ゼノフォビアとは?ナショナリズムとの関連やその危険性について解説

ゼノフォビアとは?

ゼノフォビア(Xenophobia)とは、国籍が異なる人や異なる文化・習慣に対して抱く嫌悪感や恐怖のこと。日本語では「外国人嫌悪」や「外国人恐怖症」などと言われる。理解不足や偏見が原因で起こるとされ、差別とは異なる世界共通の自然な感情として捉えられる。

しかし近年は、強い憎悪や軽蔑を含んだ言葉として用いられることが多く、差別や分断、排除に通じるとして各国で社会問題となっている。

ゼノフォビアが拡大する要因として、グローバル化の中で多様化が進んでいることが指摘される。特定のコミュニティーの中で異質な存在が拡大することで、現状の生活が不安定化することで、特に先進国においてゼノフォビアが拡大する傾向がある。

ゼノフォビアの語源

ゼノフォビアは、ギリシャ語のxeno(外国人、見知らぬ人)とphobos(恐怖)を組み合わせた造語だ。1900年に中国で起きた「義和団の乱」を、フランスの新聞が「xénophobe movement(外国人排斥運動)」として伝えたのが「ゼノフォビア」のきっかけとされる。

この言葉の語源となっているギリシアは、バルカン半島の突端に位置しており、ヨーロッパ、アジア、アフリカの3つの地域につながる。様々な民族が訪れたことから、異国人に対する強い警戒感がギリシアで生まれた。

なお、「フォビア」は恐怖症を表す言葉として、1800年代後半から心理学者の間で広く使われるようになった。閉所恐怖症を表すクロストロフォビア(claustrophobia)、高所恐怖症を意味するアクロフォビア(acrophobia)などが代表だ。

ゼノフォビアが広がる背景

ゼノフォビアが拡大する原因は国や地域などの特性によるが、代表的な3つの背景について解説する。

移民問題

ヨーロッパでゼノフォビアが拡大した背景は、主に移民問題にある。近隣国で発生した内紛などによって移民や難民が自国に流入し、その数が増大し、文化や生活習慣、ルールに乱れが生じると社会的な変化が生まれてしまう。

特に大きな出来事は2015年に起きた「欧州難民危機」だ。1年間で100万人を超える難民がヨーロッパに流入したとされ、ドイツ、フランス、イギリスなどでは移民受け入れに反対する動きが活発化した。ハンガリーのように隣国との国境に鉄条網を設置した例もある。

またアメリカのトランプ大統領は、非正規移民の流入が治安の悪化を招いているとして、メキシコとの国境の壁の強化に向けた政策を掲げている。

インバウンドの増加

ゼノフォビアは、オーバーツーリズム批判から派生することもある。日本におけるゼノフォビアの拡大も、外国人観光客が著しく増加していることとの関連が否定できない。

2024年の年間外国人観光客数は3,686万9,900人で過去最多を記録した。それに伴い来日外国人の犯罪も増加しており、2023年の来日外国人の摘発者数(刑法犯)は前年比14・4%増の5,735人となった。

ただし犯罪だけではなく、外国人観光客の行動そのものがゼノフォビアを引き出しているとも考えられる。ごく一部の観光客による行動によって、外国人観光客は「マナーが悪い」「どこでも騒ぐ」「声が大きい」といったイメージがつくこともある。あるいは、受け入れ側の認識及び理解不足がゼノフォビアの原因となることもある。

極右政党の台頭

極右政党の台頭によって、ナショナリズムとゼノフォビアが一体化して拡大していることも、近年の傾向の一つと言える。

極右政党を支持する国民には、移民政策に対する不満や不安があるとされる。移民が流入した当初は低賃金の肉体労働しか仕事はなかったが、次第に専門職やホワイトカラーに就く移民が増えていった。これに対して、自分の収入や生活が脅かされるといった不安が高まったとされる。本来受けられるはずの福祉サービスが、受けられなくなる懸念が広がっているという報告もある。

なお極右政党が議席を伸ばしている国では、国境管理の強化や不法移民の強制送還というように移民政策が厳格化されつつある。極右政党の台頭の影に、ゼノフォビアが浸透している様子が垣間見える。

世界で広がるゼノフォビア

世界のゼノフォビア

2016年、ゼノフォビアが大きく注目された。オンライン辞書のDictionary.comが毎年発表する「Word of the Year(今年の言葉)」でも、2016年は「ゼノフォビア」が選ばれた。

