアメリカやアジアなどの国々に存在するといわれている。

カラリズムの起源

カラリズムが浸透した背景には奴隷制と植民地支配がある。起源は、大西洋奴隷貿易が隆盛を極めた18〜19世紀に遡る。アメリカの奴隷所有者は奴隷の黒人女性と性交することがあったが、多くの場合その対象となったのが肌の色が薄い奴隷だった。混血児は肌の色がさらに明るくなることがあり、結果として子どもが生まれた場合も優遇されたという。。教育を受けさせたり、屋内での仕事に従事させることが多く、過酷な労働から逃れることができたようだ。

一方、ヨーロッパでは肌の白さが社会的地位の高さを示した時代がある。肌が白いことは、屋外で働いていないことの証となったからだ。カラリズムがアフリカやアジアなどの国々に拡散したのは、こうした悪しき習慣を持ったヨーロッパ諸国が植民地支配を拡大していったことが背景にある。

世界におけるカラリズム

カラリズムによる問題は世界各国で顕在化しているが、1900年から1950年頃までアメリカの主要都市で行われていたとされる「ブラウンペーパーバッグテスト(茶色い紙袋テスト)」は特に知られている。黒人の中でも茶色い紙袋より肌が明るい人だけが、教会や社交クラブなどに入場できるという、カラリズムを象徴する歴史の一つだ。

アメリカでは黒人以外にも、白人でありながら肌の色が暗いイタリア人やギリシャ人が差別の対象になることもある。またラテン系アメリカ人の有名なハリウッド俳優は、「肌が白いことで仕事を得られている」と発言したことがある。ケニア人の両親を持つ俳優も、テレビに出演した際に「テレビで見るには暗すぎる」と言われたと、自身の体験を話している。

アメリカ以外では、ハイチやドミニカ共和国、ジャマイカといったカリブ海諸国で、カラリズムが根強く存在している。中でも、植民地時代にアフリカから奴隷として連れてこられた黒人の子孫が人口の90%を占めるジャマイカでは、肌の色が薄い「ライトスキン」の方が昇進に有利とされる。これは、肌の色が薄い奴隷ほど高い値段で取り引きされたという歴史の影響が残っていることが原因であると指摘されている。

アジアにおけるカラリズム

アジアにおけるカラリズムも、ヨーロッパ諸国による植民地支配の影響が大きい。例えば、イギリスの植民地であったインドでは、肌の色が暗いほどカースト制で下層に位置づけられた。

現在もカラリズムが色濃く残り、大きな問題となっているのがフィリピンやマレーシア、タイ、インドネシアといった東南アジアの国々だ。映画やドラマでは明るい肌の俳優がキャスティングされる傾向が強いほか、一部地域では肌の色が結婚相手の選定基準になるともいわれている。このことから、「白い肌は魅力的」という価値観が、今も根強く残っていることがうかがえる。特に階級格差が明確なフィリピンでは、白人との混血である「メスティーソ」の階級が上層に位置している一方、肌が茶色い先住民は下層に位置づけられている。

このようにアジアの一部の国では肌の色が薄いあるいは明るい方が社会的地位が高い傾向があるため、美白クリームやスキンブリーチ製品といった美白化粧品が広く利用されているのも特徴だ。

市場でのカラリズム

「肌は白い方が美しい」というイメージは世界中に定着しており、美白化粧品市場は拡大の一途をたどっている。世界の市場規模は2023年時点で92億2000万ドルとされ、2032年までに164億2000万ドルに成長すると予測されている。日本でも同様に拡大しており、2023年の美白スキンケア市場は2,696億円で、前年に比べて5.9%増となっている。

その一方、「カラリズムの存在を助長する」「肌の色による偏見を肯定する」として、美白化粧品に対する批判の声も上がっている。また、健康に被害を及ぼす可能性のある水銀などが使われていることを指摘する発信も数多くされるようになった。

こうした批判の声に、いち早く対応したのは、大手化粧品メーカーであるユニリーバやジョンソン・エンド・ジョンソン、ロレアルなどの企業だ。商品や広告などに「ライトニング」や「ホワイトニング」など美白を想起させる言葉の使用を取りやめ、アジアや中東などでは美白化粧品の生産および販売を中止した。

日本でも問題視する声を受け、大手化粧品・消費財化学メーカーの花王が、2021年3月に国内化粧品会社として初めて「美白」の撤廃を決定している。

カラリズムの問題点

人種や性別などを含むすべての差別にいえることだが、本来は能力の差がないにもかかわらず差別が起きてしまう理由には、ゆがんだ先入観が働いてしまうことが考えられる。

具体的には、カラリズムが存在していることで、以下のような問題点が報告されている。

  • 肌は白い方が美しい、優れているという歪な認識が広がる
  • 雑誌やテレビなどで肌の色が明るい人が取り上げられる
  • 肌が白い人だけ褒められる
  • 肌が明るい方が昇進や採用の際に有利になる
  • 自分の肌の色に対して劣等感を抱く
  • 美白にするための化粧品の使用や美容施術を求めるようになる、など

