デミロマンティックとは?
デミロマンティック(別名デミロマンティシズム)とは、相手に慣れ親しみ、親密な関係性を徐々に構築していく中で、感情的に相手を好きになって初めて恋愛感情を持つ、という恋愛的指向だ。
「相手に慣れ親しんで、感情的に惹かれてから初めて恋愛感情を持つ、って誰でもそうじゃないの? 知らない人を好きになれないし」と思う人もいるかもしれない。
しかし、誰しもが感情的に相手を好きになってから恋愛感情を持つわけではない。中には、相手と会話をする前に一目惚れで好きになったり、よく知らない人に恋心を抱いたりする人もいる。だが、デミロマンティックの人にとっては、一目惚れをすることはあり得ない。
デミロマンティックは恋愛できない?デミロマの恋には時間が必要
デミロマンティック(略してデミロマ)の人は、相手と深い信頼や友情を築くまで恋愛的な感情が生まれない。そのため、他者に対してすぐに恋愛感情を抱くことはない。
デミロマンティックだからといって恋愛が難しいというわけではないが、一目惚れができる人に比べると、時間が必要なことは明らかだ。
特定の相手に深い絆を感じた時だけ恋愛感情が芽生えるため、恋愛のプロセスがゆっくり進むケースも珍しくない。デミロマンティックの人は恋愛はできるが、「会ったその瞬間に恋をする」ことはないのだ。
デミロマンティックとデミセクシャルの違い

デミセクシャルとは、深い感情的な繋がりがなければ、性的欲望を抱かない人のことであり、性的指向を指す言葉だ。デミロマンティックは、デミセクシャルと似た概念だが、恋愛的指向を表している。
つまり、性的指向を表すデミセクシュアルは、深い感情的な繋がりがなければ、性的に惹かれない人のことを指す。一方で、恋愛的指向を表すデミロマンティックは、深い感情的な繋がりがなければ、恋愛的に惹かれない人のことを指す言葉だ。
恋愛的指向と性的指向は混同されやすいが、別物
恋愛的指向と性的指向は、混同されやすいので、分けて考える必要がある。
例えば、恋愛的指向が異性愛で、性的指向が同性愛、という女性がいたとする。その場合、その女性は、男性に恋をするけれど、性的行為をしたいと思うのは女性になる。
同様に、デミロマンティックの人が必ずしもデミセクシュアルとは限らない。例えば、恋愛相手には感情的な繋がりが必要だけれども、性的に惹かれる人には感情的繋がりが必要ない人もいる。逆もまた然りで、デミセクシュアルの人が必ずしもデミロマンティックだとは限らない。性的に惹かれるためには感情的な繋がりが必要だが、恋愛的には不必要なため、一目惚れをするケースもある。
恋愛的指向・性的指向は普遍ではない
気をつけなければならないのは、恋愛的指向や性的指向は普遍ではない、という点だ。
例えば、異性を恋愛的・性的に好きだった人が、ある人と出会って同性愛者になる、というケースはあり得る。
同様に、長年デミロマンティック・デミセクシュアルだった人が、ある日突然一目惚れをするケースもあるだろう。恋愛的指向や性的指向にはさまざまな名前が付けられており、その名前が自己理解を深めることは大いにあるだろう。しかし、一度自認した恋愛的指向や性的指向が普遍のものだと考えてしまうと、実態とかけ離れていく可能性もある。
恋愛的指向・性的指向は生涯変わらない人もいれば、変わる人もいるのだ。
デミロマンティックとアロマンティックの違い
デミロマンティックとアロマンティックは混同されやすいが、異なる指向だ。アロマンティックは、恋愛的な感情を抱かない人を指す。一方、デミロマンティックは、感情的な絆を形成した場合には恋愛感情を抱く可能性がある。
つまり、アロマンティックの人は基本的に恋愛感情を持たないのに対し、デミロマンティックの人は特定の条件が揃えば恋愛感情を持つことがあるのだ。
デミセクシュアルは誤解されやすい
デミセクシュアルは、性的惹かれをあまり経験しないため、アセクシュアルに近い性的指向だとされ、「グレーA(グレーアセクシュアル)」と呼ばれることもある。
一方、アセクシュアルを性的指向として尊重する人でさえ、デミセクシュアルを軽んじるケースがある。
「デミセクシュアルは、自分が深淵であり、生きている人なら誰でも性的行為の対象にするような人間ではないと示したい普通の人によって使われる自己正当化の言葉に過ぎない」と批判する人もいる。
デミセクシュアルを自覚している人の中には、「自分が普通の人とは違う特別な存在」と主張しているに過ぎない人だと思われることを避けるために、あえてデミセクシュアルという言葉を避け、「性的に惹かれるには時間がかかるタイプ」だと説明する人もいる。
デミロマンティックについて知る方法
デミロマンティックやデミセクシュアルについてもっと知りたい場合、いくつかの方法がある。
本を読む
現在、デミロマンティックやデミセクシュアルについて日本語で書かれ専門的に学べる書籍はほぼ存在しない。
しかし、アロマンティックやアセクシュアルについて書かれている書籍の中に、デミロマンティックやデミセクシュアルについての記述が見られるケースは少なくない。以下の二冊では、デミロマやデミセクに関する記述が見られ、性的指向や恋愛的指向の多様性について理解を深めることができる。
★『ACE アセクシュアルから見たセックスと社会のこと』アンジェラ・チェン著 羽生有希訳(左右社)
★『アセクシュアルのすべて 誰にも性的魅力を感じない私たちについて』ジュリー・ソンドラー・デッカー著 上田勢子訳(明石書店)
オンラインコミュニティに入る
SNSやオンラインのコミュニティを活用することで、当事者の声を聞いたり、経験をシェアしたりすることができる。
ただし、恋愛的指向や性的指向はプライベートな情報でもあるので、ネット上にどれくらいプライベートな情報を載せるのか、しっかり検討する必要がある。
セミナーに参加する
近年、日本においてもLGBTQ+に関する理解が進んでおり、性的指向やロマンティック指向について学べるイベントやセミナーが増えている。気になるイベントやセミナーに参加することで、学びを深めることも可能だ。
さいごに。自分の性的欲望、恋愛的欲望を知る
比較文学の教授ルネ・ジラールは「全ての人は、他者の欲望を模倣する」と主張した。人々がエルメスのカバンに100万以上払っても買いたくなるのは、「みんなが欲しがっているのを見たから」であり、結婚式や結婚指輪を夢見るのは「結婚式や結婚指輪は女子の憧れだ、と女性誌が宣伝したから」だとルネ・ジラールはいう。
ルネ・ジラールの理論は、恋愛的指向や性的指向にも当てはまる。自分の恋愛的指向や性的指向が誰かの、何かの模倣である可能性はゼロではない。
デミロマンティックを含む多様な恋愛的指向について知ることは、他者を理解するだけでなく、自分の欲望について「それは本当に自分の欲望か、他者の模倣ではないか」を探る一助となるだろう。
参考書籍
『ACE アセクシュアルから見たセックスと社会のこと』アンジェラ・チェン著 羽生有希訳(左右社)
『アセクシュアルのすべて 誰にも性的魅力を感じない私たちについて』ジュリー・ソンドラー・デッカー著 上田勢子訳(明石書店)
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