契機のひとつは、イギリスがEU(欧州連合)から離脱を表明したことに対して、ゼノフォビアとナショナリズムの存在があるという論争が巻き起こったことだ。また、アメリカ大統領選の際に、オバマ大統領がトランプ候補に対して「やり方は移民排他的で、ゼノフォビアと言える」という発言したこともゼノフォビアがこの年注目された理由としてあげられる。

多民族国家であるアメリカでは、度々ゼノフォビアに関する論争が起きる。MLBで活躍する大谷翔平選手に対して発せられたジャーナリストの発言がゼノフォビアに当たるとして批判を受けた例もある。最近では、2024年5月にアメリカのバイデン大統領(当時)が「日本とインドにはゼノフォビアがあり、移民を受け入れたがらない」と発言したこともあった。

またロシアでは、2024年3月にモスクワ郊外のコンサート会場で起きたモスクワテロがきっかけとなりゼノフォビアが拡大した。中央アジアのタジキスタン出身者による犯行と判明すると、「外国人は排除すべき」という風潮が広がった。これに対して「テロと国籍は関係ない」とゼノフォビアに対する批判的な声も聞かれている。

日本の中のゼノフォビア

日本は島国で隣国との接点が少なく、人種の多様性が少ない。そのため「外国人とどう接していいのかわからない」という人が多い。それが結果的にゼノフォビアにつながっていると考えられる。時には、政治家によってゼノフォビアにあたる発言がされることもある。

現在では、埼玉県を中心とするクルド人問題に対するゼノフォビアも注目されている。生活ルールの違いが顕著に現れており、難しい問題として存在している。

ゼノフォビアの危険性

ゼノフォビアの大きな問題点は、差別感情が高まることだ。知らない人を恐れるという人間本来の感情ではあるが、恐怖感がコミュニケーションの断絶につながる危険性がある。特定の国籍や人種に対する偏見が生まれ、それが差別につながることも否めない。

こうした差別感情はじきに排他的思想につながり、最悪の場合は暴力を伴うヘイトクライムが起きる可能性もある。事実、南アフリカ共和国ではゼノフォビアに基づく外国人襲撃が度々起きている。

一方、自国を中心とするナショナリズムと、外国人を排除するゼノフォビアは一体化する事例が多く、国内が二分される危惧もある。さらに国家間で主張や立場が異なることも問題視される。緊張や対立が生じ、国際交流の妨げになる可能性も指摘されている。

注目される異文化コンピテンシーの重要性

注目される異文化コンピテンシーの重要性

グローバル化によって外国人観光客や留学生、外国人労働者などが増加する中で、重要なスキルが異文化コンピテンシーだ。異なる文化背景を持つ人々と適切で効果的なコミュニケーションを取るために必要な能力のことで、ゼノフォビアの拡大を回避するのに有効とされる。日本では、「異文化対応力」「異文化間能力」「カルチュラルコンピテンシー」「CQ」などとも言われる。

異文化コンピテンシーを高めるには文化的な違いを認め、異なる価値観を受け入れることが欠かせない。そのためには異文化を知ること、触れること、そしてその中で生活するといった経験が重要だ。外国人観光客が増えている日本の現状は、異文化コンピテンシーを高めるのに絶好の機会と捉えることもできる。

まとめ

ゼノフォビアは自分の生活圏を脅かす、異国の人々や文化に対する嫌悪感や恐怖を表す言葉だ。日本では「外国人嫌悪」や「外国人恐怖」などと言われる。近年、グローバル化や多様化が進む反面、自国中心思想が強化されることで各国で外国人排斥心理が強くなっているとされる。

ただし、ユネスコ世界宣言では「あらゆる思想の言語・表象による自由な交流を確保する一方で、すべての文化が、表現と普及の機会を与えられるよう注意を払わなければならない。」(第6条)としている。

価値観や習慣が異なる人々に対する嫌悪感は人類共通のものであるが、異なる文化や価値観との出会いを歓迎できる世界でありたいものだ。

参考記事
外国人との共生社会の実現に向けた取組と課題|出入国在留管理庁
【避難民と多文化共生の壁】外国人が共生・活躍できる社会づくりは、なぜ必要か。ウクライナ避難民支援で見えてきたこと|日本財団ジャーナル

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倉岡 明広
北海道在住。雑誌記者として活動後、フリーライターとして独立。自然環境、気候変動、エネルギー問題などへの関心が強い。現在は、住宅やまちづくり、社会問題、教育、近代史などのジャンルでも記事を執筆中!