「肌は白い方が魅力的」や「肌は明るい方が美しい」というイメージが定着することによって、肌の色が暗い人はすべてにおいて下に見られてしまう。そのように社会全体がカラリズムを肯定することで、自分のルーツを否定したり、「差別を受けている」と感じる人が増えるといった問題点が指摘されている。「差別を受けている」と感じる人が増えるといった問題点が指摘されている。

カラリズムに関する調査結果

カラリズムによる影響を把握するため、各所で調査や研究などが行われている。例えば、アメリカの世論調査機関「ピュー・リサーチ・センター」が行った研究では、調査対象となったラテン系アメリカ人の半数超が、自身の肌の色が出世につながった、もしくは阻害されたと感じていると報告した。また、2011年にビラノバ大学(アメリカ・ペンシルベニア州)が発表した研究では、裁判での判決の厳しさと肌の色との間に直接的な関係があるとした。

またWHO(世界保健機関)が2019年に公表したレポートによると、美白化粧品は世界中で使用されているが特にアフリカやアジア、カリブ海諸国の多くで使用され、アジア、カリブ海諸国では特に広く使用されている。また、女性だけではなく男性にも使用されている。

カラリズムへの抗議活動

黒人差別に対する抗議活動にはBLM(ブラック・ライブズ・マター)運動をはじめ様々なものがあるが、カラリズムに対しては黒人のアイデンティティを肯定するような運動も多い。その一つが「ナチュラルヘア運動」だ。

この運動は、カラリズムに同調する形で拡大する「ストレートヘアこそ美の象徴」という風潮への抗議として行われている。1960年代の黒人解放運動(ブラックパワー運動)の頃から黒人の人権を尊重する意味で行われており、白人特有のサラサラな髪の毛ではなく生まれたままの髪の毛を受け入れるという意味が込められている。

また、「肌の色に関わらずすべての人が平等に扱われるべき」という考えも広がりを見せている。特に美白化粧品の使用が拡大するアジアでは、過剰な使用に対する批判も多い。中でもインドでは「DarkIsBeautiful(黒い肌は美しい)」といったハッシュタグで、インフルエンサーなどが美白化粧品に対する反対意見をSNSで発信している。

日本におけるカラリズムへの対応

日本において肌の色が大きくクローズアップされたのは、絵の具や色鉛筆、クレヨンの「はだいろ」だ。世界には様々な肌の人がいるため「はだいろ」の固定観念につながるという指摘を受けて、トンボ鉛筆、三菱鉛筆、サクラクレパスが対応を協議した。その結果、現在では「はだいろ」という呼称が撤廃され、「うすだいだい」や「ペールオレンジ」、「明るいベージュ」といった色名がつけられている。

また2021年には、ファミリーマートがプライベートブランド商品に「はだいろ」と表記して販売したことで、商品を撤去する騒動があった。フランチャイズチェーン加盟店や社員から「不適切な表現」との声が寄せられ、女性向けのキャミソールやショーツなどの6商品の自主回収を行っている。

私たちにできること

日本人は差別に対する意識が薄い人が少なくないが、それは自分が差別を受ける機会が少ないという背景がある。例えば「はだいろ」の呼称変更に際しても、差別の意図はなく「言葉狩りだ」という反対意見もあがった。しかし、差別につながる表現に関しては敏感になる必要があるだろう。無用なトラブルを避け、改めるべきは改めるといった賢明な姿勢を身につけたい。

「肌が明るい=美の象徴」というイメージは、科学的根拠のない思い込みでしかない。しかしその思い込みによって誰かを傷つけている、誰かが生きにくさを感じている可能性があるのであれば、それを改めるのは当然と考えられる。

まとめ

カラリズムとは、肌の色の濃淡に基づく差別のことだ。一般的には肌が白い方が優遇され、肌が暗いと冷遇されることになる。世界中で見られる差別で、奴隷制や植民地支配の名残りといわれている。

しかし、人間は肌の色によって能力に差があるという科学的な裏付けはなく、肌の色の濃淡によって優劣を決めるのは間違いだという認識を改めて持ちたい。多様性の時代においては、人種や民族、性別、肌の色、ルーツの違いも含めて、すべて同じ人間であることを忘れないことが重要だ。

参考記事
美白製品の市場規模、シェアおよび業界分析|Fortune Business Insights
2024年美白スキンケアの市場分析調査|TPCビブリオテック
同族内のColorism(カラリズム)と美白化粧品|SlofiA

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倉岡 明広
北海道在住。雑誌記者として活動後、フリーライターとして独立。自然環境、気候変動、エネルギー問題などへの関心が強い。現在は、住宅やまちづくり、社会問題、教育、近代史などのジャンルでも記事を執筆